Layer33 可能性

「これなら、もしかしたらいけるのかもしれない」


 八雲が何を言いたいのか。

 俺はどこかでそれをわかっていた。

 けれども俺はそれを八雲に確認せずにはいられなかった。


「いけるって何がいけるんだ?」


 俺の質問に八雲は表情にはあまり出ていないが少し興奮した様子で俺の目を捉えながら言った。


「玉宮香六と姫石華の体を元に戻すことができるかもしれない」


 こんなにも飛び上がるほど嬉しい言葉を聞いて、今にも叫びながら飛び上がりそうな思いとは裏腹にあの冷静沈着な八雲でもこんな風に興奮することもあるのかという関心している思いもあった。


「……そ、そ、そ、それ本当か!? 俺達元に戻れるのか!? マジなのか!? マジで言ってるのか!?」


 結局、俺は叫びながら飛び上がっていた。


「少し落ち着け。本当だ。そしてあくまで可能性があるという話なだけだ」


 俺のはしゃぐ姿を見て興奮が収まったのか、八雲はいつの間にかいつも通りの冷静沈着な八雲へと戻っていた。


「あぁ、ごめんごめん。そうだなちょっと落ち着かないとな」


 八雲に言われて俺は自分を落ち着かせるために一度深呼吸した。


「フゥ~よし! 大丈夫、だいたい落ち着いた。けど、入れ替わりが元に戻る可能性はあるわけだろう? それだけで十分だ。なんせ、ついさっきまではその可能性すら絶望的だったんだ。可能性があるってわかっただけでも俺達にとっては嬉しすぎる知らせなんだよ」


「それもそうか。だが、その可能性を可能なものにするのが私の仕事だ。いろいろと準備は必要だが、玉宮香六と姫石華の体を元に戻す実験を行うのにはそう時間はかからないはずだ」


「実験って。何か他に言い方があっても……うん、ないな。俺も実験以外に上手い言葉が見つからなかった。それよりも時間がかからないって、それ本当か? 八雲が協力できるのはゴールデンウィークの期間だけなんだろ? さすがにゴールデンウィーク中には間に合わないだろ?」


「いや、間に合う。2、3日で準備できると思う」


「そんな短期間で!?」


 想像よりもはるかに短い期間だったので俺はかなり驚いた。


「玉宮香六がこんなにテンションが高いのは面白いな。ま、それも仕方のないことか」


「そりゃあ、そうだろ。こんなに嬉しい知らせを立て続けに聞いたら嫌でもテンションが上がる。にしても、そんなに短期間で準備できるのか? もっとこう大きい機械とか精密機械とかを準備しないといけないんじゃないか?」


「そういうものは一切使わないから安心してくれ。身近にあるような簡単なものを少し使うくらいだ」


「そんな簡単に準備できるもので入れ替わりが元に戻るのか?」


「私の理論が正しければな」


 そう控えめに言った八雲っだったが、導きだしたその理論に八雲は自信があるようだった。


「わかった。その辺は全部八雲に任せる。何か協力が出来ることがあればいつで俺達に言ってくれ。力になれるかどうかはわからないが、出来る限りのことはやるつもりだ」


「あぁ、機会があればそうすることにしよう」


 八雲が協力を要請することがあるのかどうかは甚だ疑問だが、何か困ったことがあれば俺達に協力を求めるという意思表示だけでもなんだか俺はうれしかった。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 一通りの話を終えた俺達は八雲の家の玄関の前まで来ていた。


「じゃあ、八雲。急に来て悪かったな」


「いや、大丈夫だ。そのぶん有力な情報も得られたからな。なんならお釣りが来るぐらいだ。細かいことは後日また連絡する。それまではもどかしいと思うが待っていてくれ」


「モチのロンだ。待ってるだけで入れ替わりが元に戻るかもしないなら、そんな棚から牡丹餅なことはない。大船に乗ったつもりで待っているよ」


 モチのロンと言った時、八雲が不思議そうな顔をしていたような気がしたが見間違いだろう。

 俺と八雲は同い年だ。

 ジェネレーションギャップなんかあるはずがない。

 たぶん俺の知り合いかなんかが死語をよく使うような奴がいるんだろう。

 たぶん……


「あまり過度に期待されるのも困るのだがな……」


 そう言って八雲は微妙な顔をした。


「けど、元に戻せる自信はあるんだろ?」


「ッ! ……まぁ、そうだな。そうなるよう私なりにも必死になってやり遂げてみせよう」


 一瞬驚いた八雲だったがすぐに俺の質問を肯定した。

 そんな八雲を横目に靴に履き終えた俺は玄関のドアを開けた。


「おう、頼む。じゃあ八雲、今日は本当にありがとな。次に会う時は俺と姫石が元に戻れる時だといいな。じゃあな」


「あぁ、そうあることを願おう」


 素っ気なく別れを言った八雲に俺は軽く手を振りながら八雲の家を後にした。

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