悪役貴族に転生したけど魔法を極めたい!~努力なしでも最強クラスの悪役貴族が努力の果てに最強魔法使いとなった結果、ゲームのヒロインたちが押し寄せてくるようになった件~

リヒト

プロローグ

プロローグ

 理系分野、文系分野どちらであろうとも常に全国模試一位の秀才。

 運動神経抜群であり、クマすら素手で勝利するフィジカル化け物。

 文で行けば歴史に残る大発明を残し、武で行けばオリンピック金メダルでさえも容易な怪物がとある名門でもない公立の高校に一人。


 文武両道な圧倒的エリートでありながら綺麗な白髪に蒼い瞳を持ったその少年は、まさに天が二物どころではないものを与えた例と言える。

 彼はまさに神が作りたもうた最高傑作であった。


「……むぅ」


 だが、そんな少年には一つの欠点が存在していた。


「空白の四世紀。ここら辺ちょっと気になるんだよなぁ。まぁ、十中八九ただの大寒波によって引き起こされた食糧不足から大陸の方がごたつき、それによって大陸人が流れたことによって文明度が上がると共に交配が進んだことで人も変わっただけだろう……だけど、だ。その間に西洋では宗教の在り方を変えたニケーア公会議が起こっているし、無理やり繋げられないこともない。いや、無理筋か」


 ただ一人しかいない空き教室において座る少年は何かをぶつぶつと呟いている。

 そんな彼の手元には『中世の暗黒魔術』という胡散臭さしかないような本が置かれている。

 少年は胡散臭い本を高速に読み進めながら、神についての考察を頭の中で回しているのだった。


「……この本もダメか、理論的に可能な魔法はなさそうだ」


 少年の欠点。

 それは高校生にもなって本気で魔法を使おうとしているところである。神の実在を信じ、奇跡の可能性と魔法の存在を確固たるものとしての存在を

 小さな頃であれば───否、今も彼は背丈が低いために周りから見れば夢見がちな少年で済むため、世間から冷たい眼で見られることもない

 だが、それでも高校生であることを知る同じ高校の人間からは痛い奴という罵りを受け、冷たい視線を浴びるのは半ば仕方ないことであった。


 超がつくほどの天才が本気で魔法が使えると信じて日夜様々な奇行に励んでいるのだ。いくら少年が圧倒的なスペックを持っていようともクラスから疎外されるのは当然とも言えた。


「ふぅー、もう学校の最終下校間近だ。早く帰るとするか」


 席から降りた少年は自分の手にある中世の暗黒魔術というタイトルがでかでかと書かれる本を同じようなジャンルの本がパンパンに詰められた本棚へと仕舞う。


「……何か、いないかなぁ」


 自分以外は誰も使っていない空き教室の施錠をしっかりと行った少年はそのまま手ぶらで帰路につくのだった。

 学校の七不思議。

 そのどれか一つにでも当たらないかとすっかり暗くなってしまった後者をたった一人で歩きながら。

 

 ■■■■■

 

 自分の制服のポケットの中へと己の手を入れ、その中にあるスマホを軽くにぎにぎしながらすっかり暗くなってしまった下校の道を歩く。

 一番家から近い高校に入った少年は徒歩圏内に自分の高校があるのだ。家まで徒歩で五分もかからない近さである。


「……ん?」


 ぼーっと歩いていた少年は自分の視界の端で熱心にスマホへと視線を送っている一人の小さな少女がいることに気づいた。

 その子は赤く染まっている信号にも気づかずに横断歩道を渡ろうとしており、そんな少女へと猛烈なスピードを出すトラックが近づいてきていた。


「───」


 気が付くと、少年はほぼ無意識のうちに飛び出していた。

 今まさに轢かれそうになっていた少女との距離を一瞬にして詰めた少年はそのまま……。


「いった」


 あまりにも強すぎる衝撃。

 全身がバラバラになるかと錯覚するほどの衝撃を受けた少年の体が少女の代わりにまるでゴミかのようにして地面を転がる。


 全身を覆う熱さに体を痺れさせるほどの激痛。

 

 そうとなってもなお、トラックに轢かれて飛ばされたもなお、地面を転がって満身創痍となるだけでまだ死んでいないどころか立ち上がろうとしていた少年を───。


「……あッ」


 ───急な事故を前にして止まれなかった車が轢き潰す。

 地面に転がる血まみれの少年と死から免れた小さな少女の劈くような悲鳴に慌てて止まろうとする車の多くが玉突き事故を起こし、その下にいた少年がそれらの衝撃を受け続ける。


「がっふっ」

 

 熱に支配される己の体、口から吐き出る血に死を訴える己の心臓。


「(あぁ……これは、ダメだな)」


 周りの喧騒すらも聞こえなくなっていく少年はぼやける視界でぐちゃぐちゃになる己の体をぼーっと眺めながら諦観の意を浮かべる。

 これまでずっと熱に支配されていた体から熱が抜け、冬が訪れたことを感じる。


「あ…、あぁ……か、み、……まぁ」


 何かを、ボヤキ、うまく声を天へと届けれなかったその少年の瞳が閉じらえ、そのまま意識は暗転するのだった。


 ■■■■■


 落ち行く意識と魂の光の中で。

  を見た──は叫ぶ。叫んで叫んで叫んで、腕を伸ばそうとしてそれで自分には何もないことに気がついて、再び──が叫んで。その果てに何も、起こらずに。


 そのまま堕ちた。


  の下で。 の下で。 の下で。

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