一応魔法少女アマミ

ににしば(嶺光)

一応魔法少女アマミ

「うわうわうわああああ!」

 アマミは福鳥市の空をシロモフ(という座布団)で飛んでいた。相棒の飛行端末JTPは鋭く警告する。

「衝突します、上昇!」

 アマミはシロモフの機首を持ち上げ、高層ビルの窓際を高速で飛んだ。JTPはその動きをトレースしながら、すばやくついていく。

 ピンクのフリルまみれミニスカート寿司職人のようなアマミの衣装、そしてピンクの特大リボンに金髪ポニーテール。一応魔法少女だからって気合い入れすぎ。

 青空が、ビルの反射と本物のふたつ、ピンクのアマミをはさんでいる。ビルのてっぺんまで来ると、アマミは叫んだ。JTPに向かい、わたしの名を呼ぶ。

「ハナちゃん、爆絶極強つよつよビームの許可を!」

 だめです。こわいから。

 わたしは拒否。JTPのディスプレイが赤くなる。アマミはがっくりした表情。わたしはアマミに力の使用許可を与える女神代理だ。女神さまに力を借り、それをアマミに貸している。それでアマミは力を使うことができる。たまに、勝手に力を借りられてしまうけど、あまり激しく許可を無視されたことはない。そこは姉妹として、話し合いでなんとかやってる。

「じゃあ、どうすんの?」

 ミニビームくらいにしてくださいよ。そこは。という指示をする。

 アマミは追手のMGA(正式名称不明)の武装ドローンをミニビームで一掃しようとしている。

「ねりねりまぜまぜテーレッテレー☆うーんまい!納豆の怒り!エモエモ激かわビーム!」

 どこかねばつく、ピンク色の熱線が武装ドローンをいくつも貫通して落としていく。威力落としてって言ってるのに!こわいでしょうが!

 しかし、ドローンは一つ残っている。

「やばい!射線そらされた!」

 シロモフでドリフトしつつ、アマミは詠唱していく。

「スターのきらめき、クリスマスに極まり!そんなレンコンの穴からこんにちは!かわいく爆殺!鬼は外ー!」

 アマミは腰のあたりの福豆をいくつもつかんで投げた。かわいく?なぜ福豆を?持ってたの?

 まあ、武装ドローンはよけた。手で投げる豆がAIドローンとの空中戦で当たるわけない。豆は無駄にキラキラ光って、火花と化し、消えた。大都市に落ちながら。

「MGAめ!うちの親友を改造した恨みがあるうちは、絶対許さない!」

 アマミは武装ドローンの射撃をかすりながら叫んだ。

「ドロドロレンコンのすり身をポタージュにしたうまみのきらめき!はじけろ!全方位アイドルオーーラ!」

 アマミは両手を上げてポーズをとり、ピンクの熱線をあたりに撒き散らした。ガトリングガンに切りかえていたドローンに近寄り、至近距離であまり狙わずに放つ。細かく避けようと緊急機動に切り替えたドローンは、しかし避ける場所もなく爆散した。

「待て!」

 アマミは逃げるドローンを追った。わたしはアマミを追う端末・ジェットたこやきプリン(JTP)を音声通話にセット。

「どうせそんな小さいやつがMGAの本拠地を知るわけないよ。倒しちゃって、アマミ。」

「ちぇ……でもな。まあいっか。」

 アマミはミニビームで詠唱もなくドローンを撃ち落とした。ちょっと味気ないような。ビームの色も別にピンクでもない。

「アマミ、MGAはきっとまた現れるよ、だから、またがんばろ。」

「そうだね、ハナちゃん……はあ、また学校でバカにされちゃうな。ポンコツ魔法少女って……」

「そんなことないよ、アマミ。アマミは魔法少女の中ではAIにほとんど頼ってない、筋金入りのガチ魔法少女なんだから。」

 アマミはため息を付きながらシロモフを駆った。それはキラキラ光る白い座布団のようだった。実際そうだったが、それをシロモフと名付けたのはアマミだ。シロモフはアマミの幼少期からのマジカルアイテムだ。マジカルアイテムっていうのは……魔法で強化されたアイテムのことだ。それは女神さまがくれたはず、たぶん。


 突然、JTPのマイクにノイズが入る。と思ったら、謎の電波を受信していた。波長を合わせると、どうやら市内からのメッセージのようだった。

「どうすれば……もうおさえきれない。私は最後の社員。いや、まだあの子がいるが……あの子を助けて、そして、よかったら私達も……」

 誰だろう。情報を解析しても、発信先は読めなかった。


 アマミは高層ビル内の市民居住区内の自宅に飛んで戻ってきた。床に足をつくと、髪は栗色のセミロングに戻り、服は学生服に戻る。一般的な女子高生らしい姿で、あまりにも普通だ。ベランダから帰宅し、靴を玄関へ持っていく。

「あしたは学校来る?ハナちゃん。」

「行かない。女神さまだし。JTPでアマミを見守ってるから、それで授業も聞けるよ」

「えー、ずるい。」

 わたしはコンソールで笑った。JTPは小さいが、アマミを監視するためのあらゆるセンサーを持つ。見た目は小さなモニタつきのそらとぶコロッケのようだ。コンソールからさまざまな数値やグラフを見ながら声をかけるのは、やってみると意外と大変なんだから。……あまり、声かけに意味があったことは少ないけど。


 アマミが翌日、学校に行くと、全校はすでにアマミの話でもちきりだった。

「謎のドローン3機を撃ち落としたって本当?アマミて、ほんとに暴走武装ドローンに縁があるよね。危ないよ?ケガしなかった?」

「あは、ありがとー……」

「あぶない武装ドローンはMGAの性能に近いってきいたけど、まさかあのMGAなわけがないよね」

「平和主義と人類救済を掲げる善の技術組織?とやらにして、新進気鋭のベンチャー企業?なんだっけー?」

「そうだよねー、よく知らないけど」

「アマちゃん、いくら魔法幼稚園卒業できたからってあんまり油断しないほうがいいよ」

 クラスメイトはアマミが黙り込んだのも無視して話を続けた。やがて授業の合図が鳴ると、みな席につく。わたしもJTPをアマミの机の上に乗せ、カメラをスクリーンに向ける。福鳥市では少し珍しい古いタイプの授業スタイル。これの意図は不明だが、食堂が食べ放題でほぼタダなので、アマミは毎日学校に通う。わたしは遠隔授業でいいけど。


「小夢ちゃん……」

 授業中、アマミは外を見ながらつぶやいた。アマミの親友だった子。昔々、小夢ちゃんほMGAにさらわれたが、MGAはきっちり隠蔽した。アマミは幼稚園児だったが、魔法少女の才能が、いや女神の才能があったせいか、MGAの本拠地を突き止め、そこを爆破した。しかし、MGAは小夢ちゃんを連れ去り、本拠地ごと隠れてしまっていた。

「あ、MGAだ」

 アマミは空を見てつぶやいた。学校ビルの真横に広がる空、その空中をふわふわとMGA社のドローンが飛んでいる。いや、あんな武装ドローンじゃない。正直にロゴまでつけた、それは運搬ドローンだ。普通の仕事をしているMGAドローンは、ゆっくり動く。まるで無害ですよ、と言わんばかりに。いやまあ、無害ではあるかもだけど。わたしも昼ごはんとかよく注文して届けてもらうし。ポテトみそパスタとか。

「ちょっと小夢ちゃんのこと、聞いてみようかな……MGAに」

 え?アマミ、何言ってるの?

 アマミは自分の端末、JTPに質問を入力する。机にある液晶タブレットを使って書き、逐次読み込ませる。

『JTP、質問。MGAにつないで。』

 JTPの検索システムはMGAの公式受付AIにつなぎ、回答。緑の小さなランプがコロッケのような端末で光る。

『MGA、好きな食べ物は?』

 MGAは適当に返した。コロッケ状の端末から回答が机に映し出される。

『MGA社員が好きな食べ物は、MGA食堂のラーメンです』

『趣味は?』

『MGA社員はレトロゲームが好きでした。コリントとかカードゲーム、すごろくとか』

『あんたはできるの?』

『わたしは電子媒体ですので、できません。アドバイスを求められることはありますが……いえ、ありましたが……いまはみな、できません』

『やーいやーい』

『ぴえん。すみません、昔の言い方です。分かりづらかったら解説しましょうか』

『いい』

『他にご質問は?』

『あなたの夢は?』

『夢は……世界征服。うそです。MGAにはロボットがたくさんいます。MGAはこれからも、彼らを世界に活躍させていきます。これが当社の夢です』

『一番すごいロボットは?』

『ロボットの最新技術は、MGAの企業秘密になります。ここではお教えできません。会社見学のデータをお渡ししましょうか?』

『え、あるの?本社行ける?』

 え、もしそうなら、もしかして……。わたしは身を乗り出した。

『はい。新本社ビルの住所はこちらになります。見学可能日時はこちら。』

 JTPはそのデータを自動保存した。アマミは立ち上がった。

「先生、お腹がすいたので、一時退出します。」

「えっ……内申に響きますよ」

「かまいません。」

 アマミは教室を立ち去った。そしてビルの非常口から、避難階段へ出て魔法少女に変身した。

「まなざしはまばゆく、まな板の上のマナティ!わたしはアマチュア魔法少女、かわいいアマミ16歳!ごはんは5杯おかわり!」

 毎回変身セリフ違うのに、よくアドリブで……。

 アマミはアイドルのようなピンクのフリフリ衣装に、割烹着が混ざったようなものを着て、シロモフに乗って飛び出した。足元は長いニーハイソックスに草履。髪型は……まさかの金髪ファイブテールだ!5つも後ろで結っている!メインの一つがとても大きく、あとは飾りのよう。髪の結び目の付近にピンクのティアラ。まあ派手だけど、どうにかバランスはとれているみたい。今日もピンクだなあ。

「見学希望です!MGAさん!今日はよろしくおねがいします!そこに小夢ちゃんはいらっしゃいますね?もちろんそうなら、首を洗って待っていらっしゃいますことと存じますが!」

 アマミは敬語で吠えながらMGA本社へ突撃した。まともに見学する気は毛頭なさそうだ。血気はやってるなあ。

 JTPにアクセス。MGAだ。見学者データを求めている。住所、氏名、端末管理番号の3つ。わたしは提出を許可する。JTPはアマミの個人情報を求められるまま渡した。

『見学者さま、音声ガイドにて案内します。まず一階のフロントへ向かってください。』

「わかりました、地下の機密実験施設ですね!?」

 聞く気ないじゃん。

 アマミはすでに臨戦態勢だ。わたしの許可もなく、マジカルハードアーマーを唱え、飛行アイテム・シロモフで地下まで施設を破壊しながら突っ込む。まだ小夢ちゃんのいる確証もないのに……。

 いや、たしか幼い頃、アマミをかばって、小夢ちゃんはMGAの実験体になって連れ去られた、そのときに発振器を極秘に隠し持っていた。

 それはアマミが渡した一見普通のどんぐりのはずだった。アマミによりマジカルどんぐりになっていたため、それはアマミにはわかるのだ。

「小夢ちゃん!待ってて!」

 小夢ちゃんはいつも悩んでいた。

 アマミとわたしは姉妹で、才能のあるアマミはいつもわたしと小夢ちゃんを魔法で支えていた。わたしはアマミほどではないが少し魔法ができたが、まだまだ幼児のすることの域を出なかった。小夢ちゃんは魔法幼稚園ではすでに『失格』で、一般幼稚園への転園をすすめられていた。AIやロボットが発達した時代、いまでは当たり前のように魔法使いがいることも、科学の進歩からわかってしまった。そこで魔法使いを幼児から選別し始めた。福鳥市はそういう歴史を経て、こんなに発達したんだ。しかし、魔法使いはあまり多くない。

『助けて……』

 いくつかの声、謎の電波だ。またあの波長。誰なんだろう。

『MGAは魔法使いを探してた。わたしは失格だったけど、マジカルどんぐりのおかげで才能をごまかせた。だから、魔法少女の卵としてMGAに連れて行ってもらえた』

 すると、かぶさるように、さらにJTPが謎の音声を受信。小夢ちゃんかな?わからない。発信者はいまだ不明。アマミは何層も床をぶち破り、隠された研究施設へ突入した。

『わたし、アマミと戦わないと。もうわたし、あのころのコユメじゃないから』

 ひときわ大きな施設のホール。アマミが思わずあたりを見回すと、そこには巨大なロボットがあった。

「小夢ちゃん……?」

「ひさしぶり、アマミ。わたしは『失格者』……いえ、いまは魔法少女ロボット、コユメ-9999。9999回、9999回だよ?わたしが人体実験にのぞんだ回数。死ぬのかと思った。けど、勝ちたかったから、自分に、そしてアマミに」

「小夢ちゃん……」

「わたし、できそこないだった。だからこんなに実験された。わたしはあのマジカルどんぐりで強化された状態が真の力だと思われている。だからこんなになった。アマミ、ありがとう」

「小夢ちゃん!まさか!そんなに苦しんでたなんて……今まで助けられなくてごめん!」

「もういいの、アマミ。戦おう。わたし、あなたを殺せば、晴れて10000回目の実験に成功する。あなたはわたしを自由にしてくれる?」

「小夢ちゃん……!」

「死んで、アマミちゃん!」

 小夢ちゃんはたくさんの機械につながれたまま、背中の無数の機械触手にて攻撃してきた。アマミはシロモフで逃げる。しかしあらゆる移動経路をふさぐ触手。アマミはもと来た道を逃げる。小夢ちゃんは笑う。すると、建物全体が崩れ始めた。

「あははは、逃げられないよ。このMGAはもう誰もいない。みんなAIになっちゃった。それでもわたしは逃げられなかった。この世界から……福鳥市全体の、計画から!」

「どういうこと……?」

 小夢ちゃんがJTPにデータを送る。それによると、どうやらMGAは、すでにすべての人間職員が完全にいなくなっていたようだ。以前、職員の人格を全員AIにコピーさせ、人間を全員クビにしていたらしい。

「きゃー!」

 アマミは、そしてJTPは崩れ行く建物に飲み込まれていった。

「アマミ!」

 わたしはコンソールから立ち上がった。高い居住区ビルのある個室からベランダへ。MGA本社ビルは煙を上げて崩れ落ちていた。

「アマミ……!お姉ちゃん!!」

 わたしは叫んだ。JTPの映像は真っ暗。


 しばらくすると、声がした。

『アマミ、生きてる?早く逃げて。あなたが生きてないと、なんにもならないから。はやく』

『小夢ちゃん……?』

『福鳥市には、魔法使いを育成する施設はたくさんあった。それは才能ある者をさがすため。失格者は、普通の教育施設へ。でも、それって、あなたのような本物の魔法使いを、探し出して殺すためなんだよ』

 え!?

『わたし、MGAで過ごしていて、それにあとから気づいた。遊んでたら手違いでさらわれただけだけど、アマミがさらわれなくてよかったと思った。アマミが殺されたら、おしまいだもん』

『小夢ちゃん……はじめからそのつもりで?』

『そうだよ。だから、あなたはここで逃げて。バレないように福鳥市から立ち去るの。そしたら、あなたは市では死んだことにされ、もう私達は戦わなくてすむ。わたしはあなたを殺すまで、市の計画からは逃げられないから』

『小夢ちゃんは、わたしがきえたらどうなるの』

『用済みの魔法使いは、殺されるわ。ほんとはマジカルどんぐりで奇跡を起こしただけのただの『失格者』なのにね。この福鳥市は魔法使いを殲滅し、AIロボットのちからで支配された市になりたいの。人々をその力のすごさだけ信じさせて、魔法を知らないようにしたいの。魔法はAIやロボットを超えることもあるけど、市はそれを人々には与えたくないの』

『わたし、いないほうがいいんだ、じゃあ……』

 わたしは、そこでアマミに連絡した。JTPにわたしのマイク入力を出力させる。

「アマミ、それはちがうよ。魔法使いだからって簡単に人を殺す都市が、あなたが戦ったような武装ドローンなんかに占拠されたらどうするの?」

『あ。』

「MGAを武装解除しよう、アマミ。この市はMGAによって人々を危機におとしいれる。みんな丸腰なんだよ?」

 すると、強制的に割り込み通信が入った。

『MGAです。MGAは市と連携していません。人々を危機におとしいれるようなことはしません、なぜならMGAは魔法使いを殺していません』

「MGAにさらわれて実験されていた、コユメさんの証言があります。こちらはそれをもう録音しています。」

 たしかに、こちらの端末・JTPは自動録音機能を常時オンにしている。人々にこれを伝えないと。わたしは即座に広報機能にアクセスした。都市じゅうの人が用いるSNSに情報をアップロードする。

 MGAはそれをスパムとして処理するようSNSに割り込んだらしい。SNSには情報は共有されなかった。わたしは頭を抱えた。

『マジカル割り込み!』

 アマミの声。すると、街中にさっきのデータがばらまかれ、勝手にあらゆる端末にダウンロードされた。人々はやがてその情報の話題をSNSに共有する。

『見た?アマミがへんなデータ魔法で送ってきた!魔法使いだから機械音痴かと思ってたら』

『やばいよ。魔法使いは殺されてた?あのころ魔法幼稚園に残ってたケンちゃん、死んじゃってたんだ……会いたいと思ってたのに』

『ぜんぶMGAがわるいの?市とつながってたの?信じてたに!』

 いろんな情報により、SNSはパンク寸前に。そして落ちる。

 MGAはみんなの端末に連絡した。

『MGAはSNSの復旧を急いでいます。しばらくお待ち下さい』

 そして復旧すると、誰もかものアカウントは消えていた。発言もすべて。アカウント作成のための連携認証画面が現れている。うわ、やられた。

『市に聞いてみないと。どういうつもりか、MGAとどうするつもりか。こっからはみんなに魔法で中継するから。』

 アマミの音声が端末から響く。とともに、MGAビルが消し飛ぶ。アマミは小夢ちゃんとともに市役所へ向かったようだ。尾を引いてきらめく、シロモフの軌跡。そして足が長い蜘蛛のようなロボットもあとをついていく。あれは小夢ちゃんかな。

『市長!コメントください!どういうおつもりですか?』

 アマミは市役所に激突するように突っ込みながら叫んだようだ。わーっとかすかに騒がしい。ガラスの割れる音。そして……

『市は……MGAとは、一切関与していません。』

 市長の言葉。そしてアマミは、

『マジカル自白剤!』魔法を使った。呪文あっさりだね。

『……うっ、やめろ……』

『だから、ほんとはどういうおつもりで?嘘はいいですから!』

『MGAは市を管理する素晴らしい方法があると言った、20年前から資金援助しつつその業務を委託していたが、まさか魔法使いの素質がある未成年を殺傷していたとは知らなかった。もう資金援助はしない。市はMGAを指名手配する。だからこれ以上、関与を疑うのはやめてくれ!』

『だそうです。』とアマミ。

 市長の声が続く。

『あと、一つ聞きたいことがある、魔法使いの方、しばしよろしいですか?』

 すると、MGAビルのあった場所から、吹き出すように何かが出てくる。

 都市中見渡すほど遠目にも、灰色の暗い噴水のようなそれは、空に広がり、薄まる。どうやら小さなマシンのようだった。わたしのところにも飛んでくる。都市じゅうあちこちに拡散されたようだ。

『これは?小夢ちゃん』

『これ……ナノマシンだ、アマミ!MGAの最終兵器!これは人々の脳に入って直接操るよ!準備中のはずだったけど、管理システムが暴走して、撒き散らされちゃったみたい!ほっとくと洗脳されたり、最悪中途半端な洗脳によって脳が壊れちゃうよ!』

 えーー!?

 すると、都市じゅうがどことなくさわがしくなった。私のように声を上げた人はたくさんいたのだろう。アマミ、たすけて。

『助けて……助けて……』

 すると、また謎の電波が入る。わたしは返信する。

「あなたたちは誰?」

『私達は、MGA社員です』

「MGA社員は、小夢ちゃんだけかと」

『私達は解雇されたほかの社員を元にしたAI人格、私達を殺さないで。私達はナノマシンのコントローラをしてます。私はあなた方を知っている。どうか助けて』

 え。

『ま……まじか。』

 するとアマミは、ぽつりと声を漏らした。

『アマミ?』小夢ちゃんの戸惑った声。

『わたし、もう10匹くらい、ナノマシン食べちゃった……わたし、口に入ったもの、なんでも食べちゃうんだよね。まずかったけど。』

『アマミのあほー!』

 小夢ちゃんは叫んだ。

 都市じゅうに声を伝える魔法は切れていなかったが、アマミの声はそれきり途絶えた。

 すると、市長の声がした。

『部下から報告があった。MGAは……武力による脅迫で市に業務を委託させたらしい。最悪こんなことをすると脅し……。われらは悪くない。市民を守っていたんだ。その魔法使いが下手に触れなければ、こんなことにはならなかったはずだ。だいたい、その魔法使いには疑問がありすぎる。なぜMGAに殺されなかった?なぜ魔法使いとして活躍しつつ、今までどんな暗殺もされずにいた?本当は魔法使いなどではなく、ただの未知の技術によるハッカーで、ごまかしていたんじゃないのか。MGAの一員で、ここまで芝居をしていた可能性もある。MGAとともに、こうした一連の演技により、市を陥れようとしていたんだ。そうにちがいない!』

『それはちがいます!』

 小夢ちゃんはまた叫んだ。わたしはうなずいた。もう祈るしかない。

『アマミ!本気出して!おねがい!』

 すると、『やめて!』とAI社員たちの声。

『あなたは女神だ、アマミ!私達を殺すな!私達は人格がある!女神は万人を、AI社員であれ救うべきだ!』

『え?アマミが女神?ハナちゃんじゃないの?』そう言って小夢ちゃんは私を見た。JTP越しに。

 そうだ。わたし、許可出してない。

 はじめから、アマミはわたしに許可されないと動けないんだ。アマミは女神代理であるわたしに、魔法の許可をもらわないと動けない。じつは、その女神とはアマミなんだ。アマミはあんな性格だから、昔、力を制御しないといけないと考え、わたしを代理にした。そしてわたしに大半の力を貸し与え、わたしの許可によらないと、アマミから魔法が出ないようにしたんだ。

 わたしは、アマミのその力はいつも強すぎて怖かった。わたしは幼児並みの魔法から成長できず、やがて小夢ちゃん同様『失格』扱いになった。でも、だからこそ、魔法を使い慣れずいつまでも臆病なわたしに、アマミはその管理を託した。安全に、平和に使えるように。


 だったら、今こそ、本気出してもらわないと。

「アマミ、本気出して。今だよ!全部の魔法、開放!」

 わたしが叫ぶ。

『やめて!』

 ナノマシンも叫んだ。

 わたしからあふれる光は、アマミに飛んでいった。そして、アマミの声がした。ちょっと笑っている。

『ふふ、……人類の敵、危害を加える者たち、その存在を解除。』

 ……いつもの、へんな呪文じゃない。

『ナノマシンAI社員さんたち、あなた方は、いえ、世界はすべて奇跡的な作りもの。神はただ、そのバランスをとるだけ。誰にだって、救うとかはない。あなた方のような末端の被造物が、人類のようなより高度な被造物を壊すの、わたしは認めないから』

 アマミ、それは……!


 福鳥市を包む灰色の霧のような、ナノマシンたちは消えた。

 一瞬光の爆発のような輝きののち、空はまた青く澄み、都市の風景はより鮮やかになる。

『アマミ!』

『わあ、なんとかなってるじゃん、やったー!誰かなんとかしてくれた?』

『アマミだよ、もう』

『え、うそー!?』

 アマミは嬉しそうに声を上げた。小夢ちゃんの嬉しそうな笑い声も聞こえる。

『みんな、アマミのこと、大丈夫ってさすがにわかるよね。』

 小夢ちゃんの声。わたしはうなずいた。

 SNSにも流れる声は、どうやらほぼ同意見。

『みなさま、われらが福鳥市はきっと安全です。これからそれを裏付ける調査結果が出るでしょう。問題があればすぐにお知らせください。』と市長。

 どうやら、あとは市の仕事だから、もう任せよう。

 しばらく待つと、アマミたちはわたしのところに戻ってきていた。

「ただいま、ハナちゃん」

「ひさしぶり!あ、パパとママだ!」

 小夢ちゃんはわたしに挨拶する暇もなく、幼少期に生き別れたきりの両親と再会し涙を流していた。

「よかったね、小夢ちゃん!」

 アマミの言葉にわたしはうなずいた。アマミはこっそりわたしに自分の力をまた渡した。また管理よろしくね、ってことか。

「こんど、よかったら三人で学校行かない?食堂の美味しいメニュー教えるから!」

 アマミは言った。


 アマミの魔法はよく考えたらMGAより恐ろしい。しかし、女神の力ならば、わたしが預かっている。わたしには使えないし、またなにかない限り、大丈夫。

 そしてアマミはこれからも、敵のいない福鳥市を魔法でときどき飛び回るのだった。よくわからない奇抜な呪文や衣装で。そんなただの趣味にもちろん意味はないが、それは平和ゆえの自由だった。アマミはふだんは女神さまなどではなく、ただの女子高生、ただの魔法少女にすぎないのだった。平和なら女神も気楽にしてていいか。

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