マイン・ガール……助けた美少女たちとラブコメ❤ あれ? 修羅場ってるんですが……え? みんな激重? もっと早く教えてください!

@yatake0428

プロローグ 勝利者



 冷たい夜風が、一人残った少女の髪と衣服をはためかせていた。



 ばたばたと容赦ない強風になぶられ、彼女の襟元は片一方に引っ張られ、華奢な体


もよたよたと左右に揺れている。


 僕は渦巻く低温の空気の中で、カミソリに撫で回されたかのような戦慄を感じてい

た。


 が、そんな些事には全く構わぬ様子で、彼女は血の気のない陶器のように白い顔

に、ゆっくりと表情を浮かべた。


 喜びの、唯一人残った、歓喜。


「勝った……よ、私……勝ったよ!」


 掠れた声の後、彼女は僕に優しく微笑んだ。  


 無垢に、清廉に、純白に。いかなる汚れとも穢れとも無縁に、花が開くように、輝

くように!


 だけど僕は、唇の端からこぼれるねっとりとした鮮血に目を奪われていた。彼女の


つむられた目からも赤い涙が流れている。



「あああ……あああ……ひぃぃぃ」



 僕は恐怖と血への嫌悪で、固い地面に尻餅を着いたまま足をばたつかせた。逃げようと足掻く。


「どうしたの?」


 血まみれの眼を開いた彼女が、かわいらしく小首を傾げた。


「わ、私が……か、勝ったんだよ……」


 ほうっ、と熱い吐息を漏らして足を一歩、僕に踏み出した。


 すうっと心の中の何かから温度が消える。しかし彼女はそんな僕の様子に気付か


ず、一歩、また一歩と、壊れた人形のようなぎくしゃくした動きで、近づいてきた。 


 自然と真白い脚が目に入った。幾筋もの血の線が走る腿は、そのコントラスト故に、ぞっと


するほど艶めかしい。  


「た、拓生……」


 少女が僕に手を伸ばした。暗い朱の液体に染まった細い腕だ。


「うああああっ!」


「どう、したの?」


 きょとんとした風に少女は問うた。その間、細い顎から一つぶ、滴が地面に落ち

る。


 暗い光を反射する、赤い赤い液体。 


 でも、実は大した問題ではない。


 今更、それが一滴増えたところで何の事もない。  



 少女の足元には、血だまり、と言う表現ではささやかすぎる程、赤黒い液体が溜ま

っているのだ。



 血の海の中、彼女がまた一歩進む。亡者のようにゆらゆらとゆらゆらと。頭も衣服


も……足の靴先まで、粘度のあるてらてらとした血に濡れたまま。


 呆然と愕然と泣きそうな顔で、僕は見上げた。


 闇の中佇む少女を、その笑顔を。


「たくみ……」


 僕の中で何かがぱちんと弾け、粉々に砕け散っていった。


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