第53話 アクシー


「わあ、可愛い子もいるじゃないか!」

「あら、私の良さがわかるたぁお目が高いね!」


 ひらひらと宙を舞いながら、歌うような歓声。

 こちらを向いて嬉しそうにそんなこと言われちゃあ、おねぇさん黙ってられないよ。

 腰を引いて左手を添わせ、右手のピースの間からウィンク!

 女児の身体を活かしたキューティーポーズで歓待してやろう。

 多分、トライトさんが探してたのはこの子だろうし。


「さっきはレーダ。今度はコイツ。目移りの激しいやつだな」


 コイツって……ま、君に向けたものじゃないからいいけどね。

 ていうか、アーネスはどうしてそんなに敵対的なんだい?

 確かに若干鼻につく話し方な気はするけど。

 お姉ちゃんに関わってるからって言うには、ちょっと当たり強くない?


「そりゃそうだ。僕が惹かれたのは、意地っ張りな強さと幼き弱さを兼ね備えた、あの少女の方だもの」


 おや、なかなか的確なお姉ちゃん評だこと。

 なかなかわかってる子じゃないの。

 言い回しがちょっと気持ち悪いけど、それ以外はポイント高いよ。


「対して、君には何の価値もない」


 あー、ゴミカス。

 初対面の人も居るのに、なんでそう強い言葉を使うかね。

 私からの好感度を意識していないのかな?


「あなたねぇ……」

「やめとけノエル」

「なんでよ!」


 ここは私がお説教しないと気が済まないぞ。

 取引先に、第一印象で舐められたら終わりだからね。

 それに、友人をけなされて黙ってられるほど、私は寛大じゃないんだけど。


「周りを見ろ。もう始まってる」

「え?」


 言われて気付いた。

 いつの間にか辺り一面に、霧が立ち込めている。

 浜辺にいたはずなのに、水面も見えなくなるほどの濃霧が。


「なに、どういうこと!?」

「落ち着きなよ。ネルレイラ王に誓って、僕の試練は簡単さ」


 なに、用事ってそういう感じの方向性だったの?

 力を貸してほしいなら、汝の力を示せみたいな?

 そんなこと言われても私何にもできないんだけど。

 ぴちぴちの、か弱き幼子なんですけど。

 襲ってくる魔物、全部倒せみたいなこと言われても困るんだけど。


「この浜辺のどこかに……」

「アクシー、やめなさい」


 と思ったら、静止が入った。

 今までずっと黙っていたトライトさんだ。

 名前っぽい呼び方をしているし、やっぱり知り合いだったみたい。

 こんな急なこと説明してなかったもんね。流石に間違いなんだよね。


「トライト。悪いけど、二連続で試練を邪魔されて黙ってられるほど、僕は大人じゃないんだ」

「それは災難ですが、私たちに関係のないことでは?」

「いいや、あるさ。そこの赤ガキが全部知ってる」


 赤ガキって、そんな寿司ネタみたいな。

 冗談はさておき、どうやらこの妖精さんはアーネスのことが相当気に入らないみたいだね。

 あるいは、アーネスがいる状況で嫌な思いをしたから、八つ当たりがしたいのか。

 どっちにしても、アーネスに関係あるのは間違いなさそう。

 トライトさんに向けて、ちょっと後ろめたげに頷いてるし。


「……そうですか。でしたら、真っ向から行きましょう」

「話のできる大人は嫌いじゃないよ。元から知ってはいるけどね」


 あー……もしかして、試練キャンセル失敗した?

 交渉決裂ってわけじゃなさそうだけど、こっち側が折れちゃった?

 うーん……まあ、この世界の妖精について知れるなら、悪い展開ではないけど。

 やっぱり身の危険があるのは嫌だな……


「大丈夫ですよ。全て私が何とかしますから」


 そう? 本当に?

 信じていいのかしら。

 現代日本の特産品、死亡フラグに見えるけど、こっちの世界では違うのかしら。


「いや、俺にもやらせてくれ」


 おや、アーネスが何やら勇まし気だ。

 砂浜から一歩ザッと踏み込んで、自分から参戦の申し出をするなんて。

 なんというか、覚悟が決まってるね。


「……いいですよ。ただし、できる範囲でとどめて置いてくださいね」


 まーなんというか……私の意思表明は、もうできそうにないかな。

 二人とも乗り気になったんじゃ、私も覚悟キメるしかなさそうね。

 危ないこと、できればない方が助かるけど……


 奥の手を使わなくて済むことを祈るよ。

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