TS魔法少女の俺は異世界でメイドお姉さんと愛を探すことになった
山本レイチェル
魔法少女の現場
「姫、震えてるね。怖くないよ。ふふっ。まるで小型犬の子犬のようだ」
王子の艶やかな金髪が少し乱れて、切れ長の目尻に掛かる。
いや、それでもちょっと無理かもしれない。イケメンっちゃイケメンだけど、くどい。小型犬か子犬。どっちかでいいんじゃねぇか? ……なんて突っ込む余裕もないくらいに気色悪い。にやけてんじゃねぇよ。
「無口で震える、そんな姫の、震える姿すら愛しいよ」
そこまで震えてねぇよ。
「小さな子犬みたいだ」
さっきも聞いたよ。このアホ……じゃなくて、アホっぽい発言の主。通称、王子は俺の顎に手を添えると、軽く引き寄せた。
ウワー、きっしょい。無理。確かにかくかくしかじかでアレがなくなって、俺の体は女の子になったけど、メンタルは男のままなんだよ。やっぱ男無理だ。あと、こいつなんだか嫌いだし。
「愛してるよ、僕の小さな震える小型犬ちゃん姫」
語呂も悪いな。何とかうまいこと言おうとしているけど裏目にしかなってねぇよ。王子が頑張っているのはわかる。わかるけど、俺にはわかっちゃいけないものまでわかってしまう。
コイツは俺のことを愛していない。
「王子。私のことを愛しいと思っているのなら、一つお願いがあります」
キショすぎて、ちょっと涙目になっちゃったじゃねぇか。まあいい、それを利用して、うるうるの瞳を伏せてしおらしく話す。
「何だい? ええと、叶えられるかどうかわからないけど、とりあえず言うだけでも言いなさい。叶えられるかどうか、考えるから」
「ありがとうございます。見ての通り私、緊張のあまり体の震えが止まらないのです。一度だけ、故郷から連れてきた愛犬と会わせていただけませんか? そうすれば落ち着きを取り戻せそうなのです」
そうなのです。のところで目と目を合わせ、両手で王子の手を包み込む。王子の頬が薔薇色に染まった。
「いいだろう。特別だ。特別に姫の願いなので、この寝室に姫の犬を入れることを許そう。特別なスペシャル対応だ」
「特別なスペシャル対応、感謝します」
ベッドから降りて寝室のドアを開ける。廊下で待っていた私の犬は、ゆっくりと立ち上がり鼻を鳴らす。
「ほぉお……で、でっかい、ビッグわんちゃんだねっ!!!!」
俺が連れてきた犬を見て、王子はさらに血色をよくし、胸から無数のハートのふわふわを吹き出した。
メイドの調査通り、王子は俺じゃなく、犬に興奮している。性的に。その証拠に部屋中に飛び回るハートの一つ一つに、犬の顔がふんわりと浮かんでいる。
俺には愛が目に見える。飛び回るハートを一つ掴んで食む。
いけるぞ。変身!!!!
俺は、愛の力で変身する魔法少女ミカゲ。
今夜は愛のない結婚を、魔法や腕力でぶっ潰しにやってきた。
異世界に魔法少女としてやってきたからには、色々とやってみたいし、好き放題した暁には……家に帰る!!
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