第4話 夢のようで夢じゃない。

 驚くほど自然に目が覚めた。アラームに急かされないって幸せだな。布団は暖かくて気持ちいいし。ベッドの上でごーろごろ。あー、本当に気持ちいいな……このまま二度寝しようかな……。


 ――って待て、ここどこだ?


 急速に頭が冷えた。

 俺の部屋じゃない。しけたワンルームマンションじゃない! P24もSmitchもなければ出し忘れたゴミ袋もない。二回りくらい広くて、綺麗な、白一色の部屋。ベッドはふかふかふわふわで天蓋が付いている。どこからともなく花のような匂いがして、ものすごく落ち着く。

 窓に近付いてみると、そこから庭が見えた。めちゃくちゃ広い。なんちゃら宮殿とかそういう感じの庭。


「……え、なにこれ夢?」


 言いながら、それが誤魔化しに過ぎないと少しずつ気付き始めていた。夢と呼ぶにはあまりにリアルすぎる。昨日のこと――昨日? かどうかは知らんけど――もよく覚えている。謎のドラゴン、謎の騎士、そして――


 ガチャッ


「っ!?」

「なんだ、起きていたのか」


 入ってきたのはハンクス――様? だった。


「悪い。驚かせたな」

「いや、別に……」


 軍服みたいなかっちりとした服だが、甲冑は着ていなかった。そりゃそうか。毎日着るもんじゃないよな。しっかし、本当に鮮やかな金髪……目がチカチカする。

 彼は持っていた服を乱暴にベッドの上に放り投げた。


「靴はそこだ。着替えたら出てこい。飯の用意ができてる」


 それだけ言って、彼は出ていった。

 残されたのは、白を基調としたいかにも“聖女”っぽい服一式。


「……いやいや、まさかな」


 俺は恐る恐るそれを広げてみた。

 真新しい柔らかな下着類。真っ白なワイシャツ。白い手袋。フード付きの長いローブに――


 ――ズボン!


 良かったスカートじゃなかったぁっ! いよっしゃあっ!

 ……なんでこんなことに怯えなきゃならないんだろう!!(答え:あの神官どもならやりそうだから)


 ☆


 言われた通りに着替えて出ていくと、ハンクス――様、は廊下に立っていて、俺を見てちょっと意外そうに眉を上げた。


「スカートじゃなかったのか」

「やっぱそう思う!?」

「アイツらにもかろうじて良識があったんだな……良かったな」

「本当それ。マジで良かった……」


 こっちだ、と先導してくれるのに従って、赤い絨毯の廊下を進む。


「なぁあの……ハンクス、様?」

「敬称はいらない。身分的にはそっちが上だ」

「へぇ……」

「で、なんだ?」

「あー、えっと……俺ってこれからどうなんの?」

「とりあえず王都に行くことになる。国王陛下に謁見して、それから正式に魔王討伐の遠征軍に参加してもらう」

「……ほー」


 RPGすぎてわけわからんなぁ。なんともふわふわしている。

 ハンクスがちらりとこちらを見た。


「緊張感がないな」

「そりゃまぁ、突然こんなところに拉致られて、聖女だかヒジリオだかなんだかって言われて、魔王討伐? ファンタジーにもほどがある。夢でも見てる気分だよ」

「あんたにとっては夢でも俺たちにとっては死活問題だ」

「――」

「頼むぞ、ヒジリオ様」


 もしかしてヤベーことを頼まれてんのかもしれない。と俺は唾を飲み込んだ。

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