第26話 ブルーとピンクと白い巨星

 「その子君のバディ? 」

受付の男性が唐突に聞いてきた。興味がある視線でスックの事を訪ねてきた。

「ええ、まあ」

「ペットじゃない感じだ」

どう答えていいか迷う僕に、彼は続けた。


 「君の星系の補給所で働いていると年若い子達はたまに相棒的な子を連れてるのを見るけど、宙域海洋生物を連れてる子は初めて見たよ」

どうやら彼は太陽系の人みたいだ。と思いながら、

「そうですか? 」と僕は答えた。

「今日は学園ウチの受付の人はどうしたんですか?去年はコンテスト中だから、ココにもいたんですけど」この手の問答は苦手である。なんとなくはぐらかすように彼に尋ねると、

「彼は今休み時間でね。1時間しないうちに戻るよ」

「そうですか」

「太陽系ではたまに回遊的に跳んでくる、というか泳いでくる個体を1、2体、目にするぐらいだから。一緒に行動して、コミュニケーションとってるから僕らには珍しいよ」と純粋に聞いてきたので僕はちょっと安心した。他星系の人から奇異な目で見られないかとやはり頭のどこかで考えているのかもしれない。

それにスックの事は人に説明しにくい生物で自星系でも珍しがられる個体だからなおさら他星系の人には説明が難しい。


「そういえば、地球付近で宙域海洋生物のファーム的な衛星店を見かけたなぁ。あれは食用だったけ?君のバディ…イカ? 」

「あっ、それ、僕も見かけた事あります。衛星の周りにぐるぐる回遊してる魚の群れ!すごい数で良くみると色んな種類がいるんですよね! 」と返答に困ってるので少しへんなトーンの声になりながらも往路の途中に毎年見かけるあの衛星は僕も気になっていた。

 「僕はここ近辺に住居借りててね。毎日、ここに通勤して、休みの日に火星付近に遊びに行くくらいだから地球近辺の事は最近はトンとねー。」また彼のフランクでのんびりした話し方でこう続けた、

 「あの画像提供を求めてきたあの学生の子もバディ連れてたよね。人類種だったけど」

「(彼は執事的な人だけど)…そうでした? 」と曖昧に答えた。

「なにせ君らの星系の人はひと目みたら分かるよ。変わった乗り物乘って、変わった友達連れて、で…なんか小ギレイなんだ。おっと、ごめん。ここの補給所で働かせてもらってるのに今の感想は無礼だったね。俺、クビになっちゃうよ」と笑って謝った。

「いえ」僕も返答に困りながら、他からみたらそうなんだな。と外洋に出て何度目かの同じ感想を持った。



 大きなウィンドシールドから見えるグラジオスの補給所を改めて見た、大きなガス惑星の前にある、ここの沢山の建築人工衛星やその設備があり、多数の船舶が往来しているがそのどの種類よりもこの補給所が目立つ。この景色が物語る。

 「動力2個分の充填完了。ここまでのジャンプ、及び航行中での破損、機体不具合等もないようだよ。他に必要な点検箇所とか気になる事があれば隣のレーンに移動して検査もできるよ」男性が他のモニターを見ながら答えた。

 

「いえ、特にありません。」

「他に知りたい事はあるかな?もうすぐ君たちの学園の担当受付もやってくるけど、学園へ報告があるのなら彼の方が話の通りがいいだろう? 」

一瞬、スックの報告書が頭を過ぎったが、往路中でも作成して自分の小型機から学園へ提出できる。この後、隣のレーンに移動して特急で報告書作成して学園派遣の彼に渡して話をする事も出来る。その後すぐ彼からコンテスト審議会へすぐ連絡を入れてももらえる。でもそれだけ時間を取られるし、自分のコンテスト成績にも関係する何より今は往路中でまだ探索さえしていない。

 

「いえ、このまま目的地へ向かいます」

「太陽風ひどくなってますか? 」

「うーん、この数日のは確かに船舶に影響がでるレベルだから長距離運行では注意が必要だ。僕もここ2、3日の通勤で自分の船舶整備1回したよ」

「恒星風はどうですか? 」

「予想の範囲以内で去年のこの時期と同じくらいじゃないかな? 」僕らの聞きたい返答になってきた。彼も慣れてきたようだ。

「お客さんで太陽風被害のダメージレベルはどのくらいですか? 」

「レベル4前後だね。外装の溶けはもちろん外側にある計器は誤作動するレベルで、古い機体のお客さんは修理になるよ。君の星のそれらはまあ整備で持つレベルだ。でもこのレベルの太陽風の中、3日連続昼夜となると1度フル点検をおすすめするよ。自点検機能をフル活用して様子見ながら慎重にね」

「はい、そうします」

「あ、そうだ。ここらの界隈で施設に立ち寄ったりする時や超近木星エリアの往来中の事故や詐欺めいたトラブルには気をつけて、この賑わいだからね」

「はい。ありがとう」


木星は底なしの巨大なガス惑星だ。その身に纏うガスがいわば船舶の燃料となる。当然太陽系が自治権利を持つが、その大量な資源のため他星系からの商業参入の門戸も広げ、ガス精製エリアいわば工場とその輸出加工工場があるエリアとガスステーションエリアが存在する。ガスステーションエリアには色んな星の補給所が乱立、密接はたまたそれにともなう酒場や娯楽施設も多々ありてMAPが必要な程、密集度がすごい。

 当然治安もあまり良くないのは簡単に想像できるので、この木星に立ち寄る際の行動の授業とガイドラインはコンテスト参加者に毎年刷新したものが情報提供されている。僕らの身の安全のためにコンテスト中は覆面でこのエリアに潜伏する審査会の人も配置されている。

 

仮にココで危険な目にあったとしても緊急シグナルを使用すればかなりの速さで覆面の警護官や場合によっては管轄の取締り官が駆けつける手筈になっている。僕らはまだ一度もお世話になっていないけど。

































程なくして僕らの補給の番になった。予備用の手のひらサイズの駆動動力もサブ給油と(充電)して申請し、簡易的に整備チェックも申請した。

 「給油2件、1つは乗船と1つはサブ。それから簡易チェックですね? 」画面受付のお兄さんは年若く、僕らの船舶IDを目で読み上げてる、すぐに他のチエックリストがあるように見える仕草をしたのでコンテスト参加者用のものがあるのだろう。

 この施設は学園指定で自星系製なので前持って立ち寄り予定の報告がある。今僕らが立ち寄っているのも記録、報告になる予定だ。

 「船舶ID確認しました。今年のハント参加船舶ですね?行き先はカニ星系の○○地点付近」

「はい。そうです。今日は僕ら以外の立ち寄りはありましたか? 」

 「いえ、君たちが初めてだよ」急にフランクな会話を始めたお兄さんは良くみると白髪らしきものもあるし、シワもあるのでそんなに若くはないようだった。

 「ここ2、3日ではどうですか? 」

「んー2日前の午後に1件かな? 」2日前?終業式に出席してない日程だ。

「グレイじゃないのか? 」と横でスックが声のトーンを落として聞いてきた。

 「その船舶は変わった形をしていて外装の設備もちょっと特殊じゃなかったですか? 」

「ああ、そうだね、いかにも君たちの星の船舶だったよ。毎年見る他の参加船舶とは違うタイプで珍しかったので良く覚えているよ」

「(グレイだ!)」僕らは顔を見合わせた。

「行き先は?大きさは?外装の目立った設備特徴は? 」横でさらに声を落として聞いてきた。

「行き先は覚えてますか? 」

「どこだったかなー調べれば分かるけど」

 「どこかからの立ち寄りでしたか?ソナー的な設備はありましたか? 」僕はさらに続けて聞いた。

「うん。いかにもハント用の設備っぽかったよ。船舶の外装設備のことだよね? 」

「はい」

 「んーこれらの情報提供は禁止事項ではないけど、不必要には話せない項目ではあるから︙」

「同じ宙海域だから知りたいです」僕は決めゼリフを言った。

 受付男性は困った顔をしてもう、2日前のグレイの記録に目を通していた。

「往路立ち寄りでカニ座宙域付近。詳しい設備情報はちょっと︙伝えても今の時点でお互い変えようや対策は出来ないだろう? 」

「規定内設備か知りたいだけです」これも決めセリフだ。

「んー明らかに

「画像表示お願いします」

受付男性は渋い顔をしながらもこれらのやり取りはルール規定以内の会話なのですぐ画像表示に応じた。

 後に彼はこの機体を3回も訪ねてきた他の生徒に要求されるとは思っていなかった、

「うーん」

「ウーん」僕らは同時に画面に前傾姿勢になりながら呻いた。

凝視したこの画像、この設備は怪しい。最新型のカメラ付きの探査ウェーブがでるタイプなのは分かるが、数が確認できない。妙なこの尾翼的なラインが両端になってる場所にもアリそうなのだ。そうすると合計3つ。

 「うーん」

「コこ!ここ! 」細長い白い手の先でちょんちょんつっついた。

「アるね! 」スックは確信めいて僕を見ながら言った。

「うん︙ 」

「通報、いや、報告しようぜ」と白い手を組み彼は言った。

画像を即座に録画したスックは報告書を書こうとしたのだろうしばらく画面を凝視してこう言った。

 「これ、このままタイプして」

彼は言語を覚えた宙域海洋生体だが最近自星系の文字も覚えた。読めるがまだちゃんと書いたり、文字をタイプしたりはできないようだ。ちょっと説明が難しいけど、彼の言語は字情報発信。しゃべる言葉がテキスト。テレパシーでテキスト言語が僕の脳に入ってくる。音声も同時に聞こえるけどこれはちょっと説明しづらい。

 ただ画像も見せてくれるので、マップ情報的なものになるととても便利で人間以上の情報交換ができる。遠くにいても彼の聞こえる範囲だと僕と話せるし、彼の位置も教えてくれる。この他、人類種にはない能力があるけどこれらはまた別の機会にする。

 「どこでこの報告書式覚えたんだ? 」

「このコンテストのルール規定書の概要にある違反報告についての添付書類を見た」と彼。

「グレイに違反があったらと覚えた」とさらに得意げに話す。



 「往路の海賊情報は確認できたかい? 」と受付の男性が僕らに聞いてきた。


 只今サブの動力の充電中との進捗情報と僕らの小型機の下で設備点検中の様子がカメラを通して見える。同画面上にテキストで海賊情報をチェックした。大きな情報はなく、予想範囲内の注意情報のみで安心した。資料での海賊船の画像も無いほどの穏やかな情報だ。

 そもそも太陽系は海賊はあまり出没しないが、学園側の一番の心配事は参加生徒の身の安全である。年若い生徒が他星系に行き、ほぼ単独で船を操縦し、事故なく帰還する。事故懸念の案件に機体破損での遭難や海賊等の外部者との接触での事故も想定される。

 これらには、緻密な対策方法や安全上のルール規定が存在し、過去のハントコンテストでの事故報告や歴史上の事例に基き現場での下調べも毎年行う。また対策やコンテスト期間中の見守り人員を生徒の計画書に基き配置している。また安全上のルールブックも更新する。

 前にも述べたがハントの参加生徒は1年かけて計画し準備し、コンテストに臨む。学園側も1年かけて安全対策や現場視察をし準備する。他の科にも参加者はいるがビエクル科はコンテスト参加者が多いので初参加の場合は前もって半年かけて授業形式で受講し、これらには学科と実技の試験もある。この時初めて単独ゲートジャンプや単独航行も経験する。

 ここは学校なので受講すると単位がもらえ、試験をパスしないとコンテストには参加できない。もちろんゲートハント自体の免許もここで取得する。またコンテスト参加経験者にも毎年受講義務のあるクラスも存在する。免許更新のための授業と考えると分かり易い。ちなみにこの免許は整備科のクマデやデザイン科のハマヤも取得している。

 2人はコンテストに参加していないが家業が小型船舶製造、小売、レンタルなので取得して置くと経験としても良いし、何かと重宝するから。この資格免許は大人になっても使用できるので、興味のある生徒はみんなそれぞれの立場と考えで資格取得を検討し試験を受ける。

 なにせ年若くして学校の授業内で費用も学園支払いでその上単位も(!)もらえるので試験は簡単ではないけど受ける生徒は少なくない。

 それからゲート。このコンテストの要。ゲートは宇宙空間の高速道路の入り口みたいなもの。この広ーい宇宙を移動するのに必要不可欠。このゲートを通過しないと僕らの星系から太陽系にやってくるのにも大変な時間がかかる。普通に外洋宇宙船でゲートを通らずに星系間の移動は難しい。

 まあ。広い宇宙空間を短時間で移動できるポイント、場所。というわけ。この宇宙空間においてまだ未発見のゲートは数多く、これらを発見、探査、報告することがこのコンテストの目的。まず発見はまあ見つけることだけど探査は簡易的なもの、つまりはこのゲートの入り口の先には出口があるのか、それはどこへ繋がっているか、どのくらいの質量の船舶が飛べるレベルか、色々調べる項目がある。見つけたゲートの質でポイントが加算される。

 もちろんゲートの数と見つけたゲートの品質。ゲート空間が安定した大型船舶が飛べるレベルだと高得点につながる。みんなこれを狙って跳んでる。だけどこのレベルのポイントはなかなか見つからない。その一方で発見数が多くても上位入賞は狙えるので、数を競って跳ぶ生徒も中ににいる数にこだわる発見ノウハウまで存在するんだ。

 それから報告。これらが小型機船舶で跳んで、コンテスト期間内にゴール地点に設定した場所に到着するまでにする項目全般になる。

 今、僕らは外太陽系の木星にある補給所にいるけど、地球からこの木星までもジャンプが必要な距離だ。当然ジャンプポイント探索発見、その整備は各星系の発展の要にもなる。またこれらは必要な交通手段なのでこのゲートに関しての事業はかなりの経済力を持ち、発見整備、そして実際の交通ポイントとして銀河団に登録されればお金がもらえる。

 また個人のハンターはポイント位置報告だけで後はお金もらっておしまい。というプロのゲートハンターを家業にしている人も存在する。でも僕らの学園のゲートハントはここから、僕らの学園は僕らの星系の技術で発見した後のさらに詳しい調査とゲートの整備、ゲートの侵入口の設備設置をする技術がありそれを専門とする事業会社が沢山あるから独自で発見したゲートをそのまま商用転換できることができる。

 ここまでできるハントで銀河団に登録すると、その後の交通料の何パーセントかを毎年もらうことができる。つまりこの学園はこのコンテストで発見したゲートポイント(場所)は学園や自星系の事業は大きな収入源を得る。このことも手伝ってこのコンテスト自体学園の歴史上重要視される授業のひとつなんだ。

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