第5話

 森はしばらく静かになった。

 先ほどまで聞こえていた森のささやきや、自然の音も、完全に途絶えた。

 前にそびえ立つ巨大な樹木が男の方に向かって倒れてきた。

「なんと!」

 男はひょいと身軽に飛び、木を避けた。

 倒れてきた木は一本ではない、

 次々と男めがけて倒れてくる。

「ホイ! ホイ! ホイ!」

 迫りくる倒木を蹴って宙に上がる。

「ふう。出ていけということかいな」

 男は倒れて重なった樹の上に立って、遠くを見ていた。

 ぴょーん! ぴょーん!

「ホイ、ホイっと!」

 男はピョンピョンと降りていき地面に着地した。

「さて進むかの」

 男は倒木の葉っぱを一葉つみ取り、くるくると回しながら観察する。

 また本にしまい込んだ。

 しばらく歩いているとまた、

 森が鳴った。

 立ち去りなさい

 元来た道を戻りなさい

 招かれざる客よ

 森はあなたを歓迎しない

 ここはあなたの来るベき所ではない

 立ち去りなさい

 立ち去りなさい

 とんがり帽子の男は頬を掻いた。

「申し訳ないがのう、森の主に会わせてもらえないだろうか。会って話がしたいんじゃああ!」

 男は森の奧に向かって大きな声で言った。

 しんと静まりかえる森。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 と何か響く音が遠くから聞こえてくる。

「なんじゃろうか」

 近くを流れていた川の流れが激しくなっていた。

 とんがり帽子の男はそれをじっと見ていた。

 目が見開かれる。

「水が攻めてきよる!」

 男は走りだした。

 木を駆けあがる。

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