少女の運命論

葉月楓羽

少女の運命論

「偶然はたったひとつだけならただの偶然だけど、ふたつ重なったら、それはもはや運命だよ。」

そう度々口にしていた少女を、少女の声を、顔を、匂いを、色を、そのすべてを鮮やかに思い出すことがある。


空が真っ青で融けてしまいそうなほど暑かった頃、僕がまだ学ランなんて着ていた頃、その少女はいた。

綺麗な黒髪を揺らし、くるりと振り返って笑顔を咲かす、そんな少女だった。

少女は自分だけの世界を持っていた。僕はそんな少女の世界が好きだった。


吸い込まれそうな青の中、その日も少女の世界を聞いていた。

「あのね、運命は両目で真っ直ぐに見据えないといけないの。

どんなに信じられなくても、受け入れないと進めない――そう、死んでしまうのと同じだから…」

そう言いながら、少女はくるりとこちらを振り返った。そして、宝石のような目で僕をじっと見つめ、にこりと笑った。

僕はその笑顔に見とれていた。

少女の瞳の中で時が止まっていた。まるで一つの魔法にかかったように。

ふと白い鳩が数十羽、僕らの前をざぁーっと横切り、きっと映画の主人公になった気分でいた。

これは、「偶然」だった。きっと。


次の瞬間、パッと少女の笑顔が弾け散った。比喩なんかじゃ、なくて。

偶然、僕が、僕たちがぼぅっと幸せに浸っている時、信号無視の車が少女のもとへ突っ込んだ。

車は何事もなかったかのように走り去っていった。

「ヒキニゲ」言葉は知っていても、いざ自分の目の前で起こると情報処理ができなくなる。

ただ、僕はずっと少女を、少女だったモノを見据えていた。両目で、真っ直ぐと。

これは、2つの偶然が重なってできた「運命」。


『あのね、運命は両目で真っ直ぐに見据えないといけないの。』

ただただ、魔法のように、あるいは呪縛のように、僕は少女から目が離せなくなっていた。





今でも、そんな夏の日をふと思い出すことがある。

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