Tier22 七年前

 僕の紹介が六課の人、全員にやり終えたのを見て手塚課長は言った。


「うん、これで一通りの紹介は終わったかな。ちなみに、佐々木君と市川君もマイグレーターなんだよ」


「そ、そうなんですか」


 つまり、天野君を合わせて六課には三人のマイグレーターがいるってことなのか。


「言われないと、全然分かんないでしょ」


 丈人先輩が言った通り、これっぽっちも丈人先輩と市川さんがマイグレーターということに気付かなかった。


「はい、全然わかりませんでした」


「だよねー」


 そう言って、丈人先輩は明るく笑った。


「それじゃあ、新しく伊瀬君のデスクとなるとこに荷物とか置いちゃおうか」


「分かりました」


 手塚課長に言われて僕はすぐそばにあった、空いているデスクに荷物を置こうとした。


「あ~ごめんね、伊瀬君。そこじゃなくて、もう一つ奥のとこにお願い出来るかな?」


 手塚課長が慌てたように言った。

 少し奥にはもう一つ空いているデスクがあった。

 こっちが僕のデスクだったようだ。


「あ、はい。了解しました」


 僕が間違えて荷物を置こうとした時、一瞬だけ空気がピリついた気がしたのだが勘違いだろうか。

 六課の人たちにこれといって変わった様子は見られなかった。


「いや~ごめんね。ちょっと言葉足らずだったね。うっかりしてたよ~」


 手塚課長はわざとらしく自分のおでこを叩いて謝った。


「そんなことより、重要な報告って何です? そのために集まったわけですよね?」


 天野君が大きくのけぞって手塚課長に聞いた。


「うん、そうだね。重要な報告というよりも情報の共有の方が正しいかな――」


 手塚課長がそこまで言った時、扉が開いて誰かが入ってきた。


「手塚課長、準備できたよ。防音対策もバッチリだし、盗聴の心配もないよ」


 入って来たのは最初に僕に声を掛けてきた綺麗な女の人だった。


「うん、ありがとうね。それじゃあ、早速だけれど話してもらおうかな」


「課長、だから俺達に話すことって何なんです? そんなに重要なこと何すか?」


 天野君が疑わし気に手塚課長に聞いた。


「うん、かなりの機密事項であるマイグレーションが初めて観測された事件についての話だからね」


「なッ! どういうことですか!?」


 天野君は食い気味に手塚課長に聞き返した。

 手塚課長の言葉は天野君を含め、多くの人をひどく驚かしていた。


「まぁ、そう焦らないで。詳しい事は彼女から話して貰った方が良いと思うよ。なにせ、彼女はマイグレーションが初めて観測された事件の当事者だからね」


 手塚課長の言葉に、また多くの人がひどく驚いた。


「皆にはまだ話したことがなかったから、驚くのも無理もないよね。と、その前に自己紹介がまだだったね。突発性脳死現象じゃなくて、マイグレーションについて専門に研究している姫石 華ひめいし はなです。これからよろしくね!」


 姫石さんは僕に向かって元気よく挨拶した。


「伊瀬祐介です。こちらこそよろしくお願いします」


 僕も元気よくとはいかずとも挨拶を返した。


「よし、自己紹介も終わったことだし私の昔話でも聞いてくれるかな? ……七年前のあの日、何があったのかを――」


 そう言って、姫石さんは静かに語り始めた。

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