第2話



僕と兄の海哉は8歳離れた実の兄弟だ。共働きで忙しかった両親の代わりに僕の面倒を見てくれたのは兄だった。


カッコよくて優しくて勉強も出来た兄は友人も多く、自然と膨れた群れの中で僕は色んな人からずいぶんと可愛がられ甘やかされて育った。


そんな兄に対して憧れの気持ちから大きく突出した気持ちへと変わるにはそう時間はかからなかった。


いわゆる思春期を迎えた頃には兄への気持ちはライクからラブになっていた。


だからといって僕は同性愛者ではない。兄以外の男友だちに対して性的な意味で好きになったことはないし、恋愛をするなら断然女の子との方がいいと思っていた。


ただ兄だけは特別なのだ。


兄が男女問わず僕以外の人と仲よくするのを見ては幾度となく嫉妬したりした。僕だけの兄だったらいいのにと何度も、幾度も願った。


だけどそんな僕の想いを兄は知らない。知るはずもない。知られてなるものかと一生懸命に気持ちを押し込めているから。


僕のこんな悍ましく歪んだ気持ちを清廉潔白な兄にぶつけられるわけがない。


万が一兄にこの気持ちを知られたら恐らく羞恥過ぎて気が狂うだろう。おまけに拒絶されようものならきっと屍になるだろう。そうなる自信がある。


だから絶対にこの気持ちを兄に伝えることはない。僕が生きている限り絶対に。


告白したっていいことなんて何ひとつないと分かり切っているからこそ気持ちを解放するよりも胸の奥底に閉じ込めたまま弟として兄の傍にいられることを望む。


そんな僕の邪な気持ちとは裏腹に兄は健全な道を歩み続けている。それなりに知名度のある大学を卒業して製薬会社に入社して順調に出世している。


恋愛に関しては人よりも多く経験しているが、そのどれもが誠実な付き合いの元で出会ったり別れたりしていた。


僕が兄の恋愛事情に詳しいのは常に兄の相談に乗っていたから。恋愛に関しては見てくれが派手でモテる割には奥手で純粋な兄はいつも告白を受けてから付き合う形で交際していた。


しかし受け身から始まる兄の恋愛はどれも長続きしなかった。元々付き合う彼女に対して好きという気持ちがないまま交際がスタートするのだから様々なズレが生じるのは目に見えて分かった。


そんな不毛な恋愛を続ける兄に対してやきもきしたし、相手の彼女に対して嫉妬心から苛立ったことは何度もあった。


それでも兄が幸せになれる恋愛なら心から祝福するし、遠くから見守って行きたいと思っている。


だけど残念ながらそういった気持にさせてくれる恋愛を兄は中々してくれなかった。




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