第5話 緊急速報

公園の水道で顔を洗う。

まずは状況の整理をしなくてはならない。


あの日パソコンに送られてきた不可解なメール。

それを開いたことによって始まった現状。


「そもそも気がつくと違う場所で目を覚ますって事が、おかしい。例えば薬物などで意識を奪い、その後に連行して捨て置く。だけどなんの為にそんな事をする? そもそも俺は昨日死んでたよな」


改めて昨晩の状況を整理して“ブル”っと震える。


「大体誰が何の為にこんな事する? 俺が困惑してるの見て楽しむ奴なんているはずが無い。ダメだ。考えれば考える程分からなくなる」


イライラしながら頭を掻きむしる。


「そもそもなんで俺の部屋がない。仮にドッキリだとしてマンションを動かせるはずが無い。金も住処も今後のアテも何も無い」


その時、先ほど見た文字を思い出した。


【ヒント。自らに出会い自らを超えよ。才能や努力を己が力とすべし】


「意味が抽象的過ぎて訳がわかんない。自分を見つめ直せって事か? 瞑想でもすりゃいいのか? 今この状況で迷走してるわ!! 」


思わず親父ギャグが出てしまう。

脳科学的に“親父ギャグ”というのは脳が疲れている状態の際に出やすいらしいと何かの本で読んだ事がある。


「疲れてるに決まってるわ。こんちくしょーが」


親父ギャグのお陰で脳が少しリラックスしたのか、実家に行く事を思いついた。

実家の場所は東京の外れにある。歩けば一日かかるだろうがアテがない以上向かうしかない。

腹を括り歩き出した。


結果二日以上掛かってしまった。

途中空腹に耐えきれずゴミ箱を漁り、弁当を拾って飢えを凌いだ。

シゲ爺がくれた足袋だ。まともに長距離を歩けるはずもない。

惨めな状況に涙が溢れてきた。


それでも実家に行けばと一縷の希望を胸に歩みを進めてきたが、それは脆く崩れ去ったのだ。


「ふっ......ふっ......ふざけるなっ!! 此処は実家がある場所なんだ! なんで湖なんだ! こんなのドッキリとかのレベルじゃない」


ワタルは膝から崩れ落ちた


「もうわかった。俺の負けだ。頼むからやめてくれ。誰か見てるんだろ」


天にまで届く程の大声を出して、未だ見えぬ自分を不幸な目に合わせる諸悪の根源に対して懇願した。

しかし声は山彦となって無情にも消え去っていった。


そこからの事はもう記憶にない。

せめてもと人の生活圏がある場所を目指してヨタヨタと歩いていた。ゴミ箱があれば中を確認して、自動販売機があれば小銭口を確認して。


生きながらえる為に恥も理性も捨て去り日々を生き抜いた。

そして、新たな場所に放置されて一週間が経った時、家電製品を販売している量販店の店頭に設置されたテレビに速報が流れた。


タイミングを同じにして周囲に聞いた事のない警報音が鳴り響いた。周囲の人々は突然の事にパニックを起こしていた。


テレビに目をやるとニュースキャスターが必死に何かを叫んでいる。

しかし周りの悲鳴等の騒音により聞き取れない。

流れたテロップを見て驚嘆した。


[<緊急>機械トラブルにより各国保有の核ミサイル一斉発射]


そして光の壁が地上に存在する全てのものを巻き込みながら広がりワタルも飲み込まれて意識が途絶えた。

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