第21話 エースたちとの戦い(1)

 日向は、鮮烈なデビューを飾った後、「復活!ミスターパンサーズ」とか、「世界最高齢のプロ野球選手(非公認)」「史上最高齢のホームラン」などと連日騒がれ、注目の的となった。どこへ行っても多くのファンに囲まれ、球場入りすると多くの記者が取り巻いた。その中には、記者も含め、うさんくさい人物もいた。


 丸山は、時空を飛び越えてきた日向が、こんな連中にだまされるのを心配していた。彼が入団するまでは、丸山がマネージャーのような仕事をしていたが、彼にも日向に関する記事の依頼などが増えたため、自身の仕事で手一杯になっていた。そこで、自身の経理処理のために作った事務所の業務を拡張して、日向をマネジメントする会社にし、彼と契約を結んで野球以外のサポートをすることにした。そして、大伴に専属のマネージャーになってもらった。


 彼は、日向を尊敬していて、真面目で几帳面な性格のうえ、勉強熱心だった。また、現役時代から。いろいろな人から儲け話などを持ちかけられ、だまされ掛かったり、たちの悪い記者に根も葉もないことを書かれたりするなど、つらい思いをしてきた。そのため、人を見る目が培われ、怪しそうな人間を見極め、あしらう方法を心得ていたので、マネージャーとして適任であった。さらに丸山からは、日向が記者の話を鵜呑みにしたり、誘導尋問のような質問に乗って、炎上するような発言をしたりしないよう目を光らせておくよう言われていた。


 日向のデビュー戦となったギガンテスとの2連戦は、初戦に逆転勝ちしたパンサーズが、その勢いを駆って、次戦も勝ち、連勝を遂げた。日向は、2戦も代打で出場したが、レフトライナーに終わり、このカード2打数1安打3打点であった。この結果に、日向も首脳陣も、とりあえず安堵した。

 試合が終わって帰ってくると、ゴンドウの前で、権藤夫妻と大勢の客が待ち構えていて、二晩続けての大騒ぎとなった。


 次のカードは、辛酉園での東京ヤマノテスパローズとの3連戦だった。スパローズは、現在2位で、首位ギガンテスを3ゲーム差で追いかけていた。


 パンサーズは、ギガンテス戦での連勝で波に乗っていた。初戦は、日向の登場で、ポジションを奪われるのではないかと、焦りを感じたカーネルの打棒が復活し、パンサーズの一方的な試合となった。日向は、8回からカーネルに代わって守備についたが、打席は回ってこなかった。


 続く2戦目は、両チームとも左腕で、スパローズは、左のエースと呼ばれる大宮が先発し、投手戦となった。8回まで、パンサーズが、小刻みな継投で、最少失点でしのいだのに対し、スパローズは、大宮が投げ続け、0点に抑えたまま8回の裏を迎えていた。パンサーズは、疲れの見える大宮を攻め、一死一、二塁としたところで、日向が代打に送られた。


 ベンチから日向が出てくると、大歓声がおこった、審判に交代を告げて戻ってくる葛城監督が、彼にエンドランのサインを出すぞと告げたが、大歓声でかき消され、よく聞こえなかった。彼は、聞き返そうとしたが、審判から早く打席に入るよう促されたので、仕方なく打席に入った。気になったが、まずはバッティングに集中することにした。


 初球は、外角のボール。2球目は、ストライクゾーンに向かってきたので、打ちに行ったが、途中で急激にブレーキが掛かり、日向の方に向かって曲がったので、空振りした。この球に日向は驚き、

「こんなよく曲がるドロップは、右と左の違いはあるが、佐和山のようだ。」

と、キャッチャーに聞こえるように呟いた。佐和山というのは、戦前のギガンテスで活躍した伝説のエースで、快速球とブレーキの利いたドロップ(カーブ)が持ち味だった。

 3球目は、内角高めのストレートだった。ボールになったが、日向は、佐和山と遜色ないスピードと切れがあるボールだと思った。


 彼は、一旦バッターボックスから片足を外した。三塁側のコーチャーを見ると、何やら両手をあちこち動かしているのが見えた。彼は、打席に入る前に監督が言っていたのは、このことだったのかと思ったが、コーチャーからのサインにまだ慣れていなかったので、キーになるサインを見逃してしまい、何のサインか分からなかったが、打つだけだと思って打席に入った。


 4球目、大宮の右足が上がると同時に、ランナーが走り始めた。日向は、外角低めにきたカーブに上手く反応してたたくと、鋭い打球が、セカンドの頭上を越え、右中間を破っていった。スタートを切っていたランナーは、両者とも生還し、逆転した。セカンドに滑り込んだ日向が立ち上がると、スタンドからは、彼に向かって、大きな声援が送られた。


 3戦目は、代打で犠牲フライを打った後、守備につき、その後もう一度打席が回ってきてヒットを打ち、2打数1安打1犠打だった。いずれの当たりも大きく、フェンス際まで飛んだ。彼は、この調子なら十分やっていけると感じていた。


 こうしてスパローズとの3連戦は、パンサーズにとって、今シーズン初の同一カード3連勝に終わり、後半戦再開後、5連勝を飾った。

 関西のスポーツ紙は、日向の連日の活躍を一面トップで報じた。日向は、試合前後に、多くの記者が自分を取り巻くのに戸惑っていたが、大伴が、さりげなく裁いてくれたので、助かっていた。

 ゴンドウでは、連日多くの客が詰めかけ賑わっていたが、いつものように気前よくサービスしてしまう権藤に、妻の良枝は渋い顔だった。



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