第3話
そんな中、転機が訪れたのは今から二年前、兄が28歳、僕が20歳の時だった。
兄が勤める会社に新入社員として入社した女性に兄が一目惚れしたことによって今までの不毛な恋愛観が一掃した。
初めて兄から好きになった女性、それが現在の妻である
交際開始から一年半後、ふたりはめでたくゴールインした。しかし幸せは長く続かなかった。
千夏さんは結婚後も兄と同じ会社で働き続けたが、ふたりの間には少しずつズレが生じるようになった。
結婚後も兄は相変わらず女性にモテた。しかし兄自身は千夏さん一筋でそういった誘いに乗ることは決してなかった。
だけど兄のその想いと気持ちは徐々に千夏さんに届き難くなっていった。千夏さんはありもしない噂や思惑に振り回されるようになり、兄よりも周りの声を信じるようになってしまった。
そうして結婚して半年が過ぎようとしている現在、兄と千夏さんの生活は傍から見てもギスギスしたものになってしまっていた。
「今日もさ、ちゃんとした休日出勤だって分かっているくせに『どうせわたしとの約束よりも他の女との約束の方が大事なのよね』みたいなメールを何回もしてくるし」
「……」
「果ては俺の上司にまで確認の電話したみたいで上司からお小言もらうしさぁ」
「……」
「なんで俺のこと、信じてくれないんだよ」
「……」
ノンアルコールのはずなのに何故か酔っている風に愚痴りまくる兄の話を黙って訊いていた。
(なんでかなぁ……)
兄の愚痴を訊けば訊くほど憤りを覚える。
兄の愛情を独り占めしているくせにそれを疑って蔑ろにして尚且つこんな風に苦しめている千夏さんに対して怒りしか湧かない。
兄が結婚した時は寂しかったし悲しかった。僕に対して向けていた愛情はこれからは千夏さんにしか向けられないのかと思うと苦しくて激しく落ち込んだ。
だけどそんな気持ちを乗り越えてふたりを祝福出来たのはひとえに兄の幸せそうな顔が見られたからだ。
それに結婚してからも兄の僕に対する気持ちや接し方が変わることがなかったのが救いになった。
だから僕もそれなりに幸せだった。兄が幸せな限りは。
それなのに──……
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