Layer2.0 把握
何これ?
あれ?
あたし、どうなったの?
たしか……つまずいて階段から思い切り転んで、玉宮にぶつかちゃったんだ。
「ッ!」
ぶつかったことを自覚したせいか、あたしはおでこにジンジンと激しい痛みがあるのに気付いた。
そうだ! 玉宮は!? 大丈夫かな?
あたしがこれだけ痛いってことは玉宮も相当痛いよね。
ジンジンとするおでこにたんこぶが出来ていないか気にしてさすりながら、玉宮のいる方へチカチカとする視界のなか目を向けた。
すると、あたしがあたしを見ていた。
……
あれ?
おかしいな?
頭をぶつけたから幻覚とか見ちゃっているのかな?
こういう時、どうすればいいのかな?
目を閉じて一度落ち着いて、ゆっくりと目を開ければ元に戻るのかな?
そう思って、深呼吸をしながら目を閉じて自分を落ち着かせ、ゆっくりと目を開けてみた。
すると、あたしがあたしを見ていた。
まだ、治ってないのかな?
でも、さすがに深呼吸もしてだいぶ落ち着いたから治ってないことはないと思うんだけど……
あ! もしかして鏡か! だからあたしがあたしを見てるんだよ!
そうだよ、そうに決まってる!
だってそうじゃなきゃおかしいもん!
こんなところに鏡なんてあると思わなかったから、びっくりしたよ。
自分の結論に納得したあたしは、不意に自分の体の下の方に違和感を感じたのでうつむいた。
ジッと見ていたら、自然と手を伸ばしていた。
この行動はあたしが知りたくなかった現実をたたきつけられることになった。
手を伸ばそうとした時、本当はしちゃいけないってわかっていた。
あたしの本能がしてはいけないと警報を鳴らしていた。
けれど、あたしは手を伸ばすことをやめることはできなかった。
体の下の方にある違和感を確かめずにはいられなかった。
フニャッとナマコを踏んだような感触が手から伝わってきた……
「きゃあああああ!」
と叫んだ声があまりにも低い声だったので、
「きゃあああああ!」
とあたしは二度叫ぶことになった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
俺が、自分で立てた突拍子もない仮説に確信を持ち始めた時、ようやく姫石がこちらに気付いた。
姫石はぼーっとしながら俺を見つめていた。
それも無理もない話だ。
気が付いて顔をあげた時に自分の顔が目の前にあれば、誰だって呆然とするし、思考がフリーズする。
たぶん姫石は、この嘘みたいな状況を理解できずに混乱しているに違いない。
視覚が情報を正しく認識していても、その情報を演算して処理するはずの脳が固定観念というフィルターに引っかかって、上手く機能できていないのだろう。
もしかしたらパニック状態に陥るかもしれないと心配していたが、姫石は今のところある程度は落ち着いているようだ。
急に姫石は目を閉じて深呼吸をした。
精神統一をするための儀式でもしているのだろうか。
気持ちはわからなくもないが、ぼーっとしてるくせによくそんな儀式で落ち着こうだなんていう思考が働くな。
ゆっくりと目を開けた姫石が怪訝な顔をしたと思ったら、すぐに納得したような顔をした。
いったいこの状況を姫石はどう納得したのだろうか。
すると姫石は、うつむいて下をジッと見始めた。
何をしてるんだ? こいつは?
なんだかとても嫌な予感がした。
不意に姫石が手を、いや俺の体だから俺が手をと表現した方が正しいのか?
なんだか、どうでもいいようなことで思考が少し混乱した。
とりあえず、人格を中心に物事を考えよう。
そうした方が、思考もまとまりやすいだろう。
つまり、不意に姫石が手を下の方に向かって伸ばそうとしたということだ。
……
俺の体の下の方に手を伸ばそうとしているだと!?
あわてて姫石の行動を止めようとしたが、余計な事を考えていたせいで、時すでに遅し。
触った感触が伝わったのか、姫石はみるみるうちに顔を赤くして……大きな悲鳴をあげた。
本当に何してんだ! こいつは!
一拍おいて姫石はもう一度悲鳴をあげた。
俺は、自分の体が女々しく悲鳴を上げる姿を二度も見るはめになった。
なんで二回も悲鳴をあげるんだよ。
その姿は、それはもう気色の悪いものだった……それ以前にいろいろな意味で自尊心をえぐられた気がする。
普通こういうことって、入れ替わった男側の俺がすることじゃないのか?
何でそれを女側の姫石がやるんだよ!
なんだか納得がいかない。
こうなったら俺も姫石の(ない)胸を揉んでやる! と思いそっと胸に手を置こうとした時、廊下の方からパタパタとこちらに駆け寄ってくる足音がした。
すぐに、少し小柄なボブヘアの女子生徒が廊下から駆け寄って来た。
俺は胸に置こうとしていた手をそっと下におろした。
……見られてはないよな?
その女子生徒は雰囲気的に下級生のようだった。
どことなく幼さのある顔に、平均より少し低い身長のせいか後輩感がすごいある。
だが、局地的に大人びているところもある。
これは……かなり大きいんじゃないか?
少し目線を上げると目が合ってしまった。
ヤバい! もしかしてじっくり見てしまっていたのか……
しかし、その女子生徒は俺のことを心配するような顔していたため、不審には思われていないみたいだ。
女子生徒が俺に向かって何かを言おうとしてきた、その時
「歩乃架ちゃあ~ん!」
と姫石が女子生徒に抱き着いた。
俺の声で、俺の体で抱き着いた。
もちろん、俺はその
ようは、見知らぬ男子がいきなり自分の名前を叫びながら抱き着いてきたわけだ。
そんなことされたら、当然
「ひゃあ!」
このように悲鳴を上げる。
これでは俺はただの変態だ。
このままでは先が思いやられる……あ、そういえば、ようやくまともな悲鳴を聞いた気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます