第12話 命の剣はどこいった?


 ―――――ある場所。そろそろ夜に入ろうとしている時。


「無い!!!!無い!!!どうしよぉ!」


 半泣きでキャラ崩壊している女が一人。


「無いって言ったって無いもんは無い!」


 もっともらしいことを言う男が一人。


「そんなこと言うな!あれは命と同じくらい大事な物なんだ!あれがないと私は……」


 クロエルは膝をかかえてうずくまる。その光景を見たレガンはそばに寄って肩を叩く。


「……正直こんな世界で無くしてしまったらもう見つからない。残念だが諦めろ」


 とどめを刺した。この男、半泣きだがまだ希望を捨てていない女にとどめを刺した。


「あ、あ、あぁぁ」


 クロエルは失神した。口から魂が抜けている。


「………しゃーねーな」


 レガンは頭をガシガシかき、失神した女を置いて、剣の捜索に向かおうとした。――――だがその時、レガンのある記憶が掘り起こされた。


「あった。剣」


 レガンは何かを思い出したように呟く。―――そしてそれを聞いた瞬間、クロエルは抜けた魂を吸い込み、レガンの両頬を手で挟み込んで問い詰める。


「どこだ?! どこで見た?!」


「 あしょこだお。なんかかへんをかふったおんは」


 レガンはまともに喋れなかったが、クロエルの耳にはこの時だけ翻訳機能がついていた。


「……あいつか、……あいつには同情する余地はあったが、私の剣を奪ったとなると話が変わる」


 クロエルは殺人鬼の目をしていて、レガンは何も喋られなくなった。そして、クロエルの首根っこを鷲掴みにし、猛ダッシュで仮面の少女の探索を始めた。




 森を駆ける。いや壊す音が響く。


「おい!!!仮面の女!!!そこにいるなら出てこい!!!様もなくばここら一帯を更地にして、お前を☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓☓!!」


 人間が使う言葉とは思えない。それほど彼女は怒り狂っていたのだ。


「待てってお前。もう夜だ。さすがに今は何も見つかんねーって」


 鷲掴みされた男はクロエルに現実を諭すが、彼女は聞く耳を持たない。先程までは翻訳機能すらついていたのに。


「見つからないのでは無く、―――――み・つ・け・る」


 目が狂気、いや凶器だ。さすがに、今何かをクロエルに言い返すとこのまま首をもがれてしまいそうだ。


「………はい。見つけます」


 ここは、従おう。俺だって長生きはしたい。


「ならせめて、二手に別れないか? 二人で同じとこを探しても効率が悪いだろ?」


 レガンは怯える子羊のように提案する。そして、その意見を聞いた狂神はようやくまともに会話した。


「……まぁ、それはそうだな」


 やっと落ち着いた。今なら俺の意見も通るはず!


「だろ? それにこんな暗くて見えなかったら見つかるもんも見つからないって。ここで集中力を犠牲にして朝まで探しまくって手がかりを見落とすより、ここは寝て、明日からまた探そう。どうせ、俺達は聖域巡りとかもするんだし。な?」


 レガンにとって過去最長の言葉だった。納得してもらえるように言えることをすべて盛り込んだ。


「………分かった。なら、今から三時間ほど休んで……」


「はえぇって」


 レガンはクロエルにツッコミを入れるが、クロエルは恐らくガチだろう。だが、レガンはこれ以上余計なことを言わず、そそくさと森の中で木に寄りかかり、静かに寝た。



 ―――――数時間後。


「おい!おい!早く起きろ!」


 誰かが俺の体を揺らしている。まだまだ寝たり無いのになんなんだ。


「……んーもーはやいって…、どうせここまで来たら朝まで寝ようぜ」


「違う!そうじゃない!」


 そうじゃないってなんだよ。眠いもんは眠いんだよ。お前はよくもまぁ短い睡眠でそこまで起きていられるな。


「おい!おい!殺されるぞ!」


 いやいや、殺されるとかそんな嘘までついて俺を起こしたいのか? まったく、最近の奴は嘘のセンスがない。―――――だが、さっきからこの女に肩を揺らされまくってもう眠気なんて飛んでいった。


「……なんだよ。まだ早いだろ」


 レガンは若干キレ気味な表情と声で話す。視界もぼやけているし、何があるか分からないが、睡眠を邪魔されたということは分かる。――――しかし、数秒後には感情が変わっていた。


「――――敵の前で寝るなんて随分と余裕ね」


 どこかで聞いた無機質な声が聞こえる。


「お前こそ、寝込みを襲うなんて物騒じゃないか。というか、やはり生きていたか。」


 バチバチの争いが勃発していた。


「では、さっそくその剣を返してもらおうか」


「いえ、私は別に剣を返しに来たわけではなく、ただ監視をしていただけなので。それに、今は特に殺す予定はありません」


 クロエルの問い。いや、命令に近い言葉に対して仮面の少女はずれた回答をする。


「――――ふぅん。でも、このまま黙って見逃すわけないじゃない」


 なんだか凄くギスギスしている。ぶっちゃけ空気が気まずすぎて、もう一回眠りたい。


「まぁまぁ、お二人さんたち。ここは落ち着いて話し合いを……」


 レガンはこの空間をなだめようとするが、それは逆効果だった。


「……できる訳ないでしょ。あの剣は命なのよ。それに、あの子を救ってあげたい」

 

 クロエルは腕を組み、仁王立ちした状態で呟く。

 クロエルはどうやらこの少女を完全に敵とは思っていない? っぽいのかな? わからん。


「――――どういう意味だ?」


「いいから今は黙って私の作戦を聞いて。いい? 私が正面からあいつに突っ込むから、お前が隙をついて、剣を取り返す。もしくは殺る。オーケー?」


「聞こえてるわよ。っといっても、例え聞こえてなくてもその程度の作戦なんて私には通じないわ」


 風が吹く。木々が揺れる音。闇い夜に佇むそれぞれの闘士。その空間はレガンを圧倒した。そして、一枚の葉が仮面の少女の右目の視界を遮った瞬間――――。


「―――では、ゴー!」


 クロエルの合図と共に二人は仮面に突っ込む。

 でも俺、どうすればいいんだ? 恐らく俺はこの二人とは格が違う。下の方の意味で。もしかすると、戦況を目で追うことすら難しいかもしれない。


―――――カァン!

―――――キン!


 金属音が鳴り響く。2つの剣が、まるで踊っているように目まぐるしく舞っている。

 ―――――ちょっと待て。剣が二つ? 仮面の方はクロエルの剣だが、クロエルが持っている剣は………。


「くそ!この剣、刃がボロボロではないか!使えない!」


 俺の剣じゃねぇか!!!


「おい!お前!返せよ俺の剣!」


「黙れ!今はそんなことを言っている場合では無かろう」


 そうだ、あの剣。 確か一度バラスの短剣とぶつけた時、少し、刃先とかが欠けたんだった。そして、すぐ腰に戻したんだが……。


「お前、いつの間にとったんだよ」


「いいから黙ってお前も戦いに参加しろ!さもないと、私がお前をぶち殺す」


 クロエルは仮面と剣を交えながら、レガンにも殺気を向ける。その殺気立った目に、レガンは従うしかなかった。

 ――――――殺されるのか。なら仕方ない。俺の本気見せてやるよ。

 レガンは両手を広げ、まるでこの世の全てを受け止める体勢になった。



――――――アサ・ ルト・カリバー

 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る