パンクな姉と優等生な妹の噛み合わない夜(短編集)〜Scream of No Nameのスピンオフ

かりんと

渡せなかった誕生日プレゼント

 高校の卒業式の日、ミュージシャンになりたいと言って、両親から家を追い出された姉。

その日から、私は何も知らされず、それっきりだった。


 1ヶ月後、姉から突然メールが来た。

幸子おばさんの家から出て、今郊外のレコーディングスタジオで一人暮らし(?)しているという。

(?)が気になるが。

要は、泊まりに来ないかというお誘いだった。

でも、その話も突然流れた。


 その後のメールは、今どこにいるという内容のメールばかりだった。

最終的には、

「来週からアメリカに行く」


 結局会えずじまいで、8年が経ってしまった。

私は、突然出ていってしまった姉に腹も立っていたので、おじいちゃんが急死した時以外、自分からメールすることもなかった。


姉からのメールも、いつの間にか、転機があった時だけになった。

例えば、

「今イギリスにいる」

「子供が生まれた」

「日本に帰ることになった」


姉の存在を忘れる程、疎遠になっていた。


 そんな姉と8年ぶりで会うことになった。

最後に会った姉は、高校の制服を着ていた。

いつも伏せ目がちで、ショートヘアーのボーイッシュな女の子だった。


私も、それなりに8年後の姉を想像して、空港に迎えに行く。

あまりの豹変ぶりに驚いた。


 革ジャンに黒いスキニージーンズに黒のショートブーツに変な髪型。

ボーイッシュを通り越して、どう見ても男の子だ。

さらに、酷く痩せ、青白い顔で、目には力も無く、どす黒いオーラを放っていた。

こんな姉と、これからどうやって付き合っていくの?

もう、姉はいないことにしようと考えたくらいだ。


 しかし、共通の恐怖の対象である母の出現で、姉と、当時話したくても話せなかった思いを二人でぶちまけたことで、少しづつ話をするようになった。


「お姉ちゃんが出ていった日、お姉ちゃん誕生日だったよね?

悲惨な誕生日だったね!」


「そうだね!泣いたよ!

でも、幸子おばさんの家に、おばあちゃんがこっそり、着替えとかスマホとかと一緒に、コンビニのいちごのショートケーキを持って来てくれたんだよ。

嬉しかったよ!

泣きながら食べたもん」


「知らなかった。

あの日、私はケーキは食べられなかったよ。

お姉ちゃんのせいだって、色んなことに腹が立った」


「ごめんね!果穂ちゃん」


「お母さんがあんな剣幕で怒るのは想像できたけど、お父さんが止めてくれなかった。

私だって、本当に追い出されるとは思ってなかったよ」


「お姉ちゃんのせいじゃないけどね!

なんか、悲しいを通り越して怒りになっちゃったんだよね」


「ひさびさに会ったのに、果穂ちゃん冷たかったもの。いつも泣いてたんだから」


「そうじゃなくても、事あるごとに泣いてたじゃない、あの頃」


「そうだね」


「あの時、お姉ちゃんにお誕生日プレゼント用意してたのに、渡せなかった」


「え!そうなの?」


姉は泣き出した。

しゃくりあげながら、


「何買ってくれたの?」



「ピンク色の口紅」



「嬉しい!私、絶対似合ってたよ!」


「ないない!」



 もし、あの時、お誕生日プレゼントを渡すことができていたら、姉は今とは違った姿だったんだろうか?

時々そう考えることはある。



 


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