ママの置き手紙
鈴イレ
ep1:心の中にあるもの
——もし50歳以上の人がいなくなったらどうなるだろうか。
そんな偏った理想を考えたことはあるだろうか。日々上がっていく社会保障費。少子高齢化。働き手の不足。滞る社会。そんな社会を根本的に壊してみたい……。幼稚なのは重々承知の上でだ。
この事件を犯人はエラン・ヴィタールと名付けた。
色々なことが失われた世界。ここではとある少女の話をしてみよう。
title:ママの置き手紙
ep1:心の中にあるもの
〈day1 /11:40 / 佐世保南東中学校・保健室〉
味来:「失礼します……」
そう保健室の戸を開けたのは私・
朝橋先生:「今日もお腹かい?」
そう独特な訛りはあるがおおらかな声で私を心配しているのは朝橋先生。30歳位のお姉さん先生は私の姿を見るや否や、奥の作業エリアに入ってしまった。
朝橋先生:「そこんとこの椅子でちょっとお待ち」
朝橋先生は奥の準備室に入る前にどこか捨て台詞みたいに顔をして行ってしまった。入り口から数歩すると白い机と4脚の椅子。その一つの場所にいつから準備していたか分からないが「保健室来室記録♪」というプリントと三色ボールペンが置いてあった。クラス名前、主症状、保健室でどうしたい、といったものがプリントされた紙。それ従順に書き進めていく。
朝橋先生:「はい、湯たんぽ作ったけー、これ使いんさ」
横から朝橋先生がのぞきに来た。「あ、ありがとうございます」とかすれた声で答える。私は湯たんぽを未だ痛みが走る腹部に押し合ててみる。
こうやってお腹を温めると少し痛みが和らぐ気がする。だからここに来てはきまって湯たんぽを作ってもらうことにしていただいたのだ。
朝橋先生:「いつも通りのアレ?」
その問いに「はい、アレです」と答えた。そう言葉を濁すのはあまりこの持病――
朝橋先生:「いつから症状出てた?」
味来:「今朝からずっとでした……」
すると朝橋先生は「よく来たねぇ」と少し驚いた様子だった。だが私にとってこれが当たり前だ。
色々な人から「この腹痛とは上手くやっていくしかない。それしかやりようがない」と言われた。薬はあっても症状を和らげるだけ。完治する薬や行動は未だ解明されていないという。
だから私は少し辛くても学校に行く。ただそれだけ。難しかったら少し休んでいれば良い。
そうみんなから言われたからそうしているだけ。
朝橋先生:「どうする? 帰るなら親御さんに連絡するけど……」
味来:「いえ、少し休めばどうにかなるので……」
そう私はお腹を押さえながら答えた。それに「分かった、少し温めようね」とストーブをつけてくれる朝橋先生。
でも……。
――またいつもの光景だ……。
ストーブの上には白い息を吐くヤカン。3台あるベットの一つは決まって一番右だけしまっており、ときどきいびきをかいている。朝橋先生は入り口入って左手にある机でパソコンをカタカタ操作して、私は座っているだけ。
静寂の中、また私は向こう側の窓を眺める。グラウンドでサッカーをする中2の男子。顔まで見えない少年たちの声が時々聞こえる。
――なんで私は体が弱いのだろうか……。
そう私はまた隠れてため息をつく。
みんな受験に向かって頑張っているのに、それに対して私はなんて堕落しているんだろうか。自分の体もコントロールできない、自立できない自分に嫌気が差すのだ。
それでもいつもと少し違うところをあげるなら、私の頭の中だろうか。親友の稲葉や歩佳にも言葉に出せないような、そんな悩みが私の頭を支配していることだろうか。
朝橋先生:「最近調子どーや?」
そう向こうからのパソコンの手を止めて朝橋先生が話しかけてくれた。それに首を傾げて、「少し酷いかもしれませんね」と口にした。でも、お腹の調子なんていつもこんな感じだ。だから、一般常識からみると相対的に酷いというだけのはずだ。
朝橋先生:「なにか、悩みとかあったら話してねー」
そう朝橋先生は口にした。この人は一見適当にも見えるけど本当は優しい人。だからこのことをうち明けたら良いかもしれない。それで何になるかは分からないし、何か解決できる問題ではないとわかっているけど……。
私は意を決して朝橋先生に「少し、悩み、話しても良いですか……?」と声をかけた。すると朝橋先生は手を止めて、一度使用中のベットを覗いてから私の机に向こう側に座った。
朝橋先生:「今、
そう朝橋先生が親指を立てるとベットの方からも親指のGoサイン。それに苦笑いしながら私は口を開いた。
◇ ◇ ◇
ep1:心の中にあるもの(Fin.)
next ep2:味来の悩み
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