第4話 お昇りな田舎者の俺、警備隊の隊長から話を聞く。

小日向こひなた士長しちょう! 今回、お前の迂闊な行動がどんなに多くの人に迷惑を掛けたのか、分かっているのか!?」


「ごめんなさい、隊長。わたし、報連相ほうれんそうが、ちゃんと出来ていませんでしたぁ」


 無事にメガコーポの対モンスター制圧部隊と合流できた俺たち。

 その後トロルや他、少々の戦闘が起こるものの避難民の子供たち共々全員無事に安全地帯まで逃げる事に成功した。


 そして今、小日向士長、ナナコさんが詰所にて警備隊長さんに叱られている。

 一発、拳骨が落とされていたので、眼鏡がずれ気味のナナコさんはすっかり涙目だ。


「で、そこの坊主な坊主。おほん、坊主姿の少年、ハルトくんが士長と避難民を助けてくれたんだな」


「はいです。わたし達はハルトくん、御子神みこがみくんに助けてもらいました。彼、まだ十六歳前なのに凄い魔法使いなんです」


「うん。そこは自分も目撃しているから分かってる」


 警備隊長さんの視線が、俺に向く。

 胸や肩の記章や仕事内容から、おそらく曹長か准尉くらいの階級、下級兵からのたたき上げ下士官なのだろう。


 隊長さんの机の上には俺のIDタグが置かれている。

 隊長さんの視線の先にある情報端末には、IDから読み取った俺の個人情報が表示されているに違いない。


 ……俺、士官学校に行くのに軍の階級くらいは勉強済みなんだ。この人くらいの偉さなら、俺の個人情報くらいは全部見えるだろうな。


「と士長が言っているが、全部真実かな、御子神くん?」


「はい、確かに小日向さんのおっしゃられる通りです。俺、いえ、自分は民間人、部外者の立場でありながら勝手に御社の管理地内での戦闘をしてしまい、申し訳ありませんでした」


 俺は、自分が勝手に魔法を使って戦闘をしたことを隊長さんに謝罪した。


 敷地内での治外法権を持つ存在、メガコーポ。

 ダンジョン周辺はメガコーポ、フチナダの所有地であり、そこでの行動は全てフチナダの判断で処罰されるからだ。


「いや、今回は緊急事態。それに人命救助のための戦闘であれば、上も文句は言うまい。何せ、士長のリアルタイム配信でキミや士長の人気がうなぎ登り。これで君らに必要以上の罰を与えればメガコーポと言えども後で困るからね」


 にこやかに話す部隊長。

 しかし、その顔や制服から覗く太い腕に刻まれた傷跡は歴戦の勇者の佇まいを、半分素人な俺にすら感じさせる。


「そう言って下されば、自分も助かります。実は、近日行われます御社の企業軍士官学校への入学試験を受けに、田舎からこちらに来ましたので」


「そうか。なら士官学校を卒業すれば御子神くんが俺の上司になるかもな、ははは。『覚醒者』が増加した昨今でも『魔法使い』は更に貴重。覚醒者が総人口の百分の一なら、その更に百分の一だからな。その上、即実戦レベルとなれば、まず合格は間違いあるまい」


「そうですよね、隊長。ハルトくん、可愛いのにとっても強いんですから」


 ……ここで関係者に好印象を与えるのも、企業内で伸し上がる秘訣。まずは士官学校に合格しなきゃ、縁故もない俺がメガコーポ入社は難しい。更に内部で成り上がるには、この方法が一番早い。全てはアヤを取り戻すためだ。


 俺は妙にウキウキなナナコさんの視線を感じながらも、隊長さんに礼儀正しく向かう。

 孤児院育ちの俺は大人と話す機会も多く、少なくとも外面そとづらだけは大人達に良い印象を与えるようにしてきた。


 ……まあ、爺ちゃん。師匠には全部バレバレだったけどな。


「しかし、IDデータから見るに魔力がDランクなのはおかしくないか、御子神くん? 報告や映像、自分が目撃した結果からは、Aランクは十分ある様に見えたのだが?」


「それでしたら、小学生の時に『魔法使い』と認定された時以降に検査を受けていないんです。自分が育った孤児院は田舎にありましたので。魔法使い認定後の検査は必須じゃなかったですよね?」


「わたしが『覚醒者』認定を受けたのは高校の時でした。『魔法使い』になれる程の魔力は無いけれど、ダンジョンに潜れるくらいのレベルはあるって認定を受けたんですぅ」


 国以上に権力をもった超巨大企業、メガコーポが全人類をIDによって管理するディストピア情報管理社会、それが今の世界。

 全ての個人情報は個人IDに紐づけられていて、DNAなどの生体情報、既往歴、魔力、学歴、銀行口座や賞罰も全て国家や企業の管理下だ。


 ……スラム生まれとかのIDレス無しなら、何にも縛られない代わりに援助や年金、医療保健なんかの社会的サービスが一切受けられないけどな。


 そんな中で、銃火器以上に危険な存在となり得る「魔法使い」は、認定を受けると優遇されるのと同時に、厳しく管理されている。


 魔法使い。

 それは世界や体内に満ちるマナを使い、なんらかの術、奇跡を行使する者たちの総称。

 俺みたいな東洋系オリエンタ魔術の他、西洋ヨーロピアン魔術、伝統呪術、精霊術などなど多種にわたる系統がある。

 昨今ではダンジョン由来の術式もあるそうだ。


「孤児院育ちか。あ、立ち入った事を聞いてすまん。まあ、一度『魔法使い』認定を受けていれば、問題さえ起こさなければ追及されんからな。ちょうど試験では魔力測定も同時に行われていると聞いている。今の実力が正当評価されると良いな、御子神くん」


「ありがとうございます。で、配信がどうとかおっしゃられていましたが?」


「そうなの! わたしの個人配信の視聴者数が爆発しちゃったの!」


「士長は、しばらく黙ってなさい! 視聴者が増えて嬉しいのと御子神君を好きになったのは分かるから。さて、御子神くん。君はダンジョン配信について、どこまで知っているかな?」


 ナナコさんが苦笑いな隊長さんに図星な指摘を受けて、顔を真っ赤にして黙り込む中。

 隊長さんは俺に質問をしてきた。


「御社のようなメガコーポの社員兵士さんや認定冒険者さんがダンジョン内での行う活動を、ネットにて映像配信なさっているものですよね?」


「ああ、その通りだ。彼らは全員ボディカメラを装備していて、そこからの映像を数秒遅れで生配信をしている。数秒遅れなのはAIによるモザイク判断とかのためだがな」


 俺も、幾度も冒険者がダンジョン最深部でモンスター達と戦う動画は見たことがある。

 アヤがメガコーポに奪われて以降、奪還時にメガコーポの兵士と戦う場合も考え、彼らの戦い方を映像で学んでいた。


「動画配信は我が社や他のメガコーポがエンタメとして、また住民や顧客に安心を約束する為に行っているサービスというのが公式発表さ。それは社員全員、そこの惚れっぽい士長も同じで彼女のカメラを通じて御子神くんの活躍が公になったということだ」

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