第22話 見た目以外は完璧な作戦

「よしっ……と。これで準備完了だ」

「ひとつ聞いていいかしら……?」


 戸惑ったように言うイグニスに顔を向ける。

 まぁ、見えてないんだけど。


「なんで目隠しなんかしてるの!? バカなの!?」


 驚くのも無理はない。目の前に、戦いに行くのに目隠しをした男がいたら誰だってそうなる。俺もそうなる。


「いやいや、しっかりとした戦術の一部なんだよこれも。目を見ると石化するなら、最初から目が無ければいいんじゃないかなーって」

「ボス戦より先に病院に行くことをおすすめするわ」

「俺を診る先生の気持ちにもなってみろ。可哀想だろ」

「一応変なことをしている自覚はあるのね……」


 見たら死ぬなら見なければいい。見ないためには無くせばいい。実に完璧な作戦ではある。

 目隠しをつけている間に致命打を入れることができれば勝てる。

 狙うは相手の眼だ。不意打ちで眼に刃を突き刺し石化を封じる。

 あとは……攻撃し続ければいつか倒れてくれるだろう。この前のゴーレムみたいに効かない敵じゃなければ。


「それじゃあ行ってくるぜ。この目隠しが最適解ってわからせてやるよ」


 俺は『リトルボム』を取り出して足元に投げつける。回避をして吹っ飛び判定だけを受ける。

 斜め45度より少し上を狙って、俺は吹っ飛んだ!!


「オラァァァ!! こっち向けやゴルァァァ!!!」


 叫びながら突進する俺に対し、(おそらくだが)髪の蛇は「シャー!」という鳴き声で威嚇してくる。

 その鳴き声がだんだん近くなってくる……これ、メデューサの眼に到達する前に攻撃食らうかもしれねぇ。

 そうなれば終わりだ。ついでに恥もかく。

 お願いだ、間に合ってくれ!!


 メデューサの初期位置と『ローリング・ボミング』による移動速度から考えて、相手との距離を出す。

 ……残念ながら、まだまだ腕が届く範囲ではない。おそらくあと1秒程度でギリギリつく位かな。


 そう考えた時、耳のすぐ横で蛇の鳴き声。


(まずい……ッ!!)


 突き刺すことはもう不可能。一旦身を捻って避ける……いやそれじゃあ通常通り戦闘することになる、よって勝てない。

 それならどうする……!


 首筋に蛇の鱗の感触がした。あぁ、ダメだなこれ。


 諦めかけた俺の脳内に、ひとつアイデアが浮かんだ。


「……そォいッ!!!」


 俺は手に持った双剣を前方へとぶん投げた!

 そして同時に身を捻り、迫りくる蛇を回避!


 グサッ! と刃が刺さる音と「ウギャアァァ!!!」という悲鳴を聞いて、俺は目隠しを外した。


 そこには両目に一本ずつ、剣が突き刺さったメデューサの姿が。


「ウギャアアァァア!!」


 眼をおさえるが、手に押された剣がさらに深く突き刺さる。そして更に絶叫。


 あっぶねぇぇぇ……。なんとかうまく行った。


 当たるかどうかはかなり怪しかったが、とりあえず当ったからOK!

 メデューサは痛みに気を取られている。一方的な攻撃を仕掛けることができるということだ!!


「『リトルボム』ッ!!」


 ありったけの爆弾をメデューサへと投げつける。

 それに叫びを上げるメデューサ。しっかり爆発も聞いているようだな。


「これで……終わりだァァァッ!!」


 弱り果てたメデューサへと爆弾を投げつけ、爆破。メデューサは悲鳴とともに光の粒子になった。

 メデューサがやられたことにより、突き刺さった双剣はカランカランと音を立てて地面に落下した。


 〚エリアボスを討伐しました〛

 〚45000EXPを獲得しました〛

 〚アイテム:石化の眼、その他4つの素材を入手しました〛


 《レベルアップしました》

 〚スキル:マジシャンズコインを獲得しました〛


 おうおう、ウィンドウがたくさん出てきやがった。

 とりあえず色々手に入ったんだな。


 ウィンドウ削除をしているとイグニスが近づいてきた。


「……まさかこんなやり方でやるとはね」

「これが歴戦のゲーマーの実力だぜ。さぁ報酬は山分けだな……って、あれ」


 メデューサが落としたのはそこら辺のモンスターでも落とすような素材4つと、おそらく固有の素材1つ。


「……俺が倒したから俺が貰ってっていいよな?」

「待ちなさい。私がいなければそもそもここに来れてないでしょう?」

「いいや頑張れば来れたね。時間はかかるけど」

「それならあんたが来る前に私はあいつくらい倒してるわ」


 お互い一歩も譲らない言い争い。小さな揚げ足取りから始まりお互いの悪口にまで発展……一言で言うと醜いものへと変わっていった。


 しばらく罵詈雑言を並べたところで、ついに決着がついた。

 コイントスで公平に決めよう、と。

 お互いに一回ずつコインを投げ、先に裏が出たほうが負け。シンプルな運試しだ。


「まずは俺から投げるぜ」

「ふんっ、さっさと裏を出して私に素材をよこしなさいよ」


【スキル:マジシャンズコイン】

 〈コイントスの表裏を操ることができる〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る