第6話 留学生 エタン

 「おーいこっち」と僕は手をあげた。

「シーグラス」と気づいて彼も手を上げ返した。褐色の肌に薄いグレーの瞳、背は高くないが低くもなく、痩せた手足が目立つ。また優等生の雰囲気がどこか歩き方にでてる。

歩いてくる彼の前を横切る配膳ロボットを避けつつ、少し足早になってまっすぐ僕らのテーブルにやってきた。留学生のエタンである。

「手続きはもうすんだの?」とトーストをモグモグしながら振り返ってエタンに質問した。

「うん。1年延長の手続きが意外と手間取って。もともと1年だけなのがシンシャの学校の慣例だから」

「クマデ、彼はシンシャ星系からの留学生エタンだよ」

「彼はすごいの。去年のコンテストでグレイと1位を争った上に、見つけたポイントが高得点で今年のポイント再審査ではさ来年のゲート商業化に選ばれたの」

「商業化って、つまり本当のゲートとして採用になるってことかい? 」クマデが聞き返した。

「そう再来年以降工事が始まるそうよ」

「それはすごい。僕でも分かるよ。こっち来て1年で商業化になるようなポイント見つけるなんて」

「運が良かっただけだよ」エタンは気恥ずかしそうに言った。

「でも君の姿は良くビエクルの授業移動の時に見るから知ってたけど僕の記憶だと年明けのハント授業が本格化する頃からだよね?」

「そうなんだ。カイヤのハント授業のレベルはシード銀河一と云われてるし僕の留学する目的の一つだから、新年度スタートではなくて年明けの後期授業スタートに合わせてこっちへやってきたんだ」

「今年もコンテストに参加するの? 」

「もちろん」

「さらにすごいのは彼、ゲート商業化でボーナス賞金が出て、今回の留学費用と奨学金を全部返済したの」

「へぇ」

「今回許可が降りた延長期間も先に支払いを済ませれたから、母校に対しても故郷の家族に対しても気が楽になったよ」

「エタン昼ごはんは? 」ペールイエローが着席してしばらくしてもランチの注文をしないので不思議がった。


 「僕は昼は摂らないんだ」

「あぁ」

「そう、僕の星系の人間は内蔵保持型は一般的ではないんだ」

「つまりは? 」この机に座ってる学園の生徒は既に学習済みの質問をしたが、少し不思議な、よその星のお話のような空気と、自分達には絶対ムリな緊張感とがないまぜになった雰囲気が食卓に走った。

「就学時を目安に内蔵を取り出し、医療機関に預けるんだよ」

この話は他星系では一般的な話で健康医療費を抑え健康を維持し、その他食事の用意の時間、摂る時間、トイレの時間等全て節約出来、その分学校の学業取得時間や社会での生産性につながる概念であり、これらに関しての法律が存在する。

このカイヤナイト星系ではそれらより、むしろ人類種として生まれ持った体を大切に保ちつつ、宇宙時代を生きる理念が勝つ思想が根強い。人体のメンテナンスを強化し、生殖活動は古典的を好み、人体の五感を大切に生きる。


 そのためのカイヤの文明発展を何倍もの努力と生産性のために邁進する種族である。

他星系からすれば、これらは金持ち星系の理念でかなりの思考格差がある。理想論を現実のものにしていく勤勉さは他星系では認められるが全ての人類種が同様には生きられないのだ。この辺は異星間ギャップがある。この学園でも入学当初からこのテーマを多く学んでいる。生徒の多くはお互いの異文化を認め合うよう理想的な教育をされているがこれが上手く機能しているのは学園という守られた聖域の中だけであるという事を未成年の十代の彼らもうすうす感じてはいる。


 「他星系に来た時はどこでも売っているエナジードリンク類みたいなもので栄養補給出来るよ」

「君の学校ではどんな食事してるの? 」

「みんな自動で時間が来ると体内の栄養補給チューブで摂るよ。自分の意思でなくとも自動補給できるんだ」

「全く食事を摂らないの?」とティーローズが興味深げに聞いた。

「全くではないけど、ほぼ液体のようなものは口にするよコレもそうなんだ」

僕らが大好きな地球の映画でよく見る口に咥える体温計のような形をしていた。

「これが?まるで地球の映画に出てくる体温計みたい」と僕と同じ感想を言った。

僕らの共通の趣味の地球産の映画に出てくるので大体未知のもを形容する時に、僕らの日常にあるものか地球産フィルムで見たもので表現する事が多い。

「これは体内の栄養補給システムとは別に経口から補助するためのまぁ栄養補助食品。後、これに似た肉体疲労時とかその他の体の部位の病気予防の薬とか色んな種類のものがある」

うーんと全員唸るような空気に変わった。

「学校にカフェテリアみたいな施設はないの?」さらに首を曲げながらエタンに質問した。

「談話室みたいな施設はあるよ」

「決まった時間に食事を摂らないのは僕らには苦痛だよ」マスタードが口火を切った。

「僕らには耐えられないかも」

「ここに来る前には聞いていたけど、それでもカルチャーショックだよ」エタンが僕らに対し〈他の星の人の〉感想を述べた。

「内臓を保持しない事は、内蔵の病気にならない、食事を摂る煩わしさがない。加えて健康を保つ事も簡単だし、健康長寿になる」

「トイレの心配もないわけか」腕組みをしながらブリックベージュが言った。

「食の楽しみがない人生なんて僕らには考えられないよ」

「長時間乗り物にのるパイロットが内蔵保持でいるのはこの時代の一般常識から言ってヘンだよ。あっごめん。言い過ぎたかも」エタンはちょっとすまなさそうに目を伏せた。

「確かにウチの星系は、人体改良はUV対策用の眼球等の必要最低限が常識なんだ」ペールイエローが少し緊張気味にエタンの話に答えた。

「そういう地球型人類種は少なくなってきているのは現実だ。けど僕らだって健康長寿だよ」

「エタンの故郷くにの平均寿命は? 」クマデが訊ねた。

「二百才だよ」

「僕らは百五十才」

「食事はいいものだよ。日々の楽しみなんだ」ペールイエローが本音で答えた。

「エタンのコールサインは?」クマデが聞いてきた。

「ガーネットフローだよ」スープのスプーンを振りながらマスタードが答えた。

基本、学園内ではビエクル科のみ授業のコールサインで名前を呼び合う。

学園内のどこにいてもコールサインで呼び合ってるのは確実にビエクル科と分かる。

他の学科生と同じ制服着用時でも見分けやすい。

大体は実技授業のつなぎ。高学年になれば本格的なパイロットスーツを着ているのですぐ見分けはつくのだが。

「じゃあ。慣例通りコールサインで呼ぶよ」とクマデが微笑んだ。クマデは笑うと頬にえくぼがでる。

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