Tier30 閑話休題

「閑話休題、話を戻すぞ。一般人がマイグレーションに対抗する手段は無いのかという話だったよな?」


 マノ君がかなり話が片道にそれてしまったところから大きく軌道修正した。


「そうだね。それでその答えが無いっていう答えだったところまでは話してくれたよ」


「一応、結論までは言っていたんだな。なら、この話はこれ以上話すことはないな」


「あっ、ちょっと待って! 一つ聞きたいことがあるんだけど」


 マノ君が話を次の話題に変えそうだったので僕はそれを慌てて止めた。


「なんだ?」


「えっと、一般人がマイグレーションに対抗出来ないってことはマイグレーターは何の障害も無く、すんなりとマイグレーションを行えるってことだよね?」


「まぁ、そうだな」


「何をあたり前のことを言っているんだ?」という顔をマノ君だけじゃなく聞いていた六課の皆もしていた。


「そういうことならさ、すんなりとマイグレーションが出来る相手はマイグレーターではないっていう証明にはならないかな?」


 僕は二回目の思い付きの案を聞いてみた。


「……あぁ、そういうことか。逆の発想というわけだな」


 少し考え込んだ素振りを見せたマノ君だったが、すぐに僕の言いたいことの意図をくみ取ってくれたようだ。


「それでどうかな?」


「あぁ、それは無意味だ。証明にはならない」


 やっぱり僕の素人の思い付きなんか何の役にも立たないみたいだ。


「まず、俺達マイグレーターがマイグレーションを行うような相手はどんな奴だと思う?」


「う~ん、マイグレーションの能力を使って犯罪を行う悪意のあるマイグレーターとか?」


「そうだ。状況によっては一般人に対してもマイグレーションを行うこともあるが、だいたいの場合、相手は俺達と同じマイグレーターだ。つまり――」


「マイグレーションを行うような相手は最初からマイグレーターだと分かっている」


 マノ君の説明をここまで聞いて僕はマノ君の言わんとしていることが理解出来た。


「そうだ。大抵の場合は相手がマイグレーターか、あるいはマイグレーターの疑いのある人物だ」


「だから、わざわざ一般人がどうかの証明なんて端から必要無いってことだね」


 これは盲点だった。

 六課の目的を少し考えればすぐに分かるようなことだ。

 何のために六課が設立されたかのか。

 何のためにマイグレーターであるマノ君や市川さん、丈人先輩が六課にいるのか。

 一重にそれは、悪意のある他のマイグレーターをマイグレーションを使って処理、殺すことなんだ。


「あぁ。それに、もし仮に伊瀬の言う通りマイグレーションを行う相手が一般人であるかどうかの証明をしようとしても、これでは証明することは出来ない」


「え、どうして? 相手が一般人ならすんなりとマイグレーションが出来るはずだし、逆にマイグレーターなら抵抗力があってマイグレーションに手こずるはずだよね?」


「確かにそうだが、必ずしもそうなるわけではない。相手がマイグレーターでもすんなりマイグレーションが出来ることはある。基本的にマイグレーターはマイグレーター同士でのマイグレーションの競り合いを避ける。なぜなら、マイグレーションの使用練度が自分と相手のどちらが高いのか分からないことが多いからだ。むやみにマイグレーションの競り合いをすれば、相手に意識を狩り取られ侵食されるリスクがある。そういったリスクを避けるためにマイグレーションをされそうになったマイグレーターは即座に別の体にマイグレーションを行い意識を移す。よって、こちらがマイグレーションを行った時にはもうもぬけの殻かその体の本人の意識が戻っているわけだ」


「なるほど。やっぱり僕なんかの思い付きじゃ全然駄目だね」


「そりゃあそうだろう。すぐに思い付くようなことで、このマイグレーションという現象を解決出来るのなら、とうの昔に解決して俺達がここにいるはずもないだろう」


 マノ君の言った事は正論すぎて、僕には何も反論の余地がない。


「ちょっと! 何でアンタはいつもそういう言い方しか出来ないのよ! アタシは伊瀬君の思い付きは結構いい線行ってたと思うよ」


 マノ君の強めの口調を美結さんが注意しつつ、僕のこともフォローしてくれた。


「美結さん、大丈夫だから。マノ君の言っている事は本当にその通りだと――」


「ただ、伊瀬のように次から次へと思い付きを言えるような奴は中々いない。だから、いつか伊瀬の思い付きの一つがこの問題を解決するための案になるかもしれないな」


 マノ君は時々、ぶっきらぼうで少し酷いことを言う時もある。

 けれど、本当は不器用なだけで根は優しい人なんだと思う。

 こんなことをマノ君に言ったら、初めて会ってからまだ数日しか経っていないのに何を言っているんだとか言われそうだけど、僕は気にしない。

 こういうことは出会ってからの時間の長さとかはあまり関係がないと僕は思うから。


「ありがとう、マノ君。そうなるように微力ながら頑張るよ」


「そうか……だが、伊瀬が言った思い付きにはまだ問題があるからな。期待せずに待とう」


「そういうとこが一言余計なのよ!」


 美結さんがマノ君の頭をパッシッと引っ叩いた。

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