スカート覗いている写真をいつの間にか撮られ脅された結果、意外に悪くなかった件。
ゆうらしあ
第1話 怒涛の日
その男を評するなら"怪物"と言うのが正しいだろう。
ある男がそんな事を言った所為で、彼には『怪物』というあだ名がついて回るようになった。歳を重ねる毎に迫力は増し、それは言い逃れのない事実へと昇華するーー。
「ちっ……」
ある敷地内の中、壁に寄り掛かり舌打ちをする男子学生が1人。
頭上には真新しい白のシースルー階段。その階段下には、寂れた掃除ロッカー、傷や汚れが目立つ古い椅子に机、汚いブルーシート、それらに紛れる様に彼は居た。
ボサボサの赤黒みを帯びた茶髪に見え隠れする、切れ長な三白眼。
180cmを超える体躯に、着崩された学ラン、その下には外見に似ても似つかないニコちゃんマークが入った黄色いTシャツ。
学ランの裾は擦り切れ、口元は赤く血塗れている。
喧嘩無敗。一騎当千。国士無双。
『あのふざけたTシャツに騙されてはいけない。手を出せばアイツのTシャツは赤く染まる』というのは、此処ら一帯では有名な話であった。
「流石に300人以上を一辺に相手は無理だったな……俺をぶっ飛ばしたら世界一? んな訳ねぇだろ……」
彼、
まさかこんな大規模な襲撃が行われるとは。増してや休日、行動ルートをピンポイントに予測しての犯行。
しかも、今日は大乱闘動物園のシロクマ、ラッシー君の公開日。月一での楽しみである、動物園に行って荒んだ心を癒すという楽しみを邪魔されての襲撃。
学校をサボってまで行ったというのに、300人以上の男達に追いかけ回された挙句、道に迷い込み、追っ手を撒く為にこんな所にまで来てしまう始末。
「
そう。視線の先には巷で知らない奴はモグリと言われる、ある学校の象徴である桃色の鐘が建物の頂上にあった。
聖歌恋女子校とは、幼稚園から高校までの生徒が在籍するエスカレーター式のマンモス校で、此処に通っているほぼ全ての女子が"超お偉いさん"のご息女、議員の娘に大手企業の娘等がゾロゾロと居るというスーパー学校だ。
そして、嵐が居るのはそんな場所の敷地内。勿論セキュリティーがない訳も無くーー。
「……警備員は見る限り4、5人は常時居る。防犯カメラも至る所にあって……赤外線センサー? おいおい……マジでバレてねぇのかよ?」
嵐は冷静に周囲を見渡し、またも大きく溜息を吐いた。
目の前には、身長の倍はあろう壁が聳え立っている。此処に入ってこれたのはもはや奇跡に近い。
(もし見つかりでもしたら社会的に……いや、物理的にもクビが飛び兼ねねぇ……)
幸い此処に居てバレていないのは、今居る場所が聖華恋女子校の中でもゴミ捨て場の様な役割を担っているから。警備員が此方に探しに来ないのは、外を注意深く見ていれば此方に来て探す手間も要らないという訳なのだろう。
そう思った嵐は、汗を拭いながらも目を閉じる。
(取り敢えず、暗くなってから脱出するか。走って疲れたし……)
嵐はこのまま寝るのはバレる可能性があると、ブルーシートを頭から被り眠りに着く。
だがそれが、嵐の人生の転機になった。
「よし、ーー」
「まさか本当にやるとはーー」
「これでーー」
「うん……はわぁ」
目を覚ますと、周りは既に真っ暗だった。スマホを開く。
「8時過ぎかよ……大分寝たな」
大きく伸びをした所で気付く。
横には被っていた筈のシートが、無造作に置かれている。しかも壁に寄り掛かって筈が、今では横になって眠っていた様だ。
自分はこんなに寝相が悪かっただろうかとも考えたが、幸い周りを見てもバレた様子もなく、辺りは不気味な程静かだ。
「……早く帰ってやんないと心配するな」
嵐はセキュリティーの目を上手く掻い潜り、壁を登り切ると、素早く家へと帰宅した。
そして翌日。
今日も普通に活気がある普通高校。聖歌恋女子校の庶民の生活を理解する為に隣接された、『紅葉高等学校』の木造の温かみがある1年のある教室にて。
「あ〜らしっ! やっぱり生きてたかぁ〜、さっすがぁ〜!! って!! 臭っ!! 汗臭いよ嵐!!」
嵐が昨日のままの汗まみれの制服を着て早弁していると、ある男子が絡んでくる。
「
級友というより、腐れ縁である
「お前、昨日はよくも逃げやがったな?」
「いやいやいや! 逃げるしかないでしょ!? だってアレは300人以上居たでしょ!?」
「俺とお前ならアレぐらい……
「現実見て下さい!? このヒョロッちい腕でどうにか出来る訳ないですよね!?」
「ちっ……腰抜けインテリもやし野郎」
「単純馬鹿には分からないんだね、戦略的撤退が」
仁は肩を竦める。
昨日、嵐は嫌がる仁を無理矢理に誘い、大乱闘動物園に行った。いつも女子のケツを追い掛けている仁だからこそ、偶には癒しが欲しいだろうと誘った訳だが。
「で? 嵐は昨日どうしたの? その傷に、汗臭さ、もしかして……あの人数とやったの?」
「まぁ、ちょっとやって……これ以上やったら今日登校出来なくなりそうだったからな。逃げた」
「何だ、嵐も結局逃げたんじゃん」
「テメェとは違って警察署には逃げ込まねぇよ」
嵐は持っている割り箸を折りながら仁を睨みつけ、仁は少し腰を引きながら問い掛けた。
「じゃ、じゃあ、何処に?」
「何処って……」
それを言うのは躊躇われた。何故なら、嵐が行ったのはあの天下の女子校。もし、入り込んだのがバレたのだとしたらーー。
「何勿体ぶってんの? 女子トイレにでも逃げ込んだ? あ、それとも女子更衣室? 確かに……そうすれば撒けるよね!」
しかし、仁の言葉を否定しなければ要らぬ風評被害が広がってしまうのは確実だった。
「……偶々隣に逃げ込めたんだよ」
「えっ!? つ……つまり聖華恋? 凄過ぎない?」
言いたい事は分かる。
聖歌恋は最新のセキュリティーが設置されている。そこに入れる男なんて地位がある者ぐらいで、自分も入れた事に今でも驚きが隠せなかった。
「どうだった!? どうだった!? アソコって低俗な者……と言うか基本男子禁制じゃん!! 良い匂いとかした!?」
「いや、キモ過ぎ……てか、何でそんな興奮してんだ」
「何でって、そりゃあそうだろ! お前は興味ないかもしれないが、聖華恋の入学試験は日本でも最高難度で、政治や財政、帝王学なんて試験もある上に、入学するには地位だけでなく、容姿まで加味してるって噂があるんだぞ!!? 日本中のお偉いさんのスペック高い美少女が数え切れない程選抜されてる所なんだぞ!?」
「あー……それは凄いな」
「あぁあぁぁぁぁッッッ!!!? 何でこんな馬鹿に行けて僕には行けないんだぁっ!?!?」
「……欲望が見た目に表れてるからじゃないか?」
仁は頭を抱えて嘆く。そんな仁を尻目に、嵐は弁当の白米を頬張るのだった。
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