神様のくれた三日間

めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定

第1話 津軽海峡・冬景色

 退屈な日常に退屈していた。

 いつも面白いことを探している。

 刺激に飢えている。

 私は人間が嫌いで、たぶん人間が好きだ。

 全て壊れてしまえばいいのに、といつも願っている。


 惰性を伴う無気力な感情だが、同時に破滅願望さえともなう暴力的な衝動でもある。

 理性的に分析すると、僕という空っぽな人間の中身をなにかで埋めたいだけなのだろう。

 守るべき大切なものを持たない。

 どうしようもなく空っぽ。

 だから全てを失ってもかまわないだけ。

 こんな感情を持て余しているとろくなことがない。

 だから僕はとにかく歩くことにしている。


 深夜ならば街を徘徊に出かけるのだが、残念ながら今は授業が終わって放課後になったばかり。

 廃墟マニアとしては人通りがあるだけで心が落ち着かない。

 たから校内を歩く。

 誰もいない夕暮れの校舎というのは、思いの外ノスタルジーなものだ。

 部活動の声さえも寂寥感を倍増させてくれる。


 お気に入りは部活棟の四階。

 部活でもあまり使われない予備の特別教室が集中しているエリアだ。

 誰もいない孤独を満喫するには最適だ。

 それなのに今日は先客がいた。


 第二音楽室から歌声が聞こえてきたのだ。

 黒いカーテンに閉ざされた部屋。

 鍵のかかったままドア。

 破壊された窓ガラス。

 僕だってしたことのない強引な侵入方法に感動さえ覚えていると、音楽室の合唱ステージ上に彼女はいた。


 結城千景。

 まさかのクラスメートの登場だ。

 クラスの中心的存在ではないが、美人だしハキハキして愛想はいい。

 注目されやすいタイプだろう。

 少なくとも廊下沿いの窓ガラスを割って、特別教室に侵入するとは思えない。


 だが状況証拠的に自らの意思でそうした犯行に及んだことは疑いようがない。

 なんのためにそんなことをしたのか。

 それが問題だ。

 僕と同じような破滅願望持ちでついやっちゃったのであれば、仲間意識が芽生えただろう。

 僕に芽生えたのは恋心だった。

 一目惚れだ。


 第二音楽室を覗き込むと結城千景は歌っていた。

 魂の熱唱をしていた。

 津軽海峡・冬景色を。

 振りつけつきで熱唱していたのだ。


 結城千景ワンマンショーだった。

 観客席には誰もいない。

 観客席の外に僕がいるだけ。

 状況が理解できず僕はとにかく見入って聞き入った。


 四曲ぐらい聞き続けた。

 あの鐘を鳴らすのはあなたの声量に感動していると、結城千景も疲れたらしい。

 リサイタルを終わる準備をしている。

 僕は気づかれないようにそそくさと立ち去った。

 胸の中に確かなときめきを覚えて。


 この日、僕はクラスメートの結城千景に恋をした。

 破滅的な恋をした。

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