カラーコンタクトを嫌がる君は、カラーコンタクトをつけた私を褒める

花火仁子

カラーコンタクトを嫌がる君は、カラーコンタクトをつけた私を褒める

「そういえばね、咲田君、私のこと可愛い可愛いって言ってくれるんだけどさ、カラコンつけてる女無理って言ってたんだよね。私、バッチリカラコンなのにさ」


 親友の萌と、いつものカフェでいつものように咲田君の話をする。


「え?どういうこと?咲田君、莉奈がカラコンつけてることに気付いてないってこと?」


 萌は大きな目をパチパチさせながら、疑問を口にした。


「そ。そういうこと」


「バッチリグレーのカラコン。誰がみてもカラコンなのに」


 私も萌も呆れた声で会話を続ける。


「結局さ、可愛けりゃなんでもいいってことでしょ。私のなにを見てるんだか」


「そんな男やめときな。付き合おうの一言もないんでしょ?」


「まぁ、そうだけど。好きなんだもん。今度会う時私から切り出してみようかな」


「もう。莉奈の好きにすればいいよ。私バイトだからそろそろ行くね」


 萌は椅子に掛けていたコートを着て、黒のリュックサックを片方だけ肩に掛け、後ろ向きで手を振りながらカフェを出ていった。




 机の上に置いたスマートフォンが小さく揺れる。


【今度の日曜日、会えない?】


 私と萌の会話を聞いていたかのようなタイミングで、咲田君からメッセージが届く。


【会えるよ】


 私は素早くメッセージを返した。




 今日は、咲田君と会う日。

 私はあやふやな関係に終止符を打とうと決めていた。


 二十時に大画面前でおちあう約束。

 私はいつも通り約束の時間の十分前に着いた。


 いつも通り時間ちょうどに、咲田君は来た。

 咲田君はいつも私と目が合うと、駆け足でやってきて私の手をぎゅっと握る。


 でも今日は違った。


 私と目が合うなり、困ったような、不満があるみたいな顔をして、ゆっくり私の前まで来る。


「莉菜ちゃんさ、今日なんか可愛くないね」


 咲田君の第一声に少し驚いたけれど、そう言われて当たり前だという気持ちになる。


 冬の冷たい空気をスーッと吸い込み、言葉を返す。


「あのね、私、カラコンつけてたの。カラコンつけてる女無理って言ってたから、今日はつけないできたの」


「そう」


 次の言葉の準備を与えないかのように、咲田君は短い返事をした。


「今日はちゃんと言いたいことがあって。ちょっと場所移したい」


「ここでいいよ。ここで言って」と咲田君は冷たい声で言った。


 私は数秒間考えた後、もう一度冷たい空気を深く吸い込み、いつもと違う咲田君の冷たい目を見る。


「こういう名前のない関係じゃなくて、私、咲田君の恋人になりたいの」


「無理」


 即答だった。


 私は恐る恐る口を開く。


「どうして?」


「だから、最初から無理って言ってたじゃん。カ、ラ、コ、ン。つけてる女無理って」


 咲田君は自分の目を指差しながら言った。


「今日はつけてないよ。もうつけない」


「無理」


 また即答。


 私はもう一度問う。


「どうして?」


「だって、可愛くないんだもん」


「……そうだよね」と、聞こえるか聞こえないかくらいの声で答え、視線を落とす。


「今日はもういいや。じゃあね」と、咲田君は言い残し、颯爽と街の中に消えていった。




 家に帰るなり、私は鏡を覗き込む。


 鏡の中の私に「可愛くないね」という言葉を投げつけた。


 ソファーの上に投げたバッグの中からスマートフォンの通知が鳴る。

 バッグの中に手を入れ、乱暴にスマートフォンを探す。


 画面を覗くと、咲田君の名前とメッセージが表示されていた。


【今度会うときはカラコンつけてきてね】


【うん、分かった】


 私はそう返信してしまった。

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カラーコンタクトを嫌がる君は、カラーコンタクトをつけた私を褒める 花火仁子 @hnb_niko

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