プロ野球キャンプ地で出会ったのは転生してきた伝説の強打者だった

宮胡草一郎

プロローグ

 太平洋戦争後半、日本の敗色が濃厚になっていた昭和19年10月、日本陸軍の兵士を乗せた輸送船|湊川丸は、駆逐艦と海防艦に守られ、数隻の輸送船とともに、中国大陸からフィリピンに向かうため、東シナ海をひた走っていた。


 海は穏やかだったが、乗っている兵士の多くは、船酔いに苦しんでいた。しかし、運航する船員たちは、アメリカ軍の潜水艦からの攻撃を警戒し、緊張しながら海を見張っていた。その時、ブリッジの左端にいた見張員が、

左舷ひだりげん10時の方向に潜望鏡。」

と叫んだ。するとすぐに、船はスピードを上げ、魚雷攻撃を受け難くするため、潜水艦に対して側面を見せないよう左にかじを切った。


 船は大きく右に傾き、甲板に出ていた兵士たちは、驚いて大声を上げた。兵士たちは、傾斜した甲板から海に落ちないよう、何かに必死でしがみついていた。中には、手を合わせて祈る者もいた。しかし、

「魚雷だ。」

という叫び声がするや否や、湊川丸の中央に大きな水柱が上がり、多くの兵士が吹き飛ばされた。船は、急激に傾き、あっという間に沈んでしまった。


 その男は、吹き飛ばされた瞬間、意識を失った。しばらくして気が付くと、真っ暗闇の中にいた。

 寒くも暑くもなく、浮かんでいるような感じで、海に落ちたはずなのに体も濡れていなかった。そのため彼は、もう自分は死んでいるのだろうと思った。やがて、遠くの方に不思議な光が見えた。その光はどんどん大きくなり、彼の体を包み込んでいった。やがて彼の意識は、再びなくなった。


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