001

 日曜の早朝。普通の高校生なら惰眠を貪っているである時間帯。ここ【ラーメン相沢】の厨房には既に湯気が立っていた。


 相沢あいざわ 凱斗かいと。この店の主人の高校2年生。即ち俺が既に仕込みを開始しているからだ。


 両親は3年前ほどに交通事故で他界していない。天涯孤独の身になった。頼れる親戚もいなかったので、高校に上がるまでは施設に入っていたが、中学卒業と同時にこの店に帰って来た。親父が残したたった一つの財産だからな。


 ホントなら高校にも入学したくは無かったが、世間の目が厳しいとの理由で、まあ、俺が勝手にそう思ったのだが、ともかくそんな理由で共学の普通校に入学し、部活にも入る暇もなく、生活の為に日々ラーメンを作っている。


 隣の蕎麦屋の同級生の女子(一応幼馴染だ)が店の手伝いもせずに、空気も読まないで学校帰りにどこかに寄って行こうと誘われても断るし、片手で足りる友達と呼べるであろうカレー屋の親友に、休みにどこかに行こうと言われても断ってしこしこしこしことラーメンを提供している。


 おかげさまで結構な繁盛店になったのだが、そんな理由で学校では孤立気味。まあ、事情を知っている蕎麦屋の娘とカレー屋の親友がいるから、疎外感を感じた事が無いのが救いか。


 そんな事を考えていると、沸騰直前の寸胴にちょっと焦った。


 俺のラーメンスープは沸騰させない。味が濁ってしまうから。まあ、この辺りは各お店の判断だろうが、俺はそうだ。


 火を弱めて灰汁を掬う。この灰汁取りを適当に済ませてしまえば、繁盛店から一気に奈落の底に落ちるから注意が必要だ。


 終わったら終わったで野菜を切る。タンメンなどは野菜を多く使うので包丁を振るう頻度も抜群に上がる。


「って!」


 指を切ってしまった。この頃はそんなヘマをする事は無くなったのに、俺もまだまだだなぁ。


 衛生管理の視点からもこのままでは不味い。なので絆創膏を探す。


「あの~、すみません~」


 今絆創膏探しているから後でな。


「あの~、あなたに望みはありますかぁ?何でも叶えますよ。その代わり少々手伝っていただきたい事があるんですが……」


 望みねえ……絆創膏…いやいや、どうせなら傷がすぐに治る身体とか?いやいや、そうした場合、結果老化が早まるとか何かで聞いた記憶があるな。だったら分解して構築…って、どこぞの錬金術かよ。


「分解と構築、ですか?そんなお願いする人いるんですね。多分大丈夫だと思いますが……しかし珍しい。普通はお金とか住居とか食料と聞きましたけど」


 しかし無ぇな絆創膏。どこ仕舞ったっけ……って、「おおおおう!!?」


 全身が光った!!しかも若干熱い!!なんで!?どんな超常現象だ!?


「……成功のようですね。良かった。これで少しは安心しました」


「え!?」


 声に反応して振り向く。そこには金髪で少し垂れ目の女が笑いながら額の汗を自分の腕で拭っていた――

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