第11話 周回トレインの朝

 当然だけど、朝早くに目が覚め、相棒のスックと朝食を済ませて退寮届けを出して出発した。

周回トレインの時間。

朝早いから、人が少なめだが、寮のあるここらの乗車はほぼコンテスト参加者だ。

ゲートハント初参加の新入生はやはり荷物が多い。車内でも荷物を置くエリアに偏って座ってるのが目立つ。

その新入生達の会話が耳に飛び込んできた。


 「やっぱ緊張するよ。2週間事実上ひとりで参加だ。おれ無事帰ってこれっかな」

「うん。航路中のサポート体制があって緊急時行動訓練は履修したけど、成績より、無事故ならなんでもいいって気になってきた」

「ああ。半年前の計画時には入賞めざそうぜって……見ろスックがいる!!…シーグラス先輩だ! 」

わぁと小さく呟いてふたりとも同じ表情でこちらを見ている。


 新入生がこちらを見ているのは僕らがビエクル科の先輩でこのコンテストの上位者だから。

後、僕が宙域生命体のスックを連れてること、また1回生の教官補佐の補佐として新入生に接する事がたまにあるから。

そんな事情でこちらを凝視ししてくる初参加新入生の前を通り、いつも乗り降りするドアがある昇降口の位置の近くの座席に僕らは座った。


 新入生をチラ見しながらスックは囁いた。

「新入生ばかりだ。知った顔がいない」

「そうだね」と僕は答えながら起き抜けの鈍い頭から社内の匂いを感じたり同乗者の姿をクリアに視界に確認出来るようになった。

また自分の頭がはっきりと目覚めたのを感じながらこれからコンテストが始まるんだという高揚感を感じた。


 長方形の半球体の車両は、移動時は透明になり宇宙空間ソトがよく見えた。

周回トレインは車内の案内や映像が一部分に映しだされるが、停車中は車内全体がオレンジの照明で照らされる。

乗客の乗り降りや、乗客の車内移動などを自動で感知して各停車場所を周回している。

出発と同時に車内のオレンジ照明と鏡壁から僕らの姿が消え、カイヤナイトの宇宙空間そとがよく見える景色に戻った。


 行き先と停車の案内スクリーンや乗り継ぎの案内、周回トレインで行ける行事、催事のお知らせスポットが別のスクリーンで流れている。

「ドこの星系廻るんだ? 」

到着まで隙だと思ったのか、先程の新入生のところまで飛んでってスックは声をかけた。

話しかけられたのに気づいた方の新入生が前に立つ新入生を手で(おい話しかけられてるぞ)と突っつく

「あ!クリプトン星系付近です」と話しかけられた方の新入生は答えた。

「2人ともか?あのヘンは安全地域だけど、だいぶ探索対象が少なくなってるぞ」

そばかすが目立つ背の低い方の一回生男子が答えた

「この1年でだいぶ気象が変わった地域があったので前調べで確認するとそれなりの数があったんでそこに決めました」


 ハントコンテストのエントリー用の小型機を貸し出す店舗に駅が隣接してあり、参加者は直接店舗に入店し、本式でエントリーをカウンターで済ませる。寮からレンタル小型機を手配して直接出発する事もできなく無いけど、その方法で参加する生徒はまずいない。

なぜなら今現在のコンテストの順位やどの生徒が今どの惑星付近を巡回しているかを含め生徒が知りたい情報が店舗で得られるのであるからやはり店舗での手続きを好む参加生徒がほとんどなのだ。そして、これはなんとなくの暗黙のルールがあって、学園公認のエントリーできる店舗は2箇所あり、その内の1店舗は寮からほど近い場所と2箇所目はここから40分ほど遠い7駅先の場所にある。学年が上の生徒もしくは、通年の上位入賞者は寮から近い駅の店舗、新入生や初エントリーの生徒は7駅先の店舗で下車する事が多い。


 スックと僕は10分後に下車までの間、席に座って跳ぶ順番を頭でシュミレートしながら久々の太陽系に足を伸ばせる事にワクワクする気持ちが盛り上がってきた。去年から太陽系からもしくは太陽系経由で計画を立てハント捜索を実行する楽しみをみつけた。去年は準優勝することができた。同じ学科の毎年の年上の上位入賞者がぼくを注視するようになった。それも嬉しかったがなにより太陽系の屋台フェスティバルに出くわし、あの夢にまで見た地球産アジアンフードをお腹いっぱい食べれた事が最高の出来事だった。


 僕らはカイヤナイト星系に住む地球人を先祖にもつ人類種で、ぼくの学園はほぼ地球出身者の祖先を持つ生徒だ。

 僕は本当に古い言い方で説明すると地球産人類でヨーロッパ種いわゆる白人種だ。

学園全体の生徒の比率も白人種がやや多く、その両親はなんらかの事業を興している家系の子弟が通う。

ほぼ全員が卒業まで寮で暮らす。

寮では地球産の食事も良く出る。加工食品はゲート経由で星系輸入したりもしてるが、学園近くの惑星オンブレで収穫できる野菜やフルーツ等の食料が学園の名物料理だ。

しかし先祖が他星系へ移住の大航海時代から伝承してきた西洋料理風がほとんどでその他の料理はほぼ食べた事がない。


 この宇宙暦220年代において、人類種が全内蔵を体内に保有して暮らしているのはここカイヤナイト星系くらいで近辺星系、同人類種においても珍しい。

他星系からすれば金持ちのグルメ人類種。時代遅れの地球思想者と称されるのもこの年になれば分かってくる。

生まれてから3度の食事も当たり前で、人体改良はほぼ行わない思想を貫き先祖の地球時代の暮らしを変えない営みでカイヤナイト人は繁栄してきた。


 そんな僕らだから地球から旅立って2世紀以上。


 めったに太陽系に行くこと、ましてや簡単に地球という惑星に降り立つことが出来ないがここ数十年で、地球からの移民には地球の知的財産、映画や映像、書物のデータが学習目的という意味で我が星系に寄贈されるようになり。学園の映像視聴室は学習と娯楽を同時に楽しめる映像資料がかなり充実している。生徒達はそのような環境も相まって、地球の古典映画や地球の日本ニホンのアニメ等が大流行している。今は地球の20世紀の映画と、いつの時代の流行ってるニホンのアニメ、化石燃料で動く乗り物が出てくるスポーツ番組や地球のグルメ番組、地球の気象というものが感じられる山や海の資料映像。興味がつきず、みんな争うように映像資料室に通う。貸出可の映像記録は直接資料室カウンターへ出向き所定の手続きをしてから、個人の視聴端末へ転送してもらう。


 実際、僕らは地球には降りれないけど、天の川銀河、太陽系にひとりで跳べるようになったのはハントコンテストがあるからのおかげで、普通なら跳べない。いくら休日でも外洋小型機の免許をもっていても無理。外宇宙に学生がひとり跳ぶのはご法度である。


 そんなことを宇宙そとを眺めながら考えているうちに降りる駅のアナウンスが聞こえてきた、スックも普段よりソワソワしていて落ち着きがない。彼も去年屋台フードファンになったのだ。彼はなんと雑食性だった!


 駅に隣接してある店舗の明るいホログラムと建物の中にいくつもの小型機が並んでいるのがここからもよく見え、今年もハントに参加する高揚感で胸がいっぱいになる。半年、いや正確には10ヶ月準備してきた。優勝とかいろいろ雑念が頭を過ぎらない事も無いんだけど焦らず無事故でこのコンテストを完遂するぞ。


「ソろそろだよ」とスックが耳元でヒソヒソ囁いた。

車内がオレンジ色の照明に変わると僕らは周回トレインを下車した。

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