落ちこぼれの悪魔使いだけど魔神を召喚したら顔の良い女達に囲まれるようになったわ〜美女と美少女に迫られて私の情緒が危ない〜

生獣(ナマ・ケモノ)

第1話 序章

私、エレナ・クライドは孤高の悪魔使い。


魔法国家と称されるカルネージ王国の中心……から離れた最北端に聳え立つ王立パトリック魔法学校では登校時間になると凡百の魔法使い達が小鳥のようにおはよう!と騒ぎだすけれど私は違う。


何故なら孤高の悪魔使いだから。



「あ、エレナちゃんおはよー」


「……! キャロ、おはよう!」



けれど何事も例外というものがある。

彼女……キャロライン・ラフォレーゼがそう。


キャロは私にも笑顔で挨拶してくれる。

代々医者の家系で、自身も医者を目指して勉強中の胸も器も大きい、青い髪が綺麗な私の唯一の友達。

そんなキャロが挨拶してきたのなら当然私も返す。

孤高と礼儀知らずは違うのよ。



「あー、エレナちゃん隈出来てるー。また夜更かししたんでしょー?

悪魔使いの先生が居ないから独学で勉強しないといけないのは分かるけど……ちゃんと寝ないとダメだよ?」


「ひぇぇ〜……」



キャロは両手を私の頬に添えながら親指で目の下をなぞってきた。

我ながら変な声を出してしまったと思うけど、顔の良い女にそんな事されたらしょうがないじゃない。



「キャロー! ちょっと良いー?」


「あっ、うん! ごめんね、呼ばれたから行ってくるね?」


「あっ…あっ……うん」



行っちゃった……授業が始まるまで寝てよう……




※※※※※



「この様に中級の炎魔法に必要なのは酸素を取り込むイメージです。

焦らず、少しずつ炎を大きくしていきましょう」


「「「はい!」」」


「あ、クライドさんは待っててね。先生と一緒にやりましょうね」


「……はい、ミン先生」



クスクス、と笑われた気がした。

以前笑った奴が怒られてからは授業中に実際に笑われる事は無くなったけど……空気で分かる。

クソ、クソ……! 私だって努力してるのにアイツらはちょっと魔法が使えるからって人を見下して……っ!

いつか絶対に引き摺り下ろして私の方から見下し……



「クライドさん!」


「へ? うわっ!?」



しまった……

集中を欠いて暴発だなんて……


 

クソ、見るな


嘲笑うな


見下すな……っ



ちくしょう! ちくしょう……っ!


泣いたらダメだ。

泣いたら終わりだ。

泣くな泣くな泣くな……



「エレナちゃん!」


「キャロ……」


「火傷してる……じっとしてて」



キャロの両手が私の火傷した右手を優しく包み込む。



「い、いや良いわよ別に……っ」


「動かないで!」


「はぃ……」



キャロが目を閉じて精神を集中させ呪文を唱える。



「神域より添えし、透き通るる白の光

我が手に宿り癒す力を与えよ

罹病の者を蘇らせ、疲弊した魂を浄めよ……ヒール!」



私の右手が淡く暖かい光に包まれる。

徐々に火傷の痛みが引いていき、両手が外される頃には傷跡も綺麗に無くなっていた。



「ふぅ……」



キャロが額の汗を拭う。

治癒魔法はべらぼうに魔力を消耗する。


兵士一人を治す魔力で敵兵を10人は殺せる……とは誰の言葉だったかしら。



「もう、ちゃんとに集中しないとダメだよ?」


「ごめん……先生もごめんなさい」


「いいえ、目を離した私にも責任があります。焦らず、ゆっくり感覚を掴んでいきましょうね」



その後、先生が付きっきりで指導してくれた。

結局、私の炎魔法は一度も発動しなかった。


 

※※※※※



放課後、私は本を抱えて帰路につく。

図書室から悪魔召喚は勿論、悪魔事典や精霊召喚。

更には悪魔討伐の英雄譚まで借りてきた。


この学校に悪魔使いは私しか居ない。

父親は悪魔使いの責任から逃げ、唯一の師匠とも言えるお婆ちゃんはもう天国に旅立ってしまった。


だから私は独学で研究するしかない。

この本の中に僅かでも悪魔召喚へのヒントが得られるなら睡眠時間を削る価値は大いにある。



「ふふふ……悪魔を召喚した暁には私を笑ったクズ共に頭を下げさせ痛った……⁉︎ 転っ、なに……っ⁉︎」



何かに躓いて……いや躓かされた私はキョロキョロと辺りを見回す。

犯人はすぐに見つかった。



「あらあら、こんな所で体と本を投げ出して何をしていますの?」


「シーラ……っ!」

 


取り巻きを引き連れて現れたのはシーラ・インニェルド・アーミテイジ……四大貴族と呼ばれる上流も上流の貴族のお嬢様。

その肩書きで縦ロールの癖に赤毛というお約束を守らない女だ。

進級当初、仲良くなろうと彼女の身長を弄って以来目の敵にされている。



「何するのよ!」


「何、とは? 貴女が勝手に転んだだけではなくて?」


「地面盛り上げてコケさせたじゃない!」


「あら、証拠はお有りで?」


「それは……!」



躓いた所を見てもとっくに地面は平になっている。



「ちっ、姑息な奴! 身長だけじゃなくて心まで貧しいのね!」


「身長は関係ないでしょう身長はっ!!」


「こ、こら! 言って良い事と悪い事があるだろ!」


「シーラ様、落ち着いてください……!」


「ふん!」



私は鼻を鳴らして本を拾い集める。

けれど、その態度が取り巻き連中の癇に障ったらしい。



「あ、そうだ」



その内の一人が憎たらしい笑みを浮かべると……



「そんなに文句があるなら決闘すれば良いじゃん」



そう、言った。


それを聞いた他の取り巻きも一斉に嘲笑の目を向けて嘲るように口を開く。



「えー、可哀想じゃーん」


「どうせ受ける訳無いって。また半ケツ晒すのがオチだし」


「つーか使い魔の一匹も居ない悪魔使いもどきがシーラ様の幼児体型を馬鹿にする資格なんか無いってぇ……のっ!」



一際大柄な取り巻きに突き飛ばされて、私は再び倒れ込む。


……そうだ。

私はこの16年間、高校二年生になった今でも未だに悪魔の召喚に成功した事が無い。

専門外の魔法使いであっても召喚は可能なインプですら、だ。


対してシーラは学生の身でありながら軍の活動への参加が許されている【特別学生魔法使い】の資格を持つエリート中のエリートだ。

私では天地がひっくり返っても叶う相手じゃない。

けれど、度重なる嫌がらせに堪忍袋の緒が切れた私は一ヶ月前に決闘を申し込み……一瞬で吹っ飛ばされて気絶した。

その際、スカートと下着が大変な事になり衆人環視の中半ケツを晒した。


気絶してたから詳しくは知らないけれど、その姿が収められた写真が出回り、周囲からの嘲りも一層酷くなったから恐らく真実なんでしょうね。



「ほらほら、シーラ様に突っかかるつもりなら当然決闘だよなぁ⁉︎」


「黙ってないで何か言ったらぁ?」



何も、言えない。

だって、決闘なんかして勝てる訳ないし。

また半ケツを晒すなんて死んでも嫌だ。

ただ黙って散らばった本を拾い集める事しか出来ない。



「ふーん?」



決闘と言い出した生意気な取り巻きが嫌らしい笑みを浮かべる。

そして……



「あ……っ⁉︎」



散らばった本の中から、一冊のノートを拾い上げた。

それはお婆ちゃんが遺してくれた秘伝のノートだった。



「か、返してっ!!」



取り戻そうと飛びかかるも、あっさりと躱されて身体の前面を強かに打ち付ける。


そんな私を見て再び湧き上がる嘲笑の嵐。



「だっさ」


「悪魔召喚出来てないなら役に立ってないんじゃね? このノート」


「あはは! 決闘に勝ったら返してあげるけどー?」



悔しい


悔しい


悔しい



けれどそれ以上に……怖い

決闘しろ! の一言がどうしても口に出せない……




「返して……返してよぉ……」



もう涙を堪える事も出来ない。

ただただ声を震わせて懇願する事が今の私に出来る精一杯の抵抗だった。



「ゲローナさん」



時が止まった、ような気がした。

ただシーラがノートを奪った取り巻きの名前を呼んだ。

それだけで下品な笑い声も、見下すような表情も、凍り付いた。


シーラの……あんなに冷たい声と目は初めて見る。

身長を弄った時でさえあんなに冷たい表情はしていなかった。



「それは、些かやり過ぎではなくて?」


「あっははぁ〜……じょ、冗談ですってぇ……」



名指しで注意された生意気女は周りよりも更に汗を流しながらノートを私に差し出す。



「……興が冷めましたわ。行きますわよ」


『は、はい!』



震え上がる取り巻きを引き連れてシーラが歩いてくる。



「ごめんなさいね」



すれ違う瞬間に、そう言われた。



謝られた


哀れまれた


失望された



さっきまでは……私はアイツにとって気にくわない奴で、いじめる対象で、敵だった。

だけど大切な物を奪われて……それでも戦う勇気を出せなかったあの瞬間。


あの瞬間に、私はアイツの中で『敵』から『守るべき弱者』にカテゴライズされたんだ……っ!



ちくしょう


ちくしょう


ちくしょう……!!



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