永久の最期を夢見る君と
蒼衣ユイ
プロローグ
森にはしんしんと雪が降り積もっていた。森の周りは見下ろすように切り立った崖が連なっていて、人の気配もなくどこまでも静かな空間だった。
しかしその静けさに終わりがやってきた。爆発音と同時に男が一人、崖から空中に放り出された。崖から飛び出している枝に掴まったことで地面に叩きつけられずにすんだが、顔や体のあちこちから血が流れている。そしてそれを追って空中を漂いながらもう一人男が降りて来た。恐ろしいほどに美しい顔立ちは神々しさすら感じるが、それを乱すように頬に一筋の傷が付いていた。
「くそっ! さすが神様!」
「俺に血を流させたのはお前が初めてだ。名は?」
「アッシュグラウ皇国のルスラン。知らない?」
「黄金竜ステルラを倒した男がそのような名だったな。竜では飽き足らず神に手を出すか」
「同じ血を流す程度の奴が神様とは思えないけどね」
ルスランは自分の左頬をつんと突いた。それは神を自称する男が血を流しているのと同じ位置だ。ルスランがにやりと笑うと男は目を丸くして、くくっと小さく笑った。
「気に入った」
「そりゃどうも――っん!?」
男はすらりとした石膏のような指先でルスランの顎を掴むと力任せに引っ張った。引っ張られた、とルスランが気付いた時には男の唇が重ねられていた。ぬるりと舌が触れたことで現実であることが分かり、ルスランは血まみれの腕で男を突き飛ばした。
「んな、なんだあんた! 何す」
ルスランは男の襟を掴んで殴ってやろうと拳を振り上げたが、途端に視界がぐわんと揺れた。地に足が付いているかも分からず、ついに膝から崩れ落ちる。ひどい吐き気と頭痛に襲われ、ばたりとその場に倒れ込んだ。
「何、だよそれ……何しやがった……」
「私は
鸞は鍛えたことのなさそうな細くしなやかな腕てルスランの首根っこを掴んだ。ほんの少し力を入れて握ったのが分かったが、次の瞬間ルスランの身体はかるがると放り投げられ宙に浮いていた。
「うわああ!」
視界に鸞の姿は無く見えているのは大木の頭頂部だけだった。同時に頭痛は内臓を掻き回されるような不快感に変わり、大木が目の前に迫る頃には意識が途絶えていた。
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