第27話 ちょっと意地悪な気持ち

「ちょっと手伝えない?」

 朝ごはんを食べ終えたノエルがガチャガチャと食器の音をたてながら洗って話しかける先には、流し台の縁に座り、下ろした足をユラユラと揺らして本を読むアオイがいた

「体を戻してくれないのなら、たぶん無理だと思います」

「そう、なら大丈夫……」

 元に戻れると期待していたアオイの頬がムッと膨らむ。それを横目に食器を洗い流していると、アオイが濡れないように大事そうに持っている本を見た

「そういえば、その本を持った時……」

 そうノエルが聞いた時、アオイがユラユラと揺らしていた足を止めた

「本から、お二人の感情が少し見えたんです。とても切なくて苦しくて、私には耐えられないようなそんな気持ちが……」

「その本、私が読んでいた時は、ただの日記だったけど」

「日記ですか?」

「そう、今日のご飯は好きなものじゃなかったとか、雨が降ったとか、そんな感じ」

「えっ、でも……」

「本を読もうとした人に合わせて内容を変えているのかも。アオイならそうするな。きっと」

 全部洗い終え、ふぅ。一息つきながら言うと、アオイが抱きしめていた本の表紙を見つめた

「そんなことが……。すごいけれど、ちょっと意地悪な気がします」

「意地悪だよ。アオイは」

 食後の紅茶を淹れながら、アオイの言葉に答えるように呟くノエル。その声が聞き取れなかったアオイが首をかしげた

「それじゃあ、昨日、たくさん持っていかれた本は……」

 アオイが聞くと、紅茶が淹れたティーポットと二人分のティーカップとお菓子がノエルの周りでふわりと浮び、カップはカチャカチャと音を鳴らし、ポットは紅茶をこぼしそうになりながらリビングの方へと向かっていく。少し遅れたたくさんのお菓子が後を追いかけていくのを見た後、ノエルがアオイに右手を伸ばした

「今頃、あの本でアオイの残しただろう魔術で、どんな意地悪をしているのか分からないけれど、面倒なことは起こしていそうだね。たぶん」

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