第7話 脅迫相手

 今回の脅迫は、毒薬を限定しているわけではない。あくまでも、

「毒薬をぶちまける」

 というものであり、

「青酸カリ」

 と限定しているわけではないことを、見失わないようにしないといけない。

 そのことを、脅迫があったことで、どこまで警察が理解できていたのかが、分かりにくいところであった。

 毒物というものは、いろいろな種類がある。やはり、一番毒薬としての知名度が高いものは、

「青酸カリ」

「青酸ソーダ」

 などと言った、シアン化化合物である、青酸ではないだろうか。

 さらには、昔の探偵小説などで描かれているものとしては、

「トリカブト」

 あるいは、

「ストリキニーネ」

 などと言ったものも、毒薬としては、よく言われているものであった。

 最近の毒薬で、実しやかに叫ばれているのは、

「毒薬を毒薬として使用しない」

 というものであった。

 圧倒的な致死率があることで、持っているだけで危険と言われるものも、この世には存在する。

 たとえば、ニトログリセリンのように、毒薬というわけではないが、振動で爆発する危険のある劇薬だって存在するのだから、それを思えば、

「毒薬だって、毒殺するだけが目的ではない劇薬」

 というものがあってもいいのではないだろうか?」

 そんな劇薬を研究しているグループが、F大学の研究チームに存在する。

 元々は、

「解毒剤の研究」

 を主に行っていたグループなのだが、

「解毒剤の中からも、新たな毒薬や劇薬が発見される」

 と言ったものが、堂々巡りとして、現実のものとなってきていた。

 それを、一種の相乗効果と言えばいいのか、さらに、その毒薬が、

「毒を持って毒を制す」

 という言葉になりつつあるのが今であった。

 その過程において、伝染病を生み出すという問題も起こり、ひどい政府に当たれば、

「これで世界を征服できる」

 というような、

「悪の秘密結社」

 のような国家が、実際に存在していた。

 しかも、それが、

「超大国」

 と言われるようなところなのだから、始末に悪い。

 さらに、核兵器も持っていて、世界経済を今やリードする存在となっていれば、安心はできないであろう。

 今回の、

「世界的なパンデミック」

 も、その国が黒幕だというウワサもあったが、信憑性はなかった。

 ただ、

「疑わしきは罰せず」

 というだけで、グレーは、どこまでいっても、グレーであろう。

 それを考えると、

「パンデミックなどの、伝染病も、毒薬と関係があるかも?」

 と思えてくる。

 大日本帝国が、満州国に持っていた、関東軍所属の、

「731部隊」

 というものがあったという。

 ここは、基本的には、

「海外で活動するためには、新鮮な水の確保が大切である」

 つまりは、海外においての水というと、細菌だらけで、生水などもっての他で、伝染病にかかって、死ぬ人の方が、戦死する人よりもよほどたくさんいたというくらいの、

「本末転倒な事態に陥る」

 と言った状態であった。

 実際に、満州というと、当時は、

「満州帝国」

 が君臨していた。

 清朝最後の皇帝であった、愛新覚羅溥儀が当時の中華民国の革命軍から退位させられ、最初は、紫禁城での生活を保障されていたが、いつの間にか、紫禁城からも追われ、上海の租界地区にいたものを、関東軍の諜報部隊に、

「救出される」

 ということにて、満州に入った。

 最初は、満州国の、

「執政」

 ということで、国家元首への階段を昇り始め、翌年には、

「満州帝国皇帝」

 ということで、君臨することになった。

 しかし、あくまでも、彼は、

「傀儡」

 であり、満州帝国の総理大臣であっても、閣議で発言は基本的に禁じられていた。

 もし、関東軍に逆らえば、それこそ、

「闇に葬られる」

 といっていいだろう。

 そんな満州帝国ですら、

「大日本帝国の傀儡国家」

 の様相を呈していた。

 ただ、歴史に詳しい人は、

「大日本帝国の傀儡国家」

 という言い方をしない。

 するとすれば、

「関東軍の傀儡国家」

 というべきであろう、

 なぜなら、当時の関東軍は、日本政府、さらには、陸軍本部から独立した形で活動していたのだ。

「陸軍本部が統率できないものを、日本政府いできるわけがない」

 ということだったのだ。

「政府は、軍のやることに対して口出しできない」

 というどころか、

「軍の作戦を、知ることもできない」

 という力関係だったのだ。

 大日本帝国は、今の日本国と違って、一番大きい問題としては、

「主権が、国民ではなく、天皇にある」

 ということ、

「今は、戦争放棄の第9条があるが、昔は、陸海軍が存在した」 

 ということである。

 しかも、その軍部と、政府との関係が、微妙な関係になっていることで、天皇を中心ではあるが、歪な構造になっていたのだった。

 というのが、主権者である天皇には。

「統帥権」

 というものがあったのだ。

 つまり、

「陸海軍というのは、天皇直轄の組織であり、陸海軍のトップ、つまり統率者は、大元帥である天皇陛下だ」

 ということであった。

 これまで日本軍が存在した時代において、大元帥というのは、3人しかいない。

「明治天皇」

「大正天皇」

「昭和天皇」

 の3人ということになる。

 この3人が、それぞれに軍を掌握し、軍を動かしてきた。だから、天皇は、

「政治に対しては、あまり口出しはできないが、軍に対しては、厳しく対応することができる」

 というものである。

 その一番の例が、政府問題に関しては、

「満州某重大事件における、田中内閣総辞職問題」

 であり、軍に関しては、

「226事件」

 だといえるのではないだろうか?

「満州某重大事件」

 というのは、いわゆる、

「張作霖爆殺事件」

 と呼ばれるものであった。

 当時の中国は、国民党、共産党、北伐と三つ巴の内乱の時期だった。それぞれに列強がついて支援していたが、北伐には、日本軍が支援をしていた。

 その北伐の最高権力者が、当時、

「張作霖」

 だったというわけだ。

 張作霖というのは、そのうちに、今まで支援してくれていた関東軍に胡散臭さを感じたのか、

「反日」

 というものを、鮮明に打ち出すようになっているのだった。

 特にあからさまに、日本に対して敵対してきて、

「日本が統治する満州鉄道に併設した鉄道を建設し、あからさまに、日本をけん制してきたり、各所で、暗殺事件や誘拐事件といった、治安を乱す行為を起こすようになってきたのだ」

 そんな満州の治安を回復するという目的を持ってか、

「張作霖の暗殺」

 というものが、浮上してきた。

 そこで、関東軍の主導において、政府や、陸軍本部の許可なく、爆殺事件を引き起こしたというわけだ。

 もちろん、政府は軍の動きを把握することも、作戦に口を出すこともできないので、どうすることもできず、ただ、首相は、その事件が発生したという既成事実だけを、上奏して、天皇に報告することだけしかできないのであった。

 だから天皇は上奏してきた田中首相い対し、

「どうなっているんだ?」

 と訊ねると、

「ただいま、調査を行っておりますので、もし我が国の軍が行ったことであれば、首謀者の追及などを行ってまいりたいと思う」

 と答えたにも関わらず、数日後、さらに参内して天皇に上奏した時、

「事件の経過はどうなっている」

 と言われ、首相は、まだ把握できていないというようなことを、いかにもけむに巻くかのような表現でごまかそうとしているのに対し、苛立ちを覚えた天皇が、

「お前の言っていることはさっぱりわからん」

 といって、錨をあらわにしたのだった。

 そこで、首相は責任を感じ、近日中に、内閣を、

「総辞職」

 したのであった。

 これを知った天皇は、後悔したという。

「天皇は、政治に口を出してはいけない」

 という公然の秘密が第二歩帝国にはあり、それを曲げてしまったということでの後悔だった。

 しかし、逆に軍部のことであれば、天皇は、

「自ら指揮を執る」

 と言い出したことがあった。

 それが、

「226事件」

 であった。

「張作霖爆殺事件」からの6年後に起こった事件で、言われていることとしては、

「天皇の側近として君臨している、特権階級の連中が、甘い汁を吸っているから、貧富の差がはげしくなる」

「昭和維新」

 というスローガンで立ち上がった青年将校によるクーデターだと言われているが、実をいうと、

「陸軍内の、派閥争い」

 というのが、本当のところだった。

 天皇はそのことを分かっているようで、しかも、クーデターによって暗殺された人たちは、皆自分に助言をしてくれる大切な人たちだと天皇は思っていたのに、それを、派閥争いというくだらないことで暗殺されてしまっては、天皇とすれば、自分に対しての反乱だと思ったのだろう。

 陸軍内部でも、同情的な意見が多かった中で、天皇の立腹はかなりのもので、

「お前たちがしないのなら、自分が軍を率いて、鎮圧する」

 とまで言わせたのだ。

 それを聴いて、さすがに軍も、

「まずい」

 と思ったのか、決起軍を、

「反乱軍」

 として、鎮圧することにしたのだ。

 天皇をここまで怒らせたことで、投降してきた青年将校だったが、自決しなかったのは、

「裁判で明らかにしよう」

 と思っていたのだろうが、実際には、

「弁護人なし、非公開、当然、上告、控訴などもない、全員死刑」

 ということで、結審したのだった。

 軍隊は、天皇直轄、つまりは、

「天皇に与えられた統帥権」

 というものに含まれるのである。

 だから、大日本帝国が戦争をする時、天皇の名前で宣戦布告を行い、

「宣戦布告の詔」

 の中では、

「陸海軍は、戦争目的に対して、その遂行に邁進するべき」

 という旨の文章がついているのだ。

 ちなみに、

「宣戦布告の詔」

 というのは、対外的な意味というのではなく、自国民に対し、

「天皇が、どういう理由で戦争に踏み込み、何を目的にしているか。そして、その目的完遂に対し、国民が一致団結する」

 ということを呼びかけるものなのである。

 一度天皇が、当時の参謀総長に、

「今度の戦争はどうなっている? 米英蘭と戦争を行って勝てる見込みはあるのか?」

 と聞いた時、

「3カ月で掌握できると思います」

 と参謀総長は答えた。

「だが、中国での戦線では、苦戦しておりではないか?」

 と聞かれたが、当時は、シナ事変が佳境であり、奥地へと誘い込まれているところで、中国と戦闘状態になってから、3年が経っていた。

「中国は、奥が深いので」

 という言い訳をしたとたん、天皇は怒り、

「お前は何を言っているんだ。太平洋は中国よりもよほど広いではないか」

 といって、罵声を浴びせたという。

「3年もかかって中国を屈服させられないのに、3カ月で太平洋を掌握など、どこからそんな出まかせが出てくるというのか?」

 と言いたかったのだろう。

 さすがに参謀総長は何も言えなくなってしまったようで、これが、日本陸軍の最高位、つまり、天皇の次の会社で言えば、

「社長職」

 に相当する人の言葉なのだ。

 どうすればいいというのだろう。

「悪の秘密結社」

 が今回の犯罪を企んだのかどうか分からないが、一つの問題として、

「毒の種類」

 を示さなかったのは、一つの作戦だったようだ。

 一つの問題として、浄水場に、今回、

「新たな製品ができたので、持ち込まれた」

 という情報が回ってきたのだ。

「この情報を疑えば、信じられるものは何もない」

 というほど、信憑性のないものは何もない。

 ということであった。

 この計画のために、相手を信じ込ませようと、長年、問題なくやってきたことが、今回の事件のためだけの作戦だったということは、よほどの恨みがあったのか、それほどの厳しさであったことを、誰が分かっているのだろう。

 昔の探偵小説にて、特に戦前くらいのものには、

「俺は、この復讐に人生を賭けているんだ」

 などというセリフが出てきたりしている。

 その復讐も、

「執念」

 という言葉で彩られ、

「生まれたばかりの赤ん坊を取り換える」

 などという、信じられないことをするのだ。

 普通に考えれば、機械トリックやアリバイトリックのような、頭を使ったり、少し派手めなトリックではないために、地味ということで、そのトリックを示されても、

「これの何が面白いんだ?」

 と考えることだろう。

 しかし、実際には、その復讐を行うのが、子供の世代ということもあり、さらにそこから孫の代に至るまでの、

「子々孫々で、祟る」

 という、永遠のループに、ゾッとしたものを感じるのであった。

 特に、戦前においても、探偵小説、黎明期と呼ばれる時代においては、

「少々の辻褄が合わないことでも、時代ということで、許されるともいえただろう」

 つまり、今の時代は、トリックもほとんど、仕えないほどに、科学技術が発達してしまい、

「トリックの出尽くされている」

 ということもあり、余計に、

「ストーリーにおいて、バリエーションをいかに生かしていくか?」

 ということが、問題になるのだった。

 つまり、本来であれば、今、昔の探偵小説のような、派手さが求められたり、謙虚な姿勢が求められると思うのに、今の時代は、どこか、皆似た感じの話であったり、一つの方向しか見えていないような気がして残念なのだ。

 あくまでも自分の意見であるが、

「アニメや漫画、さらにはゲームの影響が多いのではないか?」

 と思えるのだ。

 アニメにしても、マンガにしても、小説があって、そこからの派生のように思うのは、それこそ偏見なのかも知れない。

 しかし、事実として、

「小説があって、マンガやアニメが存在している」

 という考えは、間違っているわけではないといえるだろう。

 そんなことを考えると、

「今の時代の、マンガ的な、いわゆる、3次元や、2.5次元と言われる世界は、今の時代よりも、むしろ、昔の小説の形に近いのではないか?」

 と思えるのだった。

 下手をすると、今の小説は昔からのアニメに追いつけておらず、テレビドラマなどの原作が、小説ではなく、マンガだったりするのは、そういうことなのかも知れないと思えたのだ。

 単純に、マンガのように、画像で表現できるものを、文章で想像させようとしても、読む側の人間が、本能である想像力についていけないのではないかと考えると、

「事実は小説よりも奇なり」

 などという発想は、生まれてこないのかも知れない。

 一歩間違えると、何が事実で、何が現実なのか? さらには、真実すら何なのか分からなくなってしまうということになるだろう。

 昔のマンガで毒ガスや、毒薬というと、

「大量殺りく兵器」

 と言われ、条約でも、

「禁止兵器」

 になってきている。

 実際に戦場で使われたりすれば、無味無臭なので、気付かずにいると、毒薬を吸ってしまい、全身が痺れてきたりするものであった。

 風向きを間違えると、撒いた方が被害を受け、全滅してしまうというような悲惨なこともあっただろう。

 さらには、当初は、防備用に作られた、

「ガスマスク」

 というものも、つけ方が分からずに、実際のガスを吸引して死んだ人間よりも被害が大きかったりしたものだ。

 しかも、死ななかったとしても、第一次世界大戦などは、毒ガスの後遺症がひどくて、顔が変形したりした人もいたようだ。

 特に第一次大戦などでは、塹壕戦だったこともあって、最悪の自然環境の中、ずっと、そこから動けないで、病気が蔓延して死ぬことになったり、身体が塹壕で潜んでいる時に、動かなくなったりして、その後遺症で、歩けなくなったりする人など、ざらにいたという。

 戦争というものは、攻撃を受ければ、必ず後遺症が残り、いわゆる、

「二次災害の方がひどい」

 という場合もあるだろう。

 その最たる例が、

「核兵器」

 である。

「死の灰」

 というものを浴びると、その後遺症で、内臓が破壊されたり、がんや白血病などを患って、二次災害として、バタバタと人が死んでいくというものであった。

 しかも、実際に被爆していなくても、原爆症に掛かった人からであったり、現場に残った放射能によって、その影響から、逃れることのできないものである。

 そうやって考えると、

「戦争は何も生み出さない」

 というのは、当たり前のことであり、逆に、戦争によってもたらせれた災害は、戦争に参加した人を、

「死ぬまで苦しめる」

 という意味で、

「本当に悲惨なものであり、一体、何のために命を掛けなければいけないのか?」

 ということになるだろう。

 今の日本などでは、戦争や、徴兵などということになると、誰も行くわけがない。

「どうせ、政治家は、俺たちを盾にして、自分たちは助かろうとしているだけだろうな」

 ということであった。

「特に、今の政治家は、自分のことしか考えない」

 と言えるだろう。

 いや、これは政治家に限ったことではない。自治体、自分が勤務している会社組織、果たして、それらが社員や国民の命を助けてくれるだろうか?

 自分たちは、国民を弾除けにして、シェルターのようなところで、国民に、

「死んで来い」

 と命令すればいいだけだ。

 今の国民は、さすがにバカでも、

「戦争にいって、死んで来い」

 と言われて、

「はい、分かりました。立派に国のために死んでまいります」

 という人は一人としていないだろう。

「天皇猊下万歳」

 というような、崇める人間がいるわけではない。どこかの国の首席であったり、また、どこかの国の、

「将軍様」

 であれば、それくらいの権力は持っていることだろう。

 逆にそれだけの権力やカリスマ性を誰かが持っていなければ、戦争などできるわけもない。

「天皇陛下万歳」

 などといって死ぬ文化ではあったが、その分、

「国や家族、国家を守る」

 という覚悟で死んでいくのだ。

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