Layer6 放課後
科学的に入れ替わりを説明してくれる人物。
まさに今、最も必要な存在である。
素人が闇雲に情報を集めたところでたいした解決策を考えられるわけじゃない。
「そんな人物が俺達を助けてくれるのは願ったり叶ったりなんだが、科学に詳しそうな人がこんな非科学的な話を聞いて都合良く助けてくれたりなんかするのか?」
「それがしてくれるんです。お二人も名前ぐらいなら聞いたことあると思いますよ」
「あたし達が聞いたことあるぐらいってことは結構な有名人なの?」
「世間的にはどのくらい有名かはわかりませんが、うちの学校の人なら聞いたことがあるんじゃないでしょうか」
学校関係者なら分かるということは俺達の身近にいるような人物だということだ。
科学的な知識がある人物と大きく考えるとしたら、化学、物理、生物、数学、情報といった理系の先生のことだろうか。
あるいは……
「
やっぱり、そっちの方か。
俺も名前ぐらいなら聞いたことがあった。
俺達と同じ高二だったはずだ。
学校にはたいてい放課後にだけ来るため、いつも単位が危ないと職員室で先生達が話していたのを聞いたことがある。
放課後には絶対に学校にいない帰宅部の俺とはもちろん面識なんてない。
「たしか、去年の日本学生科学賞の内閣総理大臣賞、ジャパン・サイエンス&エンジニアリング・チャレンジ(JSEC)の文部科学大臣賞を受賞した人だよな? しかも、今年は国際学生科学技術フェア(ISEF)にも出場するらしいな」
「なんかよくわかんないけど、すごそうな感じの人なんだね」
姫石は内閣総理大臣とか文部科学大臣という言葉を聞いただけですごいと思ったみたいだ。
あながち間違ってはいないのだが、それらしい言葉があったらすぐに信じ込みそうな危なっかしさがある。
どこどこ産の厳選○○使用とか、なんとかのシェフの○○が監修とか商品に書いてあったら喜んで買っていそうだ。
「日本の科学のこれからを担うような人が取る賞だからな。立花に言われるまで、そんな科学の天才が身近にいたことをすっかり忘れていたよ」
いくら入れ替わりという異常事態が起きていたからといって、こんな初歩的な段階でミスをするなんて普段ならありえないことだ。
なんだか情報が後出しされているような気もするが。
自分では冷静でいたつもりでも、少し混乱しているのかもしれない。
「へ~そんなすごい人がうちの学校にいたんだ。知らなかった。あたし学校生活は楽しいけど学校自体については興味ないからな~」
なんとも学生らしい意見だ。
ただもう少し興味を持ってくれてもバチは当たらないと思うぞ。
「それじゃあ、この学校に科学部があることなら知ってますよね?
「うん、知ってるよ。理科の「科」の方の漢字を使う科学部って珍しいもんね。うちの学校ぐらいでしか聞いたことないんじゃないかな。部員が一人しかいないのに部として存続できてるのは謎だけど」
姫石の言う通り、俺の学校では6人以上部員が揃っていなければ部として通常は存続できない。
あくまで通常の話だが。
「その科学部の唯一の部員が八雲先輩なんです」
「日本の科学の未来を担う人物が部員なんだ。いくら部員が規定の人数に達していないからといって、部を無くすことは学校側も世間の目があることだしできないってわけだ」
正に特例というやつだ。
学校の唯一の売りである科学部を無くしてしまっては、今後の入学者数に関わってしまうだろう。
「だから部員が一人しかいなくても無くならなかったんだ~」
「かなり有名なことですから、てっきり姫石先輩も知っているかなと思ったんですけど」
「大丈夫だ、立花。知らないのは姫石だけだから」
「あたしだけってことはないでしょ! たぶん他にだって知らない子はいっぱいいると思うよ」
「それはたしかにあるかも……いや、ないな」
「何でよ!」
少しだけ自己紹介で馬鹿にされた分をやりかえしたところで、そろそろ話を本題に戻すか。
「とにかく、その八雲って奴なら俺達に協力してくれるかもしれないってことだな?」
「はい! 先輩なら絶対にこの入れ替わりについて科学的に説明しようとしてくれるはずです!」
立花は自信満々に答えた。
なんなら自慢げですらあった。
あと、なんとなく立花のテンションが上がっている気がする。
「それなら、なるべく早く協力を頼みたい。できれば直接会って話したいから、明日には会えるように頼んでもらうことはできるか?」
「明日と言わず今すぐにでも会えると思いますよ」
「え? こんないきなりなのに大丈夫なの? 歩乃架ちゃんあたし達のために無理とかしてない?」
「これぽっちも無理なんかしてませんから大丈夫ですよ。何と言ったって今は放課後ですから」
そう今は放課後なのだ。
そして八雲という人物はたいてい放課後の学校にいる。
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