噴水ヘアー

 私は、果穂ちゃんの高校生大学生の頃を全く知らない。

記憶に深く残っているのは、小学生位の思い出だ。


 果穂ちゃんは3歳下。

どちらかというと大人しめの子だった。

いつも、

「お姉ちゃん、待って!」と言って、どこに行くにも着いてきた。

でも、それが嬉しくて、面倒をみてあげないといけないと思っていた。


今は、すっかり逆転だ。


「お姉ちゃん、何考えてるの?」

「お姉ちゃん、洗濯物溜まってるよ」

「お姉ちゃん、そんな格好で外に出ないで」

と言って、寝癖の髪をセットしてくれたりもする。

 

 果穂ちゃんが、私の髪に寝癖スプレーをかけて、手でセットしている時に、ふと小さな頃を思い出した。


「そういえば、昔は、私が果穂ちゃんの髪を結えてたんだよね」


「そうだね!ほんとに小さい頃だよ」


 前髪が伸びてきて、目にかかってくると、前髪をぐっと掴んで、脳天あたりでゴムで結える。

そうすると、子供の頃の艶やかでコシのある果穂ちゃんの髪は、綺麗に弧を描いて噴水みたいだった。

幼い果穂ちゃんには、それが可愛かった。

お人形遊び感覚だったのかもしれない。



「ほんと嫌だったんだよね、あの髪型。

噴水みたいって言われて」


「え!そうだったの?」


「当たり前じゃない!

小学校入って、あの髪型はイタすぎるよ。

だから、毎朝、お友達のお母さんに直してもらってたんだよ」


「えー!ショックー!」


「時々ツインテールもしてくれてたじゃない。

あれも直してもらってた」


「ツインテールは難しいんだよ。

真ん中のラインがなかなか見つからなくて、高さとか毛量が左右違っちゃったりして」


「そういえば、お母さんに、私たちの髪を結えるとかしてもらった記憶ないね」


「そうだね」


「小2になって、おばあちゃん達と暮らすようになってからは、おばあちゃんが結えてくれるようになったよね。

やった!お姉ちゃんから解放されるって思ったもん」


「そうなの?なんか悲しいな」


「でも、お友達のお母さんが言ってたよ。

また、お姉ちゃんがやってくれたのね。

いいお姉ちゃんねって」


姉はウルウルしている。


「お姉ちゃんには感謝してるよ。

だから、こうやって寝癖まで直してあげてるじゃない!」


「ケイトにも噴水ヘアーやってるけど、そのうち嫌だって言い出すよ。

それまでに、新しい結え方覚えないとね、お姉ちゃん!」


「いつまで、あの髪型やらせてもらえるのかなー?」


「まあ、せいぜい幼稚園入る前くらいじゃない」


「うそー!そんなに早く!」


「どう見たって、幼児の髪型じゃない、あれって」


「うそー!私、去年までやってた。

それで、ライブ出てたし」


「はぁ!」


「その後ろの髪も3段位に分けてゴムで結えて、モヒカンにしてたよ」


「それが、お姉ちゃんの言う可愛らしい系のモヒカンてこと?」


「うん。私は噴水みたいにはならなかったけど」


「写真ないの?見せて!」



 たしかに、モヒカンだ。

噴水みたいに、きれいな弧は描いていなかったが。

ちょっと、可愛らしい。


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