第2話 恐怖、ウメダ・ダンジョン 大規模氾濫(スタンピード)!
「はぁはぁ。坊や達、お姉ちゃんが絶対に助けるからね」
「うん」
「こわいよぉ、おにーちゃーん」
高濃度マナが充満する領域、『
立ち並ぶ
大阪梅田駅。
かつては大阪の中心として栄え、冗談半分に広大な地下街がダンジョンと呼ばれていた。
しかし、梅田は「世界の覚醒」の日以降、本物のダンジョンと化してしまった。
多くの人々がスラム街を逃げ惑うが、ダンジョンから溢れたモンスター達によって彼らは一人、また一人と無残に殺されていく。
それは、ダンジョンを管理する
モンスターの大規模
「ここに隠れてて。お姉ちゃんが君たちを、ぜ、絶対に守るから」
「怖いよぉ」
だが、一人の若くて小柄な眼鏡女子兵士がモンスターの前に一人立ちはだかり、
一発、一発と撃つたびに直径八ミリ程の散弾が九個銃口から飛び出す。
複数の小型モンスター、小学生くらいな身長で緑の肌な醜い
ゴブリンは身に付けていたボロ布や粗悪な刃物ごと黒いチリになって、死体は紫色の小石を残し消えていく。
しかし仲間達が撃たれても撃たれても、怯まずにゴブリン達は女性兵士へと向かってきた。
……せ、せめて。この子達だけは守らなきゃ。
必死になって背後の子供たちを守る若き女性兵。
彼女は自分の「力」が人々の役に立てたらと思い、日本を代表するメガコーポ、
その後、彼女は高濃度マナ耐性がある「覚醒者」だったので、大阪ウメダ・ダンジョンの警備兵に選ばれ今日まで働いていた。
……わたし、このままカレシも出来ずに死んじゃうのかなぁ。部隊から勝手に飛び出しちゃったのは失敗だったよね。
警備部隊がモンスター
ナナコは「助けを呼ぶ心の声」を聞き、部隊長の制止の声を聴かず飛び出してしまった。
「覚醒」して得た力、「テレパス」により微かに聞こえた幼い助けを呼ぶ声を無視できなかったから。
小柄な彼女は、背後の
しかし、多勢に無勢。
十発、十五発と引き金を引いていく内に残弾全てが撃ち尽くされ、引き金を引いても弾が出なくなった。
「キャヒヒぃ」
相手が若い女性と知り
徐々に迫りくるゴブリン達に恐怖しながらナナコはショットガンを地面に置き、腰から自動拳銃を抜いた。
……ゴブリンに捕まったら、女の子は死ぬより
ガタガタ震える手で、
安全装置を解除した自動拳銃の銃口を、恐怖に震えながらゴブリンに向けるナナコ。
しかし視界は涙で歪み、大き目な眼鏡もずれ落ちそうになっている。
「も、もうダメェ」
下品な笑いをしながら迫るゴブリン達に恐怖し、思わず拳銃を自分の顎下に押し付けた瞬間。
「お前ら、寄ってたかって人間をイジメるなぁ! ノウマク・サマンダ・ボダナン・インダラヤ・ソワカ!
高らかに呪文、
その声、まだ声変わりをしたばかりの幼さを感じるも、とても凛々しく力強かった。
想像もしない状況にゴブリン、そしてナナコの動きが止まった。
そして次の瞬間、ゴブリン達に紫色な電撃が襲い掛かった。
ナナコを襲おうとしていたゴブリンの集団は、激しく感電をし一瞬痙攣をしたかと思うと全て黒いチリと化し、後には多くの紫色の小石、魔石が転がっていた。
「へ? 一体何が?」
雷光の眩しさに目をぱしぱししたナナコ。
彼女の鼻に、どこか生臭いオゾンの匂いが漂ってきた。
周囲をキョロキョロ見回し、自分を襲っていた敵が全滅したのを知り、自分が助かった事に気が付いたナナコ。
緊張の糸が切れたのか、腰が抜け地面にぺたりとへたり込んでしまった。
「大丈夫ですか、貴方? え、女の子? 小柄な兵士さんとは思ってましたが」
ナナコを見下ろす少年。
自分を助けたはずの少年の奇妙な服装に、ナナコは首をかしげた。
「お坊さんの男の子? もしかして、わたしゴブリンにレイプされてて夢見てるの? それともお葬式にお坊さんが来てくれたのかな?」
頭に
黒い法衣に身を包むツンツンな黒髪の童顔少年。
間違ってもこんな場所に居そうも無い少年の姿に、ナナコは自分が夢を見ているのかと思った。
「あ、この衣装は爺ちゃん、師匠の形見で彼が退魔行で使っていたものです……。そ、そんな事より貴方。今は早く逃げましょう」
自分の衣装にナナコの視線が向いている事に気が付いた少年は、顔を赤くしつつも座り込んでいる彼女に手を差し伸べ避難を
「はい。あ、後ろに子供たちがいます。二人ともよく頑張ったね。お姉ちゃんとお兄ちゃんが、貴方達を安全な場所まで送ってあげるからね」
「うん。ありがとー。お兄ちゃん、すっごくカッコいい!」
少年は、ナナコに頭を撫でられている子供達に褒められたのが恥ずかしいのか、ますます顔を赤くした。
◆ ◇ ◆ ◇
……全く、俺もお人好し過ぎるぜ。関係ないって無視して逃げりゃ良いのに、子供たちが昔の俺と
俺は背後の女性兵士、小柄でまるで女子高生くらいに見える眼鏡っ子と避難民の兄妹を庇いながら「ダンジョンに堕ちた」らしいスラム街を逃げる。
高濃度マナのむせかえる様な感覚が俺を苛む。
また、幼いころの俺とアヤを襲ったゴブリンとはいえ、人型モンスターを殺した罪悪感も湧いてきた。
「あのぉ。貴方は、どうしてココにいたんですか? どうみてもまだお若いのに見事な魔法をお使いですし」
「俺は。あ、そういえば自己紹介してませんでしたね。俺は
「そうなんですか。じゃあ、わたしよりも四つ歳下になるのかな、ハルトくんは。わたしはナナコ。
……え!? その外見で二十歳? どうみても女子高生だぞ?
俺は思わず後ろに顔を向け、似合わないヘルメットや戦闘ジャケットを借りものの様に纏うナナコさんを見た。
防弾ベストをグンと盛り上げる胸の大きさは確かに見事であろうが、身長は160センチ少々な俺の肩下くらい。
顔も幼さが目立つメガネっ子。
俺の同級生と言われても、疑う余地が全くない。
「お、お姉さんなんですか? あ、すいません、小日向さん。何処に非難すれば安全になりますか? 俺。今日ここに来たばかりで土地勘が無くて」
「多分、警備詰所にまで逃げられたら……。あ! 今、本部と連絡が付きました! 北西の方角……。だから、このまま真っすぐ逃げてください。本社の精鋭部隊が、こちらに向かってくれているそうです」
ナナコさんはヘルメットと一体化しているバイザー型のデバイスに視線を移し、情報を入手している様だ。
「あ、ハルトくん。これはね、情報イルミネーター。通信機能やカメラ機能があって本部や配信視聴者からの情報が見えるの。え! わたしの配信の視聴者数がうなぎ登り??」
俺の視線で、何に興味があったのか分かったナナコさん。
機密なのか、常識なのか、俺では判断できない情報をペラペラと話してくれる。
戦闘直後の興奮と、窮地を助けた俺に対する好意が透けて見えるが、あえて俺は気にしない事にした。
……配信視聴者かぁ。俺がメガコーポ内で成り上がるのには必要なのだろうけど。アヤをメガコーポ、フチナダから取り返すには内部で出世するのが早道だろうし。
俺は、妙に機嫌がいいナナコさんや子供たちを背後に庇いながら、バケモノたちを真言呪法で吹き飛ばしていった。
「ノウマク・サマンダ・バザラダン・カン!
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