第13話
「もう行くの?もうちょっとここにいてもいいのに。」
「はい。泊めていただいた上に食事までいただいて本当にありがとうございました。」
「いいのよ。こんな状況だもの。国籍の同じ者同士、助け合っていかないと。」
「あの、俺からも、ありがとうございました。」
「うん。アルティオムくんも元気でね。あと、あなたたちならこの戦争を変えられそうな気がするわ。」
「えっと、それではナタリアもお元気で。さようなら。」
お礼を言ってナタリアさんの家から出た。
外はマイナス10度だった。
「うぅ、寒い。」
「今日泊まる場所を探さないとなぁ。」
「それにしてもナタリアさん、あそこにいても大丈夫かな。ロシア人がここまで来なければいいけど。」
ため息をつきながらそう言うクリスティーナの口から白い息が出ている。
「まああの人なら攻め込まれる前に逃げられると思うよ。」
「それもそうね。で、泊まる場所なんだけど...空いている家を使わせてもらうしかないと思う。」
「じゃあ定住せずに移動しながら生活していくことにしよう。」
「うん!そういえばポーランドまで後どれくらい?」
「あー。すまないよくわからない。まあ成り行きに任せるしかないかもしれない。」
「そういう旅も楽しそうでいいと思う。さ!早く歩こう!」
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それから何日も、昼は歩き続け、夜は空き家に泊まった。
食べ物は、人がいる家をノックして貰うこともあるし、気はのらないが人のいなくなった店で保存のきく食料をリュックに詰めるという生活を続けた。
地図がないので今どのあたりにいるのか分からない。だが、おそらくウクライナの真ん中あたりだろう。
「あ!見て、アルティオム!この店の奥の方。あれシルニキじゃない?ちょっと休憩しようよ。」
「しょうがないなぁ。いいよ。」
クリスティーナは自分の好物を見つけるたびに店に飛び込んでいくおかげで、毎日のように旅が中断される。
まあ、それはそれで楽しいか。
そう思ってしまう自分に、俺も変わったな、と感じる。
クリスティーナと出会うまでは、セルゲイとともに国の役に立とうと意気込んでいたというのに、今では自分の国に反抗すらしている。
だが、今の俺はこの生活に満足している。クリスティーナと出会えたことは、
「運命…」
思わずそう口にしていた。
「アルティオム、運命って?」
「あ、ごめん。なんでもない。気にしないでくれ。」
「確かに運命だよね。」
「え?」
「えっと、私たち戦争始まってなかったら出会えなかったじゃない?それに出会い方も、セルゲイって人に私がつかまっていたのをアルティオムが助けてくれた。あの時あなたが勇気を出してくれたから私は今ここにいる。まるで運命じゃない!」
「そうだな!」
俺はクリスティーナのこの真っ直ぐな考え方に何度救われたんだろう。
「ありがとう。」
「いいって。お礼なんて言わなくても。」
この物語はフィクションであり、実在の人物とは必ずしも一致しません。
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