第27話 幸せの手人形
楓材のテーブルの美しい木目に、天井から吊るされたランプの灯りは深い味わいを醸し出してくれる。
一人、物も言わず、山田さんはモクモクと食べ続けている、ある意味スゴイ。
全員で、佑夏によるサーモンサラダに夢中になっていると。
秋ならでは、キノコたっぷりの味噌汁が目に入る。
何しろ、僕はこの食材に目がない。
これも、一氣に飲み干してしまう。
美味い!こりゃ、たまらん!一杯じゃとても足りん!
間髪入れずに、すぐ佑夏は、おかわりをよそおってくれて。
「はい、中原くん。」
両手で、そっと優しく笑いながら、僕の前に置いてくれる。
「ありがとう、佑夏ちゃん。」
自分で言うのも何だが、まるで長年一緒にこうしているかのような、自然な二人。
すると、ルミ子さんが冷やかすように
「いや~、中原さん。ホンマに氣持ち良う、食べはりますなぁ。
それにしたかて、ほんまもんのご夫婦みたいどすな!」
「アハハ、ありがとうございます。」
なんて言ったらいいか、分からなくて、とっさに曖昧な答えを返してしまう。
しかし、この楓材の椅子、古いがすごく作りがいい。
全っ然、ガタガタしない。
水野さんが佑夏に
「佑夏ちゃん、本当に、お付き合いしてないの?すごくお似合いよ。」
「い~え~、ホントに違うんですよ。」
でも、笑って答える姫。
すると、理夢ちゃんまでもが
「ウチはまだ、氣になる男子はいてはらへんけど、えらい素敵で羨ましおす。」
しかし、ルミ子さんは嘲笑う
「理夢、白沢さんみたいな、はんなり美人さんやさかい、中原さんくらいの男前で優しい方とお似合いなんや。
お前じゃ、こないなええ男さんは、捕まえられへんで。」
「下品なこと、言わんといて!お二人の関係、素敵や言うただけや。
見た目はどうでもええやろ!」
この子だって美少女なのに。それも綺麗過ぎの。
ルミ子さんに言ってみる
「娘さん、本当に可愛いと思いますよ。」
すると、やはり佑夏も
「理夢ちゃん、ホントにカワイイよ!アイドルみたい。私なんか、もう半分、働くオバサンだよ。
羨ましいの、こっちの方だな☆」
こう言われて、悪い氣がするはずもなく
「おおきに!えらい嬉しおす!」
と、喜ぶ理夢ちゃんに再び、ルミ子さんのツッコミが
「アホ、お二人の愛と、思いやりと、優しさやいうんが、分からへんのか?このいちびりが!」
「いちいち、やかましいわ!ウチの勝手やろ!」
フォローしなくては。僕は、今度は理夢ちゃんに
「吉岡さん、白沢さんは嘘はつかない人だよ。」
佑夏は人格に裏表が無い、言行一致の人で、口にすることは、いつも嘘偽り無い本心だ。
その彼女も
「理夢ちゃん、ホントにホントだよ。」
笑うというか、宥めるというか。
「おかんより、お二人の言うこと信じます!」
だが、ここで小林さんが眼鏡の奥から、強烈な「こんな話には何の興味も無い」光線を発しつつ
「それで、中原さん。先ほどのお話の続きですが。」
「あ、ああ。そうですね。」
僕も、ハッと我に返る。
実は、どういう訳か、事の成り行きで、無垢材の楓家具について、説明していたのである。
何から話そう?
僕の住む県は、世界的に有名な欅箪笥の産地である。
それで、僕は時折、無垢材を使った家具を作っている工房に、木工を習いに行っている。
いきなり「杉・檜の人工林は環境を破壊するから、生命を育む広葉樹を......」みたいな話より、まず、楓家具の良さを分かってもらいたいな。
「楓材は固く、傷が付きにくいんです。小さい子供や、ペットがいても痛みにくいですね。
木目が美しくて、白い色をしているんで、部屋を白い家具で明るくしたい方に向いています。」
と、始めてみたが。
当然の疑問でルミ子さんが、今、僕達が使っている椅子とテーブルを指差しながら、
「せやけど、こら白うあらしまへんよ?楓なんどすなぁ?」
「年数を経ると、少しずつ飴色に変化していくんです。
僕はこの色が好きなんですけど、ずっと白い色のままがいい人には、向いてないかもしれません。」
元々は、桐家具の白い色が好きだったんだけど。
山田さんは、聞く耳持たず、といった様子で、全く会話に入らず、一人黙々と食べ続けている、尊敬に値する。
「この椅子とテーブルはウレタン樹脂じゃなくて、オイル塗装だから、こういう深い味わいが出てくるんですね。
かなり古いですが、単に劣化していくだけじゃなくて。」
そう解説していると、佑夏が。
「中原さんは最初、桐の家具が作りたいって言ってたんです。
あの白い色が好きで、軽いから、お家やお店の中でも、扱いが楽だからって。」
僕自ら引き継ぐ
「そうなんです。それに、桐は杉より成長が早いです。早いサイクルで植え付けから伐採までできるから、少ない面積で育てられます。森をさほど切り開くこともないと思ったんですけど。」
小林さんがインテリぶりを発揮し
「東北では、福島県の会津地方が桐の産地ですね。その影響ですか?」
ちゃんと真剣に答えます
「会津は桐だけじゃありません。広葉樹を中心に森を育て、山のルールに従って利用する文化があります。
福島県は楓材の産地でもありますよ。」
ん..........?
向かいに座っている、ルミ子さんと、理夢ちゃんと水野さんが、何やらクスクス笑っている?
笑うような話じゃないよな?
三人とも、僕の背後を見ている。
後ろに何かいるのか?
振り向いてみると.........、
手の平サイズの、三毛猫の楓と、ぽん太が僕の後ろで踊っている???
思わず、吹き出してしまいそうな、可愛いダンス!
この手人形は知っている!!
佑夏が、僕の家に持って来て、苺奈子ちゃんを遊ばせてあげたものだ。
モナちゃんが、あまりに欲しがるもので、あの子の手に合う小さいサイズの同じ人形を、佑夏はもう一組作って、彼女にプレゼントしていたものである。
しかし、一体どこに持っていたんだ?
「佑夏ちゃん、何やってんの!?この後、吉岡さんに勉強教えるんだろ?
バカやってないで、早く食べなよ。」
あまりのおもろかしさに、僕も、笑いながらも、なんとか一言、絞り出すと
姫の左手と言うべきか、楓の手人形と言うべきか、が
「は~い!分かりました~!」
昼間の鴨の群れの時もそうだったが、プロの声優も顔負けの、見事な腹話術。
だが、この手の平サイズの楓はまるで分かってないようで
「皆さ~ん!こんばんは~!私、楓といいます。中原さんの飼い猫で~す!」
そう言って、両手を前で合わせ、みんなにペコリとお辞儀をする。
とてつもなく、可愛らしい仕草だ。
ルミ子さんが笑い転げながら
「中原さん、猫飼うておるんどすか?えらいカワイイおすなぁ!」
今度は、佑夏「本体」が
「はい、楓ちゃんっていうんです。とっても可愛いんですよ。」
ブサイク猫の、ぽん太だけじゃなく、誰が見ても美少女猫の楓のことも、佑夏はちゃんと「可愛い」と言ってくれる。
別にゲテモノ趣味とか、そういうことでなく、物のカワイイ所を見つける名人なのかもしれない。
水野さんが感心した表情で
「すごく良く出来てるわね、佑夏ちゃんが作ったの?」
「は~い!そうで~す!」
にこやかに答える、手の平サイズの楓と、ぽん太である。
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