Layer14 眼内閃光
「それで、玉宮香六がつまづいた後どうなったんだ?」
こういう与太話には一切興味のない八雲は早く話を続けるように催促してきた。
だが、この対応はマジで助かる。
ありがとう、八雲!
「その後、俺が振り返って姫石に声をかけた時には姫石の顔がすぐ目の前にあって、そのまま額のあたりで衝突した」
「額のあたりか……姫石華も接触箇所は額のあたりなのか?」
「そうだね。ぶつかった後におでこがジンジンしてたから間違いないと思う」
「どちらも額の接触……前頭葉に激しい衝撃……」
八雲がブツブツとつぶやきながら考え込み始めた。
「その後は?」
「あぁ~たしかぶつかった直後は星が飛んだみたいな感じになってたな」
思えばあれが人生で初めて星が飛んだ経験だったな。
「ねぇ? 星が飛んだって何?」
姫石が不思議そうに聞いてきた。
「え!? なにお前、星が飛ぶって言葉知らねぇの?」
「なんとなくは聞いたことがあるような気がするけど……」
「気がするって、お前な〜これぐらいの言葉は知っとけよ。常識だぞ」
「自己紹介もまともにできない常識のない人に言われたくありませ〜ん」
こいつ……
ことあるごとに良いように使いやがって!
「……とにかく! 星が飛ぶっていうのは頭とかを強くぶつけた時に、目の中にチカチカする光が見えることを星が飛ぶって表現するんだよ。よくあるだろ、漫画とかアニメで登場人物が頭をぶつけて、頭の周りを星がぐるぐる回っている描写が。あれを星が飛ぶって言うんだ」
「そうなんだ! たしかに漫画とかで星が回ってるシーン見たことあるかも。あれ漫画とかだけの表現だと思ってたから、本当にあると思ってなかった!」
姫石は心底驚いたように言った。
純粋なんだか、バカなんだか……いや、バカだな。
「あ! それなら私も玉宮とぶつかった後、星が飛んでたよ。視界がチカチカしてて最初全然周りがよく見えなかったから」
どうやら二人して星が飛んでいたみたいだな。。
本当に漫画みたいだな。
ま、その分ぶつかった衝撃がそれだけ大きかったってことか。
「玉宮香六も姫石華も衝突の直後、星が飛んでいた。つまり二人とも眼内閃光の症状が出ていたわけか」
八雲の口から聞き慣れない言葉が聞こえてきた。
眼内閃光?
星が飛ぶっていう現象はそういう風に言うのだろうか。
「眼内閃光が起こるのは後頭葉が混乱するほどの衝撃が伝わった時……だが、二人が接触した箇所は前頭葉のあたり。つまり、前頭葉と後頭葉は真反対に位置する。一番強い衝撃が伝わったのは前頭葉。そのため後頭葉に衝撃が伝わるまでにはどうしてもエネルギーが減少する。エネルギーが減少しても、なお後頭葉が混乱するほどの衝撃が伝わるほどの力だったのか……それとも他に何か原因があるのか。例えば、エネルギー伝達をよくするような要素が存在していたとしたら……」
「ちょ、ちょっと、先輩、先輩! 何かブツブツ言いながら考察するのはやめてください。それ先輩にしか何考えてるかわからないですからね。ちゃんと私達にもわかるように説明してください」
どうやら八雲には何かをつぶやきながら考察をしてしまう悪癖があるらしい。
考えていることを声に出すことで聴覚を通じて頭の中が整理されるような感覚は俺にもわかるけどな。
「すまない。今は私も上手く説明できない。私自身、考えがまとまっていない。ある程度思考する時間が欲しい。なにせこの現象を理解すること自体の思考が追いつていないからな」
天才と呼ばれているような人間が理解するのに苦労するなら、俺達凡人はどうしようもないわな。
「やっぱり先輩でもすぐにはわかりませんよね。急かすようなこと言ってすみません」
「いや、これは私の悪い癖だ。そう謝らないでくれ」
こういう関係を築けている人達が結婚しても喧嘩などせずに夫婦円満に暮らしていけるんだろうな。
逆に俺と姫石みたいな関係で結婚とかしてたら地獄だな。
……なんか考えてたら頭が痛くなってきた。
変なことは考えるもんじゃないな。
「あぁ、そうだ。入れ替わった後は何か変化はなかったか? 例えば趣味嗜好が変わったとか、苦手なことができるようになったり、逆に得意なことができなくなったりとか」
「そうだな。正直、まだそれほど時間も経ってないし、よくわからないことだらけだが、そういう感覚は今のところ俺にはないな」
「姫石華はどうだ?」
「あたしも玉宮と一緒な感じかな。体が変わったからといって、キノコが食べれるようになってるとはとても思えないし」
そういえば姫石はキノコが嫌いだったけ。
よく給食で味噌汁に入ってるなめこを全部俺の味噌汁に移して来てたな。
味噌汁が出るような日はたいてい箸だけしかなくて、一つ一つなめこを箸で挟んで移していたのは大変そうだったな。
そのせいでいつまでたっても俺は味噌汁をなかなか飲めなかったけど。
「肉体が変わっても人格への影響は今のところ無しか。わかった、とりあえず今日はもう時間も時間だから解散しよう。これからのことは連絡をとりあいながら決めていこう。玉宮香六と姫石華は私と連絡先を交換しておこう」
「わかった」
「おけー」
俺と姫石はスマホを取り出し八雲と連絡先の交換を行った。
八雲のアイコンは背景も含めて初期設定のままだった。
しかも名前は
こういうのは相手の性格がよく出るものだなと、俺は改めて思った。
「せっかくですし、私達でグループ作りませんか? 情報の共有もそっちの方が便利だと思うんです。それに入れ替わりなんて夢みたいなことを知っているのは地球上でここにいる先輩達と私の四人だけなんですし、秘密を共有するみたいでなんだか良いと思いませんか?」
……なんだか立花が姫石みたいなことを言い出したせいか頭が痛くなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます