YOU got a chance!! ~夜王、優の爆誕。そして頂点へ~

MICHIO'Z BLOOD

第1話引きこもりの優

外から小学生の声が聞こえる。


昨日のテレビみた?

 おぅみたみた、なんっていったらいいかわかんねぇけどさ、女優さんの、えぇぇっとなんつったっけぇ…

鴻上静だろ?凄いよねあのひと。

 あっそうそうそのひと!しずかさんのあのからだ、小学生には刺激が強すぎじゃね?

まぁ、母ちゃんとそう変わらない歳なのになんでこうも違うんだろ。

 おまえんとこの母ちゃん、すっげぇブスだもんな!

それ言うなよな、本人結構気にしてんだぞ!

御肌の御手入れは大事なのよぉとか言って風呂上がりに1時間も鏡の前にいてさぁ、正直効果無くね?とか思ったり。

 息子のおまえがそれを言っちゃあおしめぇだよ?

それって寅さんのマネ?似てねえ、ふふっ。


大声で聞こえるその会話を微睡みながらベッドの中で聞いてる少年、


朝からよくもまぁ…


大きく伸びをして脱力、雨戸の隙間から入る日の光が部屋の様子を映し出す。

足の踏み場が無い程に…汚い。

机の上にはノートパソコンがあり、画面には少女のダンス姿が見える。


だらしない格好の優がベッドから這い出てごみの中を芋虫の様に進んでいく。

ドアの所まできてノブに手を伸ばしゆっくりと立ち上がる。

スイッチをONにして電気をつけると、そこには引きこもりニート特有の光景があった。


 もう何年掃除してないんだろ、まぁこんなんでも生きていけるから。


心の中でそう呟き、机の所まで来ると写真立てを手に取り挨拶をする。


おはよ、母さん。今日もまだ生きてるみたい、ふふっ。いつになったら母さんの所に行けるのかな?ねぇ、母さん?答えて?…うぅぅ、ごだえでぇぇぇえよぉ…。


毎朝の恒例行事、ルーティンといってもいい。

あの時の哀しみから抜け出せなくて心を閉ざし周りに馴染めず考えるのを辞めた。


本来ならば起きて身支度をし持ち物を鞄に入れて朝食を食べ中学校に通うのだろうが、2年生の初日に通ったきり。

教室ではわいわいと皆話をしていて優の周りには誰もいない、まるで優が空気の様に扱われていた。


こんなんいてもいなくてもいいだろ!


ホームルームが終わり皆が1時間目の支度をしている時に、優は鞄を持って教室を後にする。


玄関の鍵を開けて中へ、足元を見ると隅の方に埃が被った女性物の靴が2足ある。


ただいま、母さん。


小声で呟く。


おかえりなさい、ゆう?どうしたの?こんなに早く帰ってきて。

具合でも悪いの?

お母さん、心配性だから、ね?お熱計りましょ?


優の耳にかすかな女性の声が聞こえて、涙が溢れて玄関に崩れ落ちる。


なんでぇ?なんで、ひとりで…うぅぅ


母親は優が中学1年の終業式の夜に突然倒れた。

優があたふたしながらも救急車を手配して母親の様子を電話の向こうにいる救急隊員に伝える。

父は自動車整備を現場でしていて今日中の仕事を抱えていて現在も作業中。

優は電話の声に耳を傾け応急措置をしてみたが意識は戻らず途方にくれる。


遠くからサイレンが聞こえた時には優も全身の力が抜けてしゃがみこむ。

こうしてはいられない、玄関を出てサイレンがする方に駆け出す。

赤色灯が光るのが隙間から見えた優は一目散に駆け寄る。


ありがとー、母さん助けて?こっちです、早く!


…病院の一室。

優の目の前には顔に白い布を被せた母親の姿があるが主治医も医療スタッフも俯いて何も言わない。


遠くから力強い足音が聞こえた、かと思ったらドアが開き厳つい漢がベッドに駆け寄る。


あぁ~何でこんなことに…

家内は?何が原因なんですか?


漢は主治医に詰め寄る。


急性の病で御自宅では既に心肺停止状態でした。

息子さんが懸命に処置しましたが救急車が到着した時にはもう手遅れで…

力及ばず申し訳ございません。


そっそんなぁ。ねぇ嘘だろ?嘘って言ってくれよぉ?


普段は穏和な父親もこんな顔するんだ。


心の中で優は考えていた。


人間はいつ死ぬかわからない、だったら努力なんてしなくても。他人と仲良くしなくても。ご飯なんて食べなくても。水も…


そう思っていた時に父親が


優?大丈夫か?優、ゆう!


大声で叫ぶ父の声を聞き現実に連れ戻された。


父さん、俺、俺、母さんの為に何もできなかった…ごめん、ごめんなさい。

 優は賢い子だ、そんなに自分を責めるな!

父さんだって家にいなかったのに母さんをここまで連れてきてくれた、ありがとな。


そういうとそっと優を抱き寄せてふたりで号泣したのだった。


そんな過去があり今がある。


玄関で一頻り泣いた後、部屋に行き雨戸を閉めた。


こうして引きこもりニートの生活がスタートしたのだった。

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