第4話お飾りの妻はプレゼントがほしい
「アデル様、ちゅー。ちゅーしましょう、ちゅー」
「ふーむ、今は金相場も安定しているな。投機に回している金額を引き上げようか」
「アデル様、今度ハイキングに行きません? たくさんクリがなってて、秋にはクマとクリを奪い合いできる場所を知ってるんですよ」
「うーん、また政治献金で揚げ足取りか……国会は本当に暇な連中ばかりだなぁ……」
「アデル様アデル様、聞いてます?」
「おっ、私の好きな作家が十六年ぶりに新刊を出すじゃないか! またレンガのように分厚い本になるんだろうなぁ。本棚を整理しとかないと……」
「……実は今の私、ノーブラなんです」
耳元にそう言うと、ピクッ、と、アデル様が肩を揺らした。
ハァ、と私はため息をついた。
「ちゃんと聞こえてるんじゃないですか……しかも反応する単語がノーブラって……」
「……間違っても反応なんかしていない。今のは気のせいだ。君はお飾りの妻で私は今新聞を読んでいるんだ。君がノーブラだろうがイエスパンティだろうが反応することは考えられない」
「もうその時点でしっかり反応してるじゃないですか……ハァ、強情な人だなあ。ちなみにノーブラは嘘ですからね」
わかっとるわ! とアデル様が何故だか憤ったような声で怒鳴った。
ちぇ、こんなピチピチの貴族令嬢が奥さんなのにつれない男め。
私はアデル様の執務室のソファに寝転がると、バタバタと脚をバタつかせた。
「こ、こら、貴族令嬢ともあろうものがはしたないことを……!」
「うーん、予定ではこの辺りでもうアデル様がデレ始める予定なんだけどなぁ。私に十万ポチタぐらいのデッカイ指輪とか買ってくれる想定で動いてるんだけどなー」
「そ、そんな強欲な想定で動いてるの……!? 君はどんだけ自分に都合がいい妄想して生きてるんだよ!! そんなわけないだろ!!」
「だって、人からプレゼントもらった経験なんかいまだかつてないんですもの。夢見るぐらいいいじゃないですか」
私がブツクサと言うと、はっ、とアデル様が言葉を飲み込んだ。
「私の家、超貧乏じゃないですか。プレゼントどころかささやかな贈り物さえもらったことなんてないんですもん。たとえもらっても売り払ってみんなおカネにしないと明日食べるご飯もない感じだったし。私にとってはこの屋敷が人生で初めてゆっくりできる場所なんですよ」
ぼすっ、と、私はクッションに顔を埋めた。
「いくら偽装結婚だからって、何かプレゼントぐらいはもらえると思ってたんだけどなぁ。人から何かもらうって地味に私の夢なんですよ。あーあ、それもやっぱり契約には入ってないかぁ」
ちなみにこの愚痴は、私の作戦ではなかった。
本当にただの愚痴のつもりであった。
これは偽装結婚であり、私たちは何かを贈ったり贈られたりすることはないのだと、ただ確認したつもりであった。
そこまで考えて――私はその先を考えるのをやめた。
貧乏人は暗くしていたら本当に暗い人生を歩むことになってしまう。
無理矢理にでもポジティブに捉えていかないと仕方がないと思い直して、私は顔を上げた。
「まぁいいや! こうやって三食お腹いっぱい食べられて、毎日アデル様のいい顔見られてるだけで幸せいっぱいですもんね! そんなの望んだらバチが当たりますよね!!」
ね? とアデル様を見ると、アデル様はなぜかちょっとだけ、申し訳無さそうな表情をしていた。
「あの、グレイス――」
「でも、作戦の手は緩めませんよ! 私にはアデル様に実家をリフォームしてもらうという壮大にして遠大な目標があるんですから! それまで首を洗って待っててくださいよ!」
「お、おい――!」
私はそう言い、ソファから降りると、トトト、とアデル様の執務室を後にした。
背後から何かアデル様の声が聞こえた気がしたが、私は立ち止まらなかった。
◆
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