第6話 可愛い奴

 三年のクラス替えで、俺とササミはクラスが離れてしまった。

 休み時間、俺は用もないのにC組へ行き、石川やサッカー部の連中と駄弁る。ササミは当たり前のように傍に来る。それが嬉しかった。

 夏前に部活を引退していた俺とササミは、いやでも高校受験に向かうしかなかった。

「美夏は、どこ受けるか決めた?」

 内海に聞かれたササミは嬉しそうに、各種学校の本を開いてみせている。内海は声に出して読みはじめた。

「白谷芸術・芸能専門学校。ここ有名だよね。ダンスの人たちは、専門のダンスチームに入れるんでしょ?」

「そうなの。だからやりがいあるんだ! 試験科目はダンス。演劇。歌だけ! 理数なし!」

 ササミの話しに、苛立つ俺を石川がたしなめる

「村田さ、お前の頭が堅いんだよ。進学の話しになると、村君は怖くなるって、佐々言ってたぞ」

 俺は思わず石川を睨んだ。

「当たり前だ! 今の時代せめて高校は出ないとだろう。もし、佐々がダンスで上手く行かなかったら」

 石川が俺の話しを遮る。

「佐々と付き合っているお前がそんなこと言う? 佐々は失敗なんて気にしてなんかいないよ」

 そんなこと石川に言われなくても、俺が一番理解している。

 ただ、ササミが違う世界に行ってしまうと思うと、苦しくて仕方なかった。

 その日の放課後、俺はササミに屋上へ連れて行かれた。

 向き合うササミは泣きそうだった。

「ムッシー、なにか怒ってる?」

 ササミが俺を見上げた。

 ササミの顔を覗くと俺の唇がササミの鼻に触れた。

俺は、思わずササミを抱き締めた。

 離さなければ、と思う気持ちとは裏腹に力が増して行く。

「ムッシー、私どんなことがあっても、ムッシーの傍にいる。どんなに離れていても。信じてね」

 何故か俺が泣いていた。ササミの髪に俺の涙が消えて行く。

 ササミの腕にも力が入る。温かい。離したくない。

 ササミが神妙な顔で話し出した。

「今から話すことを聞いて、嫌いならないでよ? いい?」

 今更、何を聞いても驚きはしないと笑うと、ササミは、コクリと頷くき話し始めた。

「昼休みのときにね、吉川さんと菊池さんが音楽の話をしていたの。ノートに名前が書いてあってね。それ見せてもらったら、五輪真弓とか、バンバン、荒井由美とかね。私そっち系良く知らないから、普通にごりんまゆみって読んだら、ふたりとも目が点。それから大笑いされたの。でもさ、ごりんって読む人いるよね」

 俺もこれには、感傷的な思いが一気吹き飛んだ。ごりん! 確かに読む。でも人名だぞ。それを考えないササミが、ササミらしかった。

「やめて! 腹痛い! ごりんって」

「ひどい! でも、やっぱりおかしいね」

 また好きが増えた! と俺の心は叫んでいた。

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