第17話 ダンジョン研修、開始!

「さて、各員。君たちはこの三カ月近くの勉学にて、そこそこ以上の実力を得たと思われる。ということで、実技研修を始める。まず、命を預ける仲間、ダンジョン攻略パーティ郎党をクラス内で組んで欲しい。最低三人から最大八名まで。明日の研修までに決めておけ。以上、解散!」


 夏休みをもうすぐ向かえる頃、教官から俺たちは次の段階に進む事を提示された。

 行うのは、ダンジョンでの実戦。

 低層においての戦闘で、座学だけでは学べない事を身体に刻み込むのが目的だと言う。


「さあ、皆よ。俺の元に集うがいい。俺の元でなら死の危険性はまずないぞ!」


 オカダ教官が去った教室にて御曹司が教壇に向かい、そこで偉そうに叫ぶ。

 確かに御曹司には護衛や側仕えが入学時から付いてきていて、彼らは戦闘訓練などでも優秀な成績を残している。


 ……護衛役のサイボーグの背後に居たら、低層でのモンスターくらいなら何もしないでも倒してはくれそうだからな。


「わたし、お願いできますか?」

「僕も」

「すいません! お願いします。俺はまだ死にたくないんだ」


 続々と声が上がるのは、しょうがないだろう。

 士官学校に入った同級生の大半は、メガコーポ、フチナダの一員になりたいから入学しただけで、戦う事を望んできたものではない。

 死の確率を下げ、更に御曹司ともコネを作って今後の人生に生かすつもりなのだろう。


「ハルトくんはどうするの? まあ、御曹司のところは無理だろうけど。因みに、僕はハルトくんと一緒を選ぶよ」

「わたし、ハルトきゅんとなら何処でも良いよ?」


 マサアキさんとナナコさんは、俺とのチームを選ぶ。

 二人とも実戦を俺以上に既にこなしているので、一緒に来てくれるのならありがたい。


「二人ともありがとうございます。俺、銃撃戦じゃ足手まといになるのですが、良いんですか?」


「逆に言えば、他には居ない実戦済みの魔法使いだからね。それも接近戦も可能となれば逸材さ」

「わたし、これでも力持ちだから装備でも荷物でも沢山持つよ」


 その後、御曹司のチームは決まったが、残った人も俺たちのところには寄り付かなかった。

 おそらく御曹司とのコネが出来なかったけれど、逆に敵視されるのも嫌ったに違いない。


 ……何かと俺に対して敵対心いっぱいだからな、御曹司。直接手出ししてこない分は良いけど。


 結局、俺たちのところには誰も来ず、三人でのパーティとなってしまった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「それでは、順番にダンジョンに入る。各自、モニタリングカメラは必ず起動しておくこと。また、護身以外の対人戦は禁止。仲間割れなんかしたら学校から追放だけでなくID剥奪も有り得ると思え。なお、動画は数秒遅れで世界に配信されているからな」


 フル装備をした全員を前に、元梅田地下街、ウメダ・ダンジョン入り口、通称「地獄門」にて点呼確認をする教官たち。

 今日は各パーティに教官が一人ずつ付いて行き、地下五階層目にあるフロアーボス部屋に行って、そこに置いてあるカードを持ち帰ってくるのがミッション。


 既にボス、ミノタウロスは別部隊や公認冒険者が狩っている。

 ボス部屋の扉も床のくさび固定してで開けっぱなしのため、次のリポップは二十四時間後の予定。

 安全にダンジョン観光ならぬ狩りが出来る予定だ。


 ……ダンジョンは五層毎にフロアーボスが出てきて、ボスを倒すと部屋の中にある隠し階段を使用できるようになるそうだ。


「ハルおにーちゃんと一緒なんて、とーってもうれしーなー」


「お前らの事は上から話は聞いている。今日は義兄妹きょうだい仲良くするんだぞ」


 オカダ教官から、俺にくっつくアヤに対して優しい声が掛けられる。


 今回、俺たちのカリキュラムに何故か巫女学校の生徒たちも参加するということになり、護衛に必要以上の力があると思われるパーティに巫女たちは加入している。


 ……やはり、御曹司のパーティにも巫女の子はいるね。アソコがクラスで最大の八人のパーティだし、一応戦闘サイボーグも居る事だからな。


「アヤちゃん。僕、ご挨拶がまだだったよね。児山こやま マサアキって言います。マサアキって呼んでね」

「わたしは、小日向こひなた ナナコ。ナナコお姉さんって呼んでくれたら嬉しいな」


「はい! マサおにーちゃん、ナナおねーちゃん。わたしは葉桐はぎり アヤです。ハルおにーちゃんともども宜しくお願いしますね」


 ペコリと挨拶をしたアヤ。

 俺たちのようなオリーブカラーでは無く白系の戦闘服に身を包む姿が実に可愛く、ナナコさんが思わず抱きつきにいってしまった。


「うわぁ。こりゃハルトくんがシスコンになるのが納得なのぉ。アヤちゃん、かわいーのぉ」

「ナナおねーちゃん、ぎゅーが痛いよぉ」


「なお、俺は緊急時以外は何もしないし、基本声も掛けない。お前らだけで葉桐生徒を守れ!」


「サー、イェッサー!」


 ……これ、アヤが無理言ったんじゃないかなぁ? お兄ちゃんと一緒が良いとか言い張った気がするよ。


 今回、受験も担当してくれた担任のオカダ教官が俺たちのチームに付く。

 人数が少ないのに巫女を加えたというのもあるし、おそらく「上」。

 フチナダ上層部からアヤを絶対に守れという命を受けているに違いない。


「ハルトくん。そんな軽装で大丈夫?」


「ちゃんと戦闘服や防弾防刃ジャケットは着ているし、拳銃や多目的ナイフ、攻撃型の手榴弾も持っています、マサアキさん。ヘルメットにイルミネーター、防刃手袋。後は愛用の仕込み錫杖があれば完璧です」


 俺は、魔法使いとして手を空けていたい。

 俺が使う術、真言密教呪術は術の発動に真言の詠唱と両手指による印を結ぶ必要があるからだ。

 なので、両手が埋まる自動小銃とかは持ちにくい。


 ……背嚢には、携帯食とかロープは入れているけどね。


「大荷物とかは、わたしが持つから大丈夫だよ。おねーさん、『覚醒能力』の一つが怪力なの。かさばるドロップアイテムも基本わたしにお任せ。後で均等配分しましょ」


 ナナコさんは重装備、背中にパワードスーツ型の背嚢を背負っている。

 背中から伸びるサブアーム、右側は給弾装置が繋がった分隊支援火器XM250、左側は身体を隠せるくらいの大型盾を持っている。

 また、腰から脚部には支持サポート外骨格があり、重量負荷を低減化している。

 本人曰く、どんくさいけれどパワーに自身はあるので、タンク役に向いているとの事だ。


「それならいいけどね。僕も頑張ってアヤちゃんを守るよ」


 マサアキさんは、至って普通の兵士姿。

 腰には銃剣併用のナイフと拳銃、両手でフラッシュライト付のプルバップ型アサルトライフルを構える。


 ……因みに銃弾は壁による跳弾が怖いから、重金属粉末で造られた粉末圧縮フランジブル弾というのを使ってるそうだ。金属系のモンスターには相性良くないそうだけど、地下五層くらいまでなら硬い敵は出ないからね。


「ん? 教官、今聞いて良いでしょうか? イルミネーターにチャットウインドウが表示されているのですが、これは何ですか?」


「ダンジョンに入るまでなら、いくらでも質問良いぞ。それはな、動画配信を見ているお客様からの声さ。邪魔になる事もあれば、見事なアドバイスも時折ある。適当に相手をしておけば、今後視聴者が増えて良いぞ」


 ヘルメットに付属されている情報表示アイテム、イルミネーター。

 ヘッドマウントディスプレイの一種で銃口の向いている方向、ダンジョンでの現在位置、パーティや仲間達との情報リンク、敵位置表示に通信、動画配信などが音声や視線入力で出来る多機能アイテム。

 これがあるからこそ、ダンジョン内部でもパーティが孤立化せず安全に狩りが出来ると、以前教官が教えてくれていた。


「あ、わたしの配信動画を早速見に来てくれた人が居るわ。皆さん、ありがとー! ナナコですぅ。今日は、これからダンジョン五層まで潜ります」


 早速、チャットに対応するナナコさん。

 実戦慣れもしている様で、実にありがたい。


「最後のパーティ、お願いします!」


「はい。ではみんな、行こう!」

「うん、ハルおにーちゃん」

「ああ、ハルトくん」

「ハルトくぅん、アヤちゃん、がんばろーね」


 こうして、俺の初めてのダンジョン冒険が開始された。

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