一章 アルティオム

第1話

 俺の名はアルティオム・フォードロヴィチ・バビチェフ。まあ、呼びにくいのでアルティオムと呼んでくれ。22歳になった俺は、大学での最後の一年間を過ごしている。変わり映えのしない平穏な生活だ。今日もいつものように平穏な1日になるのだろう。カップにコーヒーを入れ、テレビをつける。きっといつものように天気予報や小さなニュースをやっているんだろうな。

 しかし、テレビにはとんでもない言葉が大きく映し出されていた。

 

 「正当防衛のためにロシアはウクライナと戦う。」


 噂程度のことは今までに何度か耳にしてきたが、まさか本当に始まってしまうとは。しかも、俺も20代だ。この戦争に徴兵される可能性は大いにある。だが、できれば徴兵されたくないものだな。

 

 少し不安を抱きながらテレビを消し、大学へ向かった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 午後7時。もう冬なので外は真っ暗だ。料理をする気にもなれないので、カフェにでも寄って軽く何かを食べるか。

 

 カフェで軽食をとった後、凍てつく寒さの中家に向かった。


 家に着くとポストから紙がはみ出ているのが目に入った。紙を開くと、4月にモスクワ州の徴兵センターに行くように、と大きな字で書いてあった。

 この手紙が届いたということは、俺が徴兵されたということか。この手紙が届けられる人はランダムだと聞くが、何千万人もいる中でこの俺が選ばれてしまうとは。

 

 2月24日に政府が発表したのは「正当防衛のためにロシアは戦う」ということだった。

 国のために国民が命をかけて戦うことは、当たり前なのかもしれない。しかし、俺は戦うということがどうしても恐ろしいことに聞こえてしまう。

 

 ベッドに入っても徴兵されたことへの不安で胃が痛くなり、なかなか眠りにつけなかった。


 就職活動はどうしようか。家族には何と言えばいいのだろうか。大学は卒業できるが、4月までの生活はどうすれば。

 そんなことをグルグルと考えているうちに、だんだんと瞼が重くなってきた。




 この物語はフィクションであり、実在の人物とは必ずしも一致しません。

 


 

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