第19話 大暴投乱闘待ったなし。
窓からきっつい日差しが射し込んできている。もうすっかり昼間のようだ。
それに目を刺されるような気分で、俺はようやく起き上がった。
結局昨夜は事後処理だのなんだのでわたわたして、正気を取り戻した辺境伯に説明をする神官どもの手綱を握って(放っておくと五倍ぐらいに誇張された話が延々と続きそうだった)、日が昇ってからようやく眠りに就いたのだ。
「くぁあ……ねむ……」
久々に文明の中で朝寝坊すると二度寝に対する欲求が高まるな。めっちゃ二度寝したい。していいかな。いいよー!(裏声)よししよう!
ともう一度ベッドに転がった瞬間、ノックの音。
「……はぁーい」
しぶしぶ応答して扉を開ける。
「起きてたか」
「なんだ、ハンクスか……」
「悪かったな俺で」
ハンクスはいつも以上に不機嫌そうなしかめっ面をしていた。やっぱ精神攻撃ってキツいのかな……洗脳って後遺症がありそうだもんな。偏見だけど。
「通行証は貰った。すぐにでも出発できるが、どうする?」
「了解。ちょっと待って、準備する」
つっても、使ってたベッドをちょっと整えて、そう多くもない荷物を纏めるだけなんだけど。
「……セイリュウ」
「ん?」
振り返ると、ハンクスは扉に寄りかかって腕を組み、やや目を伏せていた。そのまま写真に収めたらジャケ写になりそうな感じだ。
「その……昨日は、」
「「あっ、ハンクス様だ~!」」
何か言いかけたのを、底抜けに明るい(そしてムカつく)声が遮った。
まったく同じ三つの顔がひょっこりと現れる。
「おはようございます、ヒジリオ様、ハンクス様」
「昨晩はお疲れさまでした」
「操られてたハンクス様はそんなにお疲れでないと思いますが」
さらりと言われたドギツイ一言。ハンクスは顔を歪めてそっぽを向いた。
容赦、手加減、デリカシー、気遣い――そういったたぐいのものを全部捨て去っているらしい神官どもがハンクスの足元に群がる。
「いやぁ見事に洗脳されてましたねぇ」
「魅了耐性ゼロなのは知っていましたが、まさかあそこまでとは」
「辺境にはあの手のモンスターって出ないんでしたっけ?」
「脳筋もたいがいにしとかないと、苦労しますよ? 昨日みたいに」
「なんなら、普通のハニトラにもあっさり引っ掛かりそうですよねぇ」
「あー、言えてるー」
「ちょ、お前ら、言い過ぎでは……?」
「「だって事実ですもん」」
神官どもは平然とふんぞり返った。
ハンクスは苦々しい顔で、黙って神官どもを睨んでいる。何も言い返さないし、手も足も出さないことから、昨日のことをかなり反省、というか気に病んでいるらしい。
「あっ、そうだハンクス様」
神官の一人が両手を叩いた。『名案だ!』という顔をしているが、間違いなくそれは“迷案”だろう。聞くまでもない。
「ヒジリオ様に【加護】をいただいたらどうですか?」
「はぁっ?!」
昨夜判明したアクティブスキルの一つ――【聖なる加護】
おそらくビールで悪龍を倒せたのも、口を付けて飲んだためにビールが聖水になっていたからだろう……という推測を立てたのが寝る直前だ。
ハンクスはそのことを知らない!
彼は眉をひそめて「加護……?」と呟いた――ヤバい気がする!
「いいですねぇソレ!」
「加護を受ければたいていの魅了は弾けるのでは?」
「呪いのたぐいも無効化できると思います!」
「ちょちょちょ、待て待て待て馬鹿ども! お前らさ――」
慌てて止めに入った俺の肩を、ハンクスが掴んだ。めちゃくちゃ必死な顔がぐっと近づいてきて、俺は思わず後退ってしまう。
「そんなことが出来るのか?」
「いや、あの……」
「出来るんだったらやってくれ、ぜひ!」
「待った待った待った、先にやり方を聞いてくれ!」
「どんなやり方だろうと甘んじて受け入れるぞ!」
「今そう言うセリフいらん!」
見ろよ神官どもを。腹抱えてサイレント・大爆笑してるぜ! そりゃ爆笑ものでしょうよお前らから見たらなぁ!
「落ち着いて、よぉく聞いてくれ、ハンクス」
「なんだ」
「あのな――」
非常に言いにくかったが仕方がない。素直に、加護を与える方法はキスだ、と伝えると、ハンクスは黙って俺を放して神官どもに蹴りを入れた。
「きゃああああ暴力ハンターイ!」
「ハンクス様のヘンターイ!」
「甘んじて受け入れるんじゃなかったんですかぁ~?!」
「「いたたたたたたごめんなさいっ!! 女性経験皆無のハンクス様っ!!」」
「死にたいのか貴様ら! ……皆無ではないしっ!」
蹴られながら煽ってくスタイルの神官どもは本当に馬鹿なんじゃないかと思う。もっとやったれハンクスーと心の底から応援しながら、俺は出発の準備を整えていった。
――……加護の件、うやむやになって良かった! 戦力的にはした方がいいって分かってるけどな!
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