地球に奇跡を。-地球で魔法のある生活が、始まりました-

久遠 れんり

第一章 何かが起こった

第1話 神のミスと混乱

「うん? おかしいな。実行」

 世界の狭間で、コンソールを操作する神が一人。


「コマンドが通っていないのか? チェックコマンドを実行」

 だが、動く気配が無い。


 新たな世界を構築中、実行命令が通らなくなってしまった。

 重積層型コンソール。

 宇宙の誕生から終焉までを、条件を決め。その中での物理的、またその他の理を決める。

 変数は足りているし、突発的エラー回避の分岐とサブルーチンも正常。


「おかしいな。仕方が無い。こういうときは、上部の右隅。此処に四五度で、軽く手が痛いくらいの力で、ほい」

 手がぶつかった瞬間、キーィィンと硬質な音が鳴り響く。


 その時、新宇宙実現空間に溜めてあった神気が、オーバーフローをして、四方へと走った。

「ピッ」

 そんな音がして、コンソール上で命令が走り、モニターの前にある空間に大きな渦ができはじめる。


 宇宙構築用に、空間へとエネルギーが注入される。

 注入されると、まばゆいエネルギーは一度中央に集まり。

 そこで爆発的なエネルギーを放出し、原子や中性子が形作られる。

 それが、一部に集まると、さらに反応をして、さらに爆発をして分解。

 また集まり、そんな反応を繰り返しながら、数限りない種類の物質が創られる。


「よおーし。動いた」

 その神は、一仕事終わったと、棚にあるソーマが入ったとっくりを咥える。



 時は少し戻り、斜め四五度に刺激を加えて、余剰エネルギーが降り注いだ宇宙の一つ。宇宙全体に謎の振動が発生。空間震により、いくつかの銀河が軌道を変えた。

 それはまあ良い。

 

 それから少しして、ある宇宙の、天の川銀河と呼ばれる所。

 その腕の一つ。オリオン腕の内側の縁近くにある太陽系。

 その第三惑星の地球にある、日本と呼ばれる所。


 そこの、原住民が住む家の一つ。

 その一室で、事件は起こる。



 今現在、鼻の頭をすすで汚し、下着姿で正座をしている女の子。

 幼馴染みの鈴木 彩。

 身長一六〇センチでトップ八二だか八三のCであるはずの胸が目を引く。


 俺はこの部屋の持ち主。

 片手に消火器。

 床には、彩の服が燃えたときに、覆うために使った毛布。


 少し前。やつはやって来た。

「竜ぅちゃん。これ見てぇ」

 おっそうだ。俺は竜司こと、佐藤 竜司。こいつと同じ高二。


 こいつは、ノックもせずに部屋へ入ると、両手から火を出しやがった。

 しばらく前から、世界中でそんな事例が出始めた。

 でだ、それは良い。


 こいつは、嬉しそうに火を出した手を俺に向かって振った。

 まあ、燃えるよ。

 家の中、可燃物だらけだもの。


「うきゃあ」

 そんな変な声がして、燃える布団から目を離し、彩を見る。

 自身が着ている服の袖にまで火がつき、こともあろうに、火を纏ったまま服を叩く。当然火は広がる。


「火を出すな」

 そう言い聞かせて、毛布で彩の体を一気に包む。

 火が消えたのを見て、やつの服を脱がせて腕とかを見る。

 火傷はなさそう。

 

 だが、安心は出来ない。

 廊下へ出て、消防署の方から来た人に買わされたという。消火器六本詰めの段ボールから一本取り出し、安全ピンを抜く。


 布団や、毛布を引っくり返しながら、吹き付ける。


「どわぁ、げふっ」

 むせながら、窓を開ける。


 夕日とやわらかな風が吹き込む。部屋の中は消化器による白い空間。

 幻想的な部屋の中、そのバカはふくれっ面だった。

「なんだよ」

「竜ちゃんに脱がされた。無理矢理」

「ばっ。おまっ。脱がさないと服が燃えていただろ」

「そうりゃ、そうだけどぅ。心の準備というものがぁ」

 そう言って、くねくねし始める。


「まあ、分かったけれど、火傷はないか?」

 そう言うと、すくっと立ち上がる。

「背中の方とか大丈夫そう?」


 そう言って俺に背中をみせる。

 久しぶりにまじまじと見る彩は、ウエストがくびれ、ヒップも大きくなって、夕日の中でも肌の白さが分かる。

 そして、こっちを向く。

 ぷっくりと大きくなった胸。


「はずかしい」

 そう言って、何故か抱きついてくる。


「うふ。竜ちゃんドキドキしてる」

「ばっ。そりゃするさ」

 なんだか良い雰囲気。


「おじゃま。こりゃまた大変だ。竜司、掃除機。いやその前にスエット」

「へーい」

 うん。家の母さんが入ってきた。


 裸の彩が抱きついている現場。

 騒がれても鬱陶しいが、何も言われないのは気になる。

「あのこれは」

「ああ、少し前に彩ちゃんが走り上がったから。どうも火を出す能力でも授かったようだね」

「ああ。うん」

「ほら早く。スエット。その後、掃除機」


 その後、部屋をかたづける。

 燃えた布団などは大きめのビニール袋へ放り込む。

 昔使っていた布団や毛布、古い物をとりあえず引っ張り出す。


 その晩、彩の両親もやって来て、事の顛末を話す。


「いや、うちのバカ娘が申し訳ない」

 彩のお父さんもお母さんも顔見知りだ。

 彩の所は姉妹なので、俺はアウトドアが好きな彩のお父さんに、事あるごとに連れ出された。


「そうか、不始末の詫びに、ちと早いが貰ってくれ」

 突然のお願い。訳がわからない。


「酔っ払い?」

 思わずそう言ってしまう。


「いやあ、鈴木さん。昔っから言っていたが、彩ちゃん。家に貰って良いのかい?」

「竜ちゃんならしっかり者だし、安心できる」

 鈴木のお義父さんが言い切る。


「そうねえ。竜ちゃんかっこいいし。お勉強も出来るんでしょ」

 お義母さんまで。


「そうねえ。そこそこかしら?」

 そう言いながら、何故か通知表が出てきて、テーブルに広げられる。


「ちょっと待て、それ俺の」

「良いじゃ無い。あらあ、九と一〇ばかり。そうよねぇ。彩の通知表を見て最初五段階かと思ったけれど、これなら間違えようが無いわね」

 そう言って、鈴木のお義母さんは、彩を睨む。


 むろん、彩はそっぽを向くが。意味は無い。


 そんな騒動のあった晩。

 何故か幼馴染みである彩は、一気に婚約者へとジョブチェンジをした。

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