第19話

 ソウはおばさんの腕を掴んで、近くの木に向かって蔦を伸ばした。

 グン! と二人は頭上にある木の枝まで飛んだ。

「まあ」

 おばさんは驚きの声を上げる。

車は先ほどまで二人がいた所を通り過ぎていった。

 あっという間に車は見えなくなった。

 しゅるしゅると二人は木から降りた。

「あなた」

 とおばさんが呟くと、

「お花……」とソウが言った。

 花壇の花はぐしゃぐしゃになっていた。

 おばさんは花の近くに跪く。

 見るも無惨な花を手にのせた。

 大きな息をついて、ソウを見る。

「あなたに怪我が無くて良かったわ。ありがとう」

 おばさんは目に涙をためながら微笑んでいた。

「さっきの何?」

「たまに来るのよ、よく知らないけどほんと嫌になっちゃう」

「ふーん、お花貸してみて」

 ソウはおばさんの手の中の花を手に取り、土の上にのせた。ソウがしばらく地面に手をのせていると、キラキラと花が輝きだし、花達はみるみると元の姿に戻っていった。

「これは……奇跡?」おばさんは驚いた顔を見せる。

「そうかもね」ソウはすました顔をしているだけだった。

「あなたは天使か何か?」

 ソウはあはははと笑って、

「バイバイ」

 とその場から去って行った。


「いた」

 先ほどの車が道ばたに止まっていた。開いた窓から、うるさく音楽が聞こえてきていた。

 ソウは手に持っていたタンポポをふーっと吹いた。

 綿毛がふわふわと飛び、開いていた窓に吸い込まれるように入っていった。

 ソウはすまし顔でその場から離れた。

 すると、

 ボン!

 車内は様々な花で一杯になった。ボンネットも花に押されて全開になり、窓から、はらりひらりと花びらが舞っていた。

「なんだこりゃあああ!」

 運転席にいた人物は花の香りに包まれている。 

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