カクヨム転生! ~全てがカクヨムで評価される世界なら無双できるはず~
秋田健次郎
第1話 転生ってマジで?
ノートPCの画面から放たれるブルーライトが瞳に吸収されていく。
「私のフォロワーはやっぱりざまあ系が好みなのか。チートなしのファンタジーにしたのはミスったな」
口に出すことで、自らの思考を整理する。
今月の頭から連載を開始した新作に付けられている星の数は15話を投稿した時点で120。PV数も過去作品と比較して明らかに伸びが悪い。特に1話から2話にかけての離脱者が多すぎる。これは、私の過去作を見てフォローしてくれた人たちの好みに合致していなかったことを意味している。
「エタらせるか……」
エタるとは小説投稿サイトで用いられる用語で、作品の更新が永久に止まることを指している。エタっている小説の大半は単純に作者が挫折した結果だが、大手の投稿者の場合、伸びの悪い作品を意図的にエタらせることがある。伸びの悪い作品の連載を続けても作者にとってメリットがないからだ。
私はワークスペースからダッシュボードを開き、過去作品のデータを眺める。
初めてカクヨムに投稿した処女作は星が4000弱、PV数は約30万。二作目は星が1万と少し、PV数は120万ほど。こっちはまだ連載中だから、もっと数字は伸びる。
自画自賛になってしまうが、正直、小説を書き始めて一年目の高校生としては天才の部類に入ると思う。私には小説を執筆する天賦の才があったのだと思わざるを得ない。
そして、そんな自負と共に書き始めた新作で私は選択を誤ってしまった。傲慢さが判断力を鈍らせてしまったのだろう。趣味全開の硬派なファンタジー作品である新作には、文章付きのレビューがいまだに一つも投稿されていない。応援コメントでさえ常連からの数件のみだ。しかも、その応援コメントさえ、なんとも言葉に詰まっている雰囲気を感じる。
私は、新作をエタらせる決断を下し、本命である二作目の方の執筆を始めた。
深夜二時の自室にキーボードの打鍵音だけが響いている。脳内で自由に動き回る登場人物たちの言動を文字に書き起こしていく。
私はなぜか深夜の方が筆が進んだ。学校に通えていたころは、翌日の授業に支障をきたすため、ある程度のところで切り上げていたが、今となってはそんな心配もいらない。
ふと、学校の教室で感じていたドロッとした空気がフラッシュバックする。執筆にとってノイズでしかないそんな感情を振りほどくために、引き出しからカフェインの錠剤を数粒取り出すと、それをエナジードリンクで流し込んだ。執筆に重要なのはとにかく没頭だ。意識を集中させるほど、頭の中にある異世界が時を進めていく。
主人公がチート能力で魔物のヌシを
いや。違うぞ。
視界が明滅している。モニターの不具合ではない。
首の後ろの辺りがすうっと冷たくなる感覚に襲われた直後、息が出来なくなった。
私は胸を押さえたまま、椅子から転げ落ちる。胸まで伸びた髪が床のカーペットにだらりと広がる。
「お、お母さん」
消え入るような声が母に聞こえることはない。母は別室で深い眠りに落ちているのだから。
全身から熱が奪われていく。心臓が激しく跳ねあがって、体が揺れている。ひどく寒いのに、汗が止まらず、下着はびちょびちょだ。
ああ、気持ち悪いな。着替えたい。
そんな下らない言葉が脳裏をよぎった直後、意識が途絶えた。
*
気が付くと、そこは白一色の世界だった。
「ああ、可愛そうに」
どこからか、声が聞こえた。艶美な女性の声だ。
「え? もしかして、女神様ですか?」
「ええ、よく分かりましたね。大体の人は困惑するのですが」
「じゃあ、転生?」
「……話が速くて助かりますわ」
女神様は、わずかな沈黙の後答えた。
「マジかー。転生とか最高じゃん。無双チート? それともスローライフ系?」
「す、少し落ち着きましょうか……」
女神様の
「あなたは高校生にして、カフェイン中毒で死んでしまいました」
「カフェイン中毒って…… マジか。やっぱ錠剤が良くなかったのかな?」
「ええ、錠剤が良くなかったのです」
「そっか。って死因はこの際どうでもいいんだって! 転生! どうなんの! 私が自分で決めていいの?」
「だから、落ち着きなさい。あなたは若くして死んで可哀そうだから、望みどおりの世界へ転生させてあげます」
「望みどおり? 最高じゃん。そんなの、みんな死ぬべきでしょ。って、そうじゃなかった。どんな世界に転生するか……」
「ぶつぶつと独り言を。気持ち悪い少女ですね」
女神様の突然の暴言は無視する。
ダンジョンで無双するか、悪役令嬢をざまあするか、フルダイブ型のVRMMOがある世界も捨てがたい。あるいは、大人気VTuberという手もあるか。
いや、でもこういうのはもうカクヨムでいっぱい読んできたしなぁ。私ならではの無双がいいな。
カクヨム…… そうだ!
「いい案を思いつきました!」
「なんですか?」
「何もかも、カクヨムで評価される世界。ってのはどうですか?」
「どうですか? と言われても」
「私ってこう見えても、カクヨムじゃあ割と天才だったんですよ」
「そうですか」
女神様はあまり興味がなさそうだ。
「つまり、学校の成績とか就職とかお給料とか、ぜーんぶがカクヨムの実績で評価される世界なら、無双できる! という訳です!」
「まあ、あなたがそう言うなら、そうしますけど」
さっきまで、私のことを憐れんでくれていたはずの女神様は既に冷めていた。
「では、ごほん」
女神様は咳払いをすると、勢いよく息を吸った。
「転生!!!」
艶美さをまるで感じない野太い叫び声で私は『カクヨムで全てが評価される世界』へと転生した。
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