かみの手

@mashulesu

かみの手


 始まりは何事も突然である。

 三ヶ月振りに、今年七十三歳になる父親の散髪をした。

 コロナ禍で散髪屋に行きたがらない父親の髪を、漸く洗面所で切っている際に自分の能力に気づいた。

 父親は、耳の後ろ側の所謂〝浮白〟というツボの辺りの髪が左右とも著しく薄い。

 ただ何となく俺は、右手の人差し指で、その部位を心持力強く擦る様に触ってみた。そこには毛根そのものが全く見当たらないのがわかる。

 その時父親は言った。

「そこだろ?そこはな、なんか知らんが生まれつきハゲてるんだよ」

 そういえば、子供の頃に何度か聞いたことがある科白だ。

 その瞬間、浮白の辺りの薄い部分に突如として黒い塊が溢れ出て来た。

「え、何だよこれ?」

 よく見ると、その部分のそれが消失していた。いや、もとい。不毛エリアから、全力で毛が生えていた。然も、韓流スターか昭和から頑張って営業している散髪屋の写真のモデル並みに短い髪の毛がびっしりと。それは、生物学と力学とその他様々な学問を完全に無視していた。

「え、は、俺か?俺なのか?親父なのか?」

「おい、何?どうした?」と言う父親。

 瞬時に俺は理由もなく、俺の指の仕業であると悟った。

 親父はというと、俺が後に俺の能力について告げるまでその事に全く気づかなかった。

 

 翌日職場に行き、早速獲物を探した。というよりも既に頭の中で獲物を捕獲していた。

 適任。この為に生まれてきた様な君。君しかいない。

 座っている後輩職員の背後に近づき、徐に件の作業を始めた。

「あれえ、おまえ、頭になんか付いてるぞ」俺は有無を言わさず、後輩のそれを力強く擦った。

「え、は、な、何すか?」

 その君(くん)は頭頂部のそれを庇う様に振り向いた。

 刹那、彼の後ろ姿は別人に変わった。

「ふむ、やはり」

 俺の思いは確信に変わった。そして程なく確信は商魂へと昇華した。

 もう仕事に行かなくてもいい。いや、寧ろ儲かる。取り敢えずやってみよう。これならいける。絶対いける。人の弱みに付け込んでいるかに見えるが、いや違う。断じて違う。人類に貢献していると考える事は出来ないだろうか?出来る。いや、貢献して見せる。

 何だかよくわからなくなってきたが、喜ぶ人がいるのは確かな事だと俺は思った。

 しかし、この覚醒?した俺の能力は一体何だろうか?毛乳頭に恕限量を超えたエネルギーを与えているのか?毛乳頭そのものを作り出しているのか?危険な能力か?

 幼い頃から読んできた小説に出てくる、テレパス、サイコキネシス、瞬間移動、時間旅行などの能力と比べてどうなんだろうか?誰かの小説で読んだことがあるが、俺のこの能力は政府にとって都合が悪い能力だろうか?何んとか省の長ったらしい名称の部局に都合良く利用される能力かだろう?国民から忌み嫌われる能力だろうか?黒いスーツの男達に追いかけられて確保され、地下三階の暗い部屋で監禁されて静かに研究される程の能力だろうか?

 いやいやいやいや、ない。

 ないだろう。毛を生やす能力だ。取り敢えず危険ではない事は確かだ。誰にも迷惑はかけないし誰も不愉快にしないと確信出来る。

 警視庁のSATや自衛隊の習志野空挺団も米国のCIAやネイビーシールズが是が非でも欲しい能力だろうか?

いらんやろ。

 と言う事は、今のところは国の干渉も受けないという事だろう。医療分野の応用はどうだ?やめとこ。人の髪を生やす前に俺の方が抜ける。そうだ、先ずは小金を貯めよう。ネットに上げよう。施術場所はここか?うちのリビングか?俺の部屋か?まっ、無難にリビングにしとこう。ベッドは要らないか。もしかして、椅子だけでいいじゃないか?頭だけだもん。何というコスパ。親父には何て説明しよう?マッサージとか何とか言っておくとしよう。


 数日後。

 仕事を辞める度胸も無かったので、取り敢えず土日限定にしてみた。

 仕事をしながらもスマホのチラ見は続いたが反響がない。全く。冷静に考えれば分かりそうな事だ。俺がネット上に書いている内容は、社会通念上の判断をすると、ファンタジー若しくは詐欺にカテゴライズされると思料する。

 段階的に髪の毛を自然に生やす という反社会的な施術を誰が信じるかという話だ。

 自問自答と躊躇を都合十二回繰り返し、文言を何度も変えてみた。練りに練って文言はこうなった。


★朗報★貴方の髪の毛を確実に生やします。痛んだ髪も超元気にいたします。男女を問いません。個体差があるので五回から八回くらいの施術が必要です。貴方ご自身がご実感いただけなければ、かかった料金は全額返金いたします。

 

 土日にこのリビングで勿体を付けて三十分かけて施術を行っても、損失にはならない。

 まあ、取り敢えずという事で。

 

 更に数日後。

 予約のメールが入った。

 緊張の面持ちで土曜日の十一時を迎えた。

 チャイムが鳴った。四日四晩悩んだ挙句、衣装は、よく病院や整骨院で見かけるスクラブ白衣ではなく、敢えて作務衣にした。

 鏡に映る自分の姿を見て、怪しさと切なさで胸が潰れそうになった。

 ドアを開けると、三十才ぐらいの青年が佇んでいた。

 俺はニコリともせず低い声で言った。

「ま、どうぞ」

 何が「まっ」なのかが、自分でも分からない。応接間に青年を座らせ、後ろから料金と時間とシステムの流れについて説明をした。

 青年は頷き、俺は施術を始めた。

 女性ホルモンにより故意にに守られていない頭頂部から、男性ホルモンによりお情けで保留されている耳直上の幅六センチ程の有毛部分の上までの不毛部分を、ゆっくりと只ゆっくりと、きっかり三十分程かけ往復して、青年に告げた。

「本日はこれで終了です。家にお帰りになられてから、もし発毛をご実感いただけたのであれば、次回をご予約ください」

 青年は正面に置かれた鏡と机に置かれた鏡を合わせて文字通り矯めつ眇め見てから言った。

「ありがとうございました」

 その表情からは正直、何も読み取れなかった。

 青年は皺ぶき一つ立てずに帰って行った。

 しかし、それからきっかり二時間後に、その青年から次の予約メールが入った。

 頭皮を擦る俺の指先の力加減が完成した瞬間でもあった。

 

 斯くして仕事を辞めた。特に上司と同僚から遺留されなかった事が胸に刺さった。ほんの一瞬だけ。客が捌ききれなくなるまで時間は然程かからなかったからだ。

 父親に事務長の肩書を付けた。父親が小遣いの増額を求めて来るまで、これまた時間は然程かからなかった。

 施術の最終回を、絶妙に四回から六回の間にフレキシブルに動かす事により信憑性を持たせ、不信感を未然に防いだ。施術の最終回に、帰って行く人の顔は皆同じだった。

 正に輝きと希望と自信に満ち溢れていた。

 そんな彼らを見ていると俺も、輝きと希望と自信と小金に満ち溢れて来る。始まったばかりだが。

 貯められるうちに貯めておこうと思った。

お客さんの層は幅広く、正に老若男女そのものである。俺のこの能力は男性ホルモンも女性ホルモンも一切問わないようだ。

 指先から何かが照射されている様な気がするが実際のところは全く分からない。

 料金は規定通り頂くのだが、お客さんの中には信じがたい事に、帯付きのままポンと置いて行く豪の人もチラホラいて、最初は取り敢えず丁重に辞退する振りをしていたが、途中から振りを割愛するようにした。

 斯様な人達もまた、老若男女総てに渡っている。

 髪の毛というものは真に大事なのだ。

 この能力を医薬品メーカーとのコラボに使えれば、医薬品業界に凄まじいセンセーショナルを巻き起こす事になるだろうか?それどころか、下手をしたらノーベル賞ものではないのか?下手ではないのだが。

 しかし、ここは密やかに人知れず、こじんまりとやっていこうと思う。

 所謂、知る人ぞ知る、知らない人は全く知らないという感じだ。

 殆どの人は信じていないが、密やかに需要のある所にじわじわ浸潤していくこと。それが最上の策であると思う。

 お客さんには敢えて聞かないが、きっかけはネット上の口コミか、正真正銘の口コミなのか、そこのとこはわからない。

 パンデミック並みに広がらないところをみると、藁をも縋る思いの人とそんな訳あるかいの人で、悍ましいほど綺麗に真っ二つに分かれているといったところだろうか?

 この能力を病気や怪我の治療に応用できないものか?いや、そんなことをしたら、それこそ大変な事にならないか?

 絶対なるわ。

 それより何より、超弩級の小心者である俺は、公務員をしていた時に想像すらしなかった税金の事が気になって気になって仕方がないので、友人の社会保険労務士のその又友人の税理士に相談した。我ながら遵法意識は高いと思う。公僕の精神が身体に染み込んでいるのだ。

 親父に給料を支払うと言う事は、労働者性の有無の議論になるのだが、同居の親族については労働基準法と労働安全衛生法の労働者の定義に該当しないことぐらいは知っているのだ。

 

施術を受けた青年

 

 この星は不公平だ。

 多分、不公平という物質で出来た天体だと断言出来る。髪様は、もとい神様は何故、髪に斯様な個体差を与え給うたのか?

 人を見るとどうしても、おでこから上を見てしまうのはコンプレックスであろうか?

 明らかに高額宝くじに当たったレベルの毛量を獲得して生まれた者を見る度に俺は烈火すら感じる。

 銀のスプーンを握って生まれてきた者よりも千倍上だと思う。

 本物の髪の毛はお金では買えないのだよ、ワトソン君。

 ハーバードメディカルスクールをもってしても医学的な発明は無理なのだろうか?

 更に思う事がある。隔世遺伝だ。俺の父親は濃い。じいちゃんは、俺とそっくりだ。

いや、俺がそっくりだ。隔世遺伝というものが何故存在するのかわからない。合理的な説明を求める。文面で。一世代か数世代飛ばす事に何の意味があるというのか?どの道遺伝するのであれば毎世遺伝、というより普通に遺伝でいいじゃないか。彼此十年間、ほぼ毎日この思いを繰り返している。最早、生活の一部だ。そして漸く、この十年のルーティーンを結了する時がやってきた。

 その画面に出逢った瞬間に・・・

 ―オイオイ、絶対ないわ、そんなこと。なわけあるかい。よくもまあ、こんな事書けるよな。書くか?普通―

 スマホを見ながら独りごちた。

 画面には、

★朗報★貴方の髪の毛を確実に生やします。痛んだ髪も超元気にします。男女を問いません。個体差があるので五回から八回くらいの施術が必要です。貴方ご自身がご実感いただけなければ、料金は全額返金いたします。

 言い切ったんかい。書いちゃたよ。確約したよ。付け毛を頭に付けて、「ほら、この通り」ってか?この自信は何処から来るのか。

何処から湧いて出るんだよ。物凄い秘策でもあるんだろうか。何があるんだろう?いやいや、まさかそんなことが。気になってきた。

着地点が気になる。一応、全額返金と謳ってあるし。JAROってなんじゃろもあるし。

一度くらいなら大丈夫だろうか。身の危険を感じたたら通報しよう。と、うじうじ二時間考え倦て、予約してしまった。

 そして予約日当日を迎えた。

 やっぱり辞めとこう、キャンセルしよう。

いや、ここまで引っぱったんだから、潔く行こう。と、うじうじ二時間考え倦て、指定してきた家に臨場してしまった。畢竟、三往復した後にチャイムを押した。

 ドアが開き、なぜか作務衣を着た普通のおじさんが出てきて、家のリビングっぽい部屋に通された。

 おじさんが普通だったことが、背中を後押してくれたこともあり、流石に観念した。おじさんの説明が徐に始まり、広告と全く同じ内容だったので安心して頷いた。到頭施術が始まった。薩摩示現流のような裂帛の気合いと共に、激しい手技が突然始まるものとばかり思っていたので、おじさんの凪の様な「それでは始めます」に少しがっかりした。

 おじさんは指で、僕の頭頂部を絶妙な力加減で摩り、当該エリアを幾度となく、只々静かに往復した。明らかにマッサージという行為ではなかった。

 施術らしきものは唐突に終了した。家に帰ってから実感できたのであれば予約ください的な事をおじさんは言った。

 僕は正面に置かれた鏡と机に置かれた鏡を合わせてチラッと見て、何の変化も無いことを確認した。直ぐではないらしい。当然。、でも、このおじさんの沈着冷静な振る舞い、&感動すら感じる程の自信が迸った表情は何だろう?

 僕は規定の料金を支払い、その家を辞去した。

 効果がなければお金は返してくれる事をおじさんは力強く言っていたので、すっかり安心していた。

 その家は、僕の家から電車を二回乗り換えるだけの割と近い事もあり、帰りの電車でも不信感は湧いてこなかった。

 家に着き、一服してから合わせ鏡でまじまじと確認した。髪の毛はいなかった。更に三十分後再び確認した。絶句した。

 髪の毛がいた。



 お客さんの数が五十人を超えた頃に、聞いた事がある企業の総務課長と称する人からメールがあり、俺に逢いたいとのことだった。

 このまま静かに商いが出来るかもと密かに期待していたが、そうはいかなかった。

 我が家に、概ね同業である大企業の人に来られるのも良い気がしないので、そこそこ大きなホテルのラウンジで逢うことになった。

 来たのは二人だ。

 名刺を手渡しながら開口一番、取締役総務部長は言った。

「先生、お噂は予々耳にしております。弊社の事業内容などご存じでございますでしょうか?先生のお力がどの様な仕組みであるかにつきましては、私どもには検討もつきませんが、先生のお力の方につきましては、失礼とは思いましたが、こちらの方で確認を取らせてさせていただきました」

「え、ということはお客さんの中に間者が何人かいらっしゃったのでしょうか?」

 俺には、それがどの人だったのか検討もつかなかった。

 総務課長が引き取って続けた。

「単刀直入に申し上げます。唐突ですが、先生、如何でしょう。弊社におきまして先生のお力をご存分に発揮していただくことはできませんでしょうか?先生の今後見込まれる収入をご提示いただいたうえで、弊社における先生のご待遇を検討させていただけませんでしょうか?」

 取り込みか攻撃かについては覚悟していたが、実際に条件の話まで出てくると、気楽にやっていきたいと思っていた俺にしてみると些か閉口した。

「はあ、突然の事なので、少々戸惑っております。少々時間をください。メールでやり取りをさせていただくという事でよろしいでしょうか?」

「勿論でございます。承知しました。今後のやり取りにつきましてはメールにてさせていただきます。何卒、前向きな御検討をお願いいたします。先生、今後ともよろしくお願い申し上げます」

 部長と課長はそう言うと会計を済ませ帰っていった。

 俺は貰った事業内容が書かれたパンフレットを少し読んでからホテルのラウンジを後にした。

 数日後、似たような会社からメールが届いた。

 判でついた様な同じやり取りを同じホテルで行い、最後の挨拶までほぼ同じだった。

 その後も、聞いた事がない会社から同じ趣旨のヘッドハンティングが続いた。

 首を刈られる筋合いは全くないが。


父親


 儂のお陰だな。絶対。

 あいつが儂の髪を切らなければ、あの能力に気付かんままだったんだから。

 とは言え、お陰で小遣いは貰えるし、何より、また働く事が出来る有難味と人様に喜んで頂くという喜びを儂に与えてくれたんだから、あいつには感謝せねば。

 亡くなった母さんも喜んでるだろう。

 あいつに言うか、言うまいか?

 儂の親父もあの能力を持っていた事を。

 隔世遺伝というやつだな。子供の頃わしは知らんぷりをしていた。親父はあの能力で、髪の毛というよりも、寧ろ病気や怪我の治療に目を向けていた。正に手当てと言えよう。    

 時代が時代だったからな。隣組のばあさんの結核の治療を行って、逆に村人に気味悪るがられて、直ぐに治療を止めたんだよ。そりゃそうなるわな。今、あいつがそれをやったらどうなるよ?国に拘束されて、研究材料にでもされるだろうか?

 まあ、大人しく髪の毛で止めておいた方が無難だろうね。今はあいつに任せるとしようかね。



 件の数社のヘッドハンティングについては全て断った。

 やはり、組織に属するのは嫌なのだ。自由がいいのだ。

 その後も予約が途絶える事はなかった。

 全国から宿泊付きで来てくれる人もいる。

自動車運転免許教習場の合宿のように、詰めて出来ないかと言う問い合わせもあるが、この施術はそういうものではないので出来ないと断っている。“そういうものではない”の意味が全くわからないのであるが、誰もその事について突っ込んで来る事はない。

 女性も結構やって来る。正に切実な人と決してそうではなさそうな人達である。

 ある日若い女性がやって来た。

 俺にはどう見ても何の問題もない様に思えた。

「先生、このパサつき、どうにかなりませんか?コシもないんですう」

 文字通り間髪入れず俺は言った。

「・・・ああそうですね。おんっ。よく見ると、少々パサついてるかもですねえ。早速やってみましょう」

 髪の毛の有無でもボリュームでもなく正直白髪でもなく、パサつきの排除とコシのオーダーである。正直、どこがパサついているのかサッパリ分からない。

 正に青天井である美容の領域。

 この手のお姉さんの口コミに大いに期待する。

 そうこうしている間に来客者が三百人を突破した。

 余り興味が無いので統計も取っていなかったが、そろそろ分析が必要かもしれない。マネージメントは親父に任せているので全く安心だ。親父も小金と適度な労働のお陰か、物腰も柔らかくなり活気が漲っている。そんな親父を見ると俺も非常に嬉しい。

「アンケートを取って統計でも作って見ようと思うんだけど、どう思う?」

「そうだなあ、うん。顧客が増えると必要かもなあ?」

 満更でもない様な顔で親父は答える。

「アンケートは俺が作るから、統計は親父が作ってよ」

「ああ、いいよ。エクセルもなんか久しぶりだしなあ」と笑みが溢れた。

 

 数年が経過した。

 施術室であるリビングも備品をグレードアップしただけで、料金を含むシステムも何も変えていない。

 爆発的に予約が入る訳でもないが、少しずつ予約が増えているのは確かだ。

 相変わらず、ポンと帯付きの札束を置いて帰るお客さんも結構いる。

 

 

 数年に渡り、他人の髪の悩みをなくしてきた俺には秘密がある。

 親父しか知らない。

 被っているのだ。ボウシを。

 二番目に来た会社のやつを。

 叔父名義でている。















最初に来た会社の総務課長


 あの先生が、あの会社の製品を使っているのは何故だ?

 うちのじゃあない。

 どこの製品だってかまわないが、絶対おかしい。

 だってそうだろう?

 部長は知ってるのだろうか。

 知っていて惚けているのか?

 よし、明日絶対聞いてみよう。











 あの会社の人達は、皆気付いていないのだろうか?

 それはないだろう。プロフェッショナルだぞ。

 それとも、プロフェッショナルでもわからない程の優れものなのか?

 もう一つ残念な秘密がある。

 俺の能力がこの世で効かないのは、唯一俺だけなのだ。

 何度も試みた。

 何度も何度も。

 だけど、どうしても効かないのだ。


 何処かに かみの手 を持つものはいないものか。

 現れるのを待つしかないのだろうか?

 

 何千人もの人々の髪の毛の悩みを救ってきた、この類を見ない能力は皮肉にも本人には効かないという事実。

 この不条理を、かみは敢えて作り出したのであろうか?

 その答えは、かみのみぞ知る。了

 

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