4話 日々は過ぎて、眠るように謀る1
三日月が見下ろす夜半。
パチパチと
―――
瘴気に腐り果てた夜気を裂いて、
抗う能力の持ちえないものであるならば、生きる気力も
だが、この地に在る者は、抗えぬ者では無い。
大勢の
その
遠くに見下ろす山麓の方向から、青の信号弾が打ち上げられる。
狩りの合図、頃合いだ。
「半鐘を鳴らせぇっ」
――かあぁぁぁんん……。
―――
清めの
僅かに残った煙と煙の隙間に生き残る
遠くから近くから、
肌がひりつかんばかりの瘴気と狂騒の揺らぎが、山麓の一隅にぽかりと広がる平原を圧し潰さんとばかりに迫り来る。
そして、もうすぐの後に
「……追い立てに成功したわね」
「ああ。
「感謝するわ。これで
「
「ええ。
――
時間もないため、
その意図を充分に理解して、硬い表情で
その腰に結わえつけられた
「うん、大丈夫よ。
粗方の
己がこれまでも向けられた記憶の無いその笑顔に、
だが、そんな感情に引きずり回される状況でもない事くらいは自覚している。舌打ち一つに苛立ちを
赤黒く脈打つ瘴気の
大きく一つ、二つ。寄せては引く瘴気の潮騒を数え、頃合いと見て
「先に行くぜ!」
「くれぐれも範囲技は駄目よ!
特に
――なんだよ、
緒戦に赴く背中にかけられた言葉は
抑えることのできない感情のままに、機先を制すべく己の精霊器を脇に構える。
それは土行のみならず、全ての
「――
粗い感情のままに
雑木から
―――
見えぬ牙に喰い裂かれるかの如く、先頭を駆ける
崩れ落ちる
見た目だけは年相応の
突破は易いとみたのか進路も変えずに
目の前に差し出された
――抜き放った精霊器の刀身、その切っ先から半ばが
放つは目の前に炎を落とす中規模
「――
炎の塊が中央の
「
ここまで苦労して
中規模とは云え範囲攻撃、それも被害の広がりやすい火行に属する
この独断専行の癖があるからこそ、今一、
取りも直さずそれは、全ての
これこそが土行の精霊が強力と云わしめる原点、
「――私が付いて抑えます」
その様子に鋭く
「あっ、……もうっ!!
――私も
「はいっ!!」
駆ける、翔ける。ともすれば空中に足を取られてしまいそうな速度で、
己の
それは
「――
だが、身体強化の巧みさと間合いを伸ばして攻撃する中距離の
更に引き上げられた身体能力に物を云わせて、
殆どのあらゆる生き物にとって、頭上は基本的に死角である。
それは、
誰もが
薄く、だが力強く精霊器に
「――
薄緑の
波打つ精霊光は、繁茂する草花の根の如く
土行の
木克土。土行の
「――
守備隊の方々の努力を、無駄にするお
「……け、けどよ、
二句を失い口の中で形にならない文句を
その時、
「――
その脇腹を、裂帛の気合と共に放たれた火焔の槍が串刺しに貫く。
業火の槍と変じた己が
心のどこかでエズカ
己が宿す精霊の上げる喜びの声に押されるがまま、膨大な
「――
業火に燃え盛る薙刀の穂先が断末魔に
勢いはそれだけに
―――
薙刀は絶叫に啼く猿の片腕と脇腹を大きく断ち割り、
――そこで止まった。
本来『
流石に3匹目と色気を出して、完全に威力を保てるものでは無い。
内臓と瘴気を零しながら尚も戦意を失わないのか、
「――
「――
――
薙刀を伝って爆音と衝撃が
「
周囲の
「お見事です、
「ありがと、
「――問題は無いでしょう。
油断なく太刀を構えながら声を掛けてきた
先刻に釘を刺した事が堪えているのか、剣技と
「
一匹も逃さないように。もし
「はい、心得ております」
――その時、
チリチリと
揺れる瘴気に
―――
―――
だが、白く強靭な体毛が表皮を覆い、濃密な瘴気が更にその周囲を守っている。
見た目は
それは森の奥に潜む
白毛大猿の妖魔、
「――不味いわね、何人か
「はい」
狙い通りの目標を釣り出せたのにも関わらず、
まず単独では行動しない。
単体としての脅威は、そこまででは無い。
しかし、
山間に
つまりは、喰らった人間の数だけ脅威の度合いが高くなるという事。
濃密な瘴気で
「……どうしますか?
私たちで弱らせてから、
目の前の
それが意味するのは、人語を理解できる程度には人間を喰らっているという事。
――つまり、それだけ脅威という事だ。
それでも、
それに、これは千載一遇の機会なのだ。強ければ強いほど、厄介であれば厄介であるほど好機であるからだ。
最低限、対人戦闘の仕上げに当てるなら丁度いい。が、対人戦闘の仕上げに最高の相手になった、とも云えるのだし。
「いいえ。問題ないわ。
――それに、もう来てる」
そう呟いた
朱金の神気が夜空に舞って踊り、炎の閃きが一条、
それは
「――
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